46-陰と陽の双子
光の粒子となって消えた荒城を悼むように白銀と黒鉄は目を伏せる。
先程の魔法を放った時に話をしていた事を思い出し、荒城は何かの実験が成功した個体だったのだろうかとふと思う。
最後に見えた爬虫類のような体がそれを証明していた気がする。
暫くして白銀がゆっくりと目を開けては、首から足元へと伝い降りる。
その様子を見ていると黒鉄が口を開いた。
『そろそろ、某達の事を話すべきでござるよな』
「あら、いきなりどうしたの?」
『あの男を倒した事で、若も某達もレベルが上がったでござろう?何故か…話さねばならぬと思ったのでござる』
黒鉄が肩の上でふと思い付いたかのような感じで告げながら俺を見つめてくる。
僅かな不安を孕んだような目に優しく背を撫でてやれば、尾を揺らしながらゆっくりと言葉を紡いでいく。
『某と姉上は、元は一つの存在とお伝えした事は覚えているでござるか?』
「ええ、覚えてるわ。ただの双子だと思ってたから驚いたもの」
『某達は突然変異みたいなものでござる。陰陽を司る存在として不完全な形で誕生したので…』
黒鉄が言葉を選びながら話す内容の情報の多さに俺は眉根を寄せつつ、話の合間に思考を巡らせる。
陰陽でよく聞くのは二つの存在が互いに互いを必要としているような別々の個体が生きる為に支え合うようなものが多かった気がする。
代表的な存在はやはり男と女だろう。
逆に黒鉄が言う一つの存在が陰陽を司るには難しいのではないかと思ってしまう。
そもそもが両方を持って生まれる存在の方が至極稀でイレギュラーなのではないだろうか。
『姉上は陰の気を、某は陽の気に連なる属性を扱えるのが証拠でござるな。後は、己の気に反する事をすると業が貯まるでござる』
「業って、マオやヴィオラ達にはなかったあのステータスの事かしら?」
『そうだと思うでござる。某達は若が何をどう把握しているのかは分からぬ故、憶測でしかお答え出来ませぬが』
白銀が荒城の倒れた場所まで来ると、頭上を見上げたかと思えば大きな口を開ける。
何をしているのかは分からないが、神聖な何かを見ているような錯覚に陥る。
何かがカチリと切り替わるような音がし、瞬きをすると白銀が何をしているのかが分かるようになった。
「…あの黒いのは、何?」
『先程倒した男の咎でござる』
「なんで、そんな物を白銀が喰らってるのよ」
『…それが、我らの役目でもあるからでござるよ。と言っても、本当にそうなのかは朧気なので分からぬのでござるが』
『うぅぅぅ!まっずい!』
黒い塊を吸収し終えた白銀の第一声に、黒鉄との話を中断して歩み寄れば苛立たしげに尾で地面を叩く姿を見ながら手を差し出す。
体を伸ばし手首に絡み付くとそのまま首に緩く巻きついては、げっそりとした顔で遠くを見つめている。
「き、君の連れてる使い魔は一体何なのよさ!それに…なんでそんな女の格好…むぐっ…!?」
「ごめんなさいね。色々と事情があるのよ」
呆然としていたPrettyが立ち上がると此方に歩み寄ってきたかと思えば、大きな声で捲し立てるのでそっと口を手で覆っては不満気な視線を向けてくる。
果たしてこの仮面の能力が人間にも効力があるのか分からないが、記憶の操作をしようと試みる。
目の前に能力を使用するかのメッセージウィンドウが表示されたのでYESを選択すれば、Prettyの瞳が催眠を掛けられた人が見せる虚ろな物になる。
「貴方は私の本当の性別には気付いていない…。ただの女に助けられただけ、よね?」
「うっ…」
「あら、疲れていたのかしらね…。それとも気が抜けちゃったのかしら?」
小さく頷いた後にPrettyの身体がぐらりと揺れるとその場に倒れてしまいそうになるのを抱き留める。
横抱きにしてTrickyの方へと歩いていくと、まだ呆然としている彼にPrettyを差し出す。
思わずというように受け取る姿を見てから、インベントリを開き気付け薬と回復薬を取り出してせめてものお詫びに渡しておく。
「良かったらコレ、使ってちょうだい?気付け薬はレモン味、回復薬はメロンソーダ味にしてみたのよ。いつか会ったら感想を頂戴な」
「わ、わかったよぉ…。君、強い使い魔連れてるんだねぇ?」
「ふふっ、女の一人旅だと強い味方がどうしても必要なのよ。私は他にもやる事があるからここでお別れね。暫くは結界のせいでここから離れられないとは思うけど…無事を祈ってるわ」
それだけ告げると軽く手を振ってから踵を返して荒城が現れた方へと走る。
やらなければならない事がまだあるのだが、黒鉄と白銀の話をもっと詳しく聞いておく必要がある。
『黒、どこまで話したん?』
『姉上の雄叫びのせいで中断となりもうしたが、業に関する事を話す寸前でござったかな?』
『なんや、小難しい所を残したんか。後回しにも出来ん部分やん』
「取り敢えずは研究施設を探さなければならないから戦闘は極力避けるつもりよ。魔力回復薬、飲んでおきなさい」
『わてはサラミ味!』
『某はグレープ味が良いでござる』
「本当にサラミ味を飲むつもりだったのね…」
『あったり前やん!肉の味を忘れんようにせんと…』
苦笑混じりにそれぞれ所望された味の魔力回復薬を飲ませる為に一旦木の上へと移動する。
木陰などに隠れても方向によってはバレてしまう事を考えれば、ここが一番安全と言えるだろう。
リストバンドから通知音も鳴ったので、少しの間だが小休憩をとるのだった。
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