44-共闘・後
俺が前に出てきた事が余程嬉しいのか歯を見せて笑うと、引き千切られた事で荒城の武器と認識されている鎖の長さを確認しておく。
1m位の長さだが、拳と共に振り抜かれれば相応の長さになるので当たらないように気を付けなければならない。
白銀も預けてくれば良かったなと思いつつ、深く深呼吸をする。
一瞬の隙が命取りになる。
自分の心臓の鼓動が緊張しているからか耳元で鳴っているような錯覚に陥るが、背を叩かれ横を見れば白銀が悪戯っ子のような笑を浮かべながら声を掛けてくる。
『なんや、旦那はん…緊張しとるん?』
「そりゃね…緊張するわよ。掛かってるのは私の命だけじゃないもの」
『かーーっ!そないに気負う必要あらへんやん…。あの人達かて自分で判断して動ける一端の戦闘員やろ?』
「オンナァァァ!オマエ、ツレカエル!…アイツニ…ワタ、スッ!」
『あらら、旦那はんの緊張も解れてないっちゅうんに…』
言葉と共に腕を伸ばしてくる荒城の手を躱せば、腕が伸びきった所で後からこちらへと向かってくる鎖が切れるか確認する為に、剣を振り下ろしてみるも金属同士がぶつかる音のみ響き渡る。
衝撃を利用して距離を取れば動こうとするも足を拘束する氷と、足の甲に空いた穴の痛みに荒城は思うように動けず怒りに目が血走っている。
この足が拘束されていなければ、先程の潰した獲物を追い詰めた時のように動けたのにとでも思っていそうな顔をしている。
「完全に懐に入った時にしか攻撃が出来ないのは歯痒いわよねぇ…」
『元々の性格があらそうやし我慢は効かなそうやんなぁ…奴さん』
「そうね、もっと感情的になってもらう為に近寄らないといけないんだけど…。気が進まないわ…」
『捕まったら捕まったで黒幕さんの所には行けそうやけどな?』
「捕まったら男だってバレかねないわよ?私、そこまで線細くないもの」
『じゃあ、あのすばしっこい姉ちゃんには性別バレとるかもな!』
「多分ね…さっきから視線が半端ないもの」
荒城を煽るようにわざと近付いて振り抜かれる棍棒を避けては、チャクラムで付けられた傷に剣気を纏わせた刃で追い打ちを加える。
棍棒を振るも近過ぎて捉えることが出来ないと思ったのか、すぐ拾える位置に捨てたのを見てさらに油断出来ない状況に変わってくる。
それに、先程から俺を食い入るように見ているPrettyの視線も気になって仕方がない。
『旦那はん、この花を作っとる毛玉の様子が変や。もうすぐ効果切れるかもしれへんで』
「それは困るわね」
『でも、コイツを見とって思うんやが…人の形しとるけど、ホンマに人だったんかね?』
「どういう意味かしら?」
『んー、なんちゅうか。普通の人間に感じるようなもんがコイツには少しだけあるけど本質が違うっちゅうか…』
「まぁ、普通の人間がこんなにでかい訳ないわよねぇ…」
『亜人種でも無ければ…巨人種でもない…。せやけど、コイツはなんや…人の何かを用いられとるとは思う…セラが居ったらなんか分かってたかもしれへんな』
棍棒を捨てた事でフェイントを混ぜて俺を掴もうとする荒城の動きについていけなくなりつつある事に思わず舌打ちをする。
あまり言いたくは無いが、肩に負わせている傷も筋肉を削りもうすぐ骨が見えそうなほどには抉れている。
動きが激しくなるに連れ決定的な一撃を与える隙が無くなり、避けるだけで精一杯になりつつある状況である。
『ダメや、毛玉が消える!地面に降りんと落下するで!』
「しょうがない!一旦降りるわよっ」
伸ばされた手を避けてかろうじて残っている花を使いながら地面へ降りると、毛玉がゲートの中に消えれば花弁が辺りに舞い散る光景が広がる。
足場が無くなった事で近付きづらくなり、次の策はどうするかと思い始めた所で荒城がやって来た方から何か光る物が見えた。
小さい何かが少しずつこちらへと近づいてくるのを見て思わず俺は笑みを浮かべてしまう。
荒城の足を拘束していた氷の花も持続時間が終わってしまったのか溶け落ちていく。
「ザンネンダッタナ!!オレヲジャマスルモノ、ナクナッタ!!」
『パパをー!!虐めるなぁぁっ!!』
『姉上ー!若ー!某が来ましたぞぉぉ!』
「……え、マオの手にある物はいったい?」
耳に届いた声に白銀も顔を上げ、遠くに見えた別行動をしていた二匹の無事な姿に安堵するも、マオの手にあるミニバズーカの様な物を構えている姿を見てギョッとする。
ゴーグルを付けて黒鉄に指示を出しながら荒城の股下に潜り込んだかと思うと、マオの持っているミニバズーカの引き金が引かれたのか発射口から光の玉が飛び出す。
走りながら撃っているが、しっかりと股間に直撃すると爆撃音のような凄まじい音と共に火柱が上がる。
『ギャアァァァァッ!イ゙ダイッ…アヅィイィ!!』
「うわぁお…えっげつなぁい…。ボクちゃんも玉がひゅんってなったよぉ…」
「トリトリっち、起きたのよさ!?心配したのよさ!」
「……元はと言えばプリプリっちの肘のせいだけどねぇ?」
背後でTrickyとPrettyが何かを話しているようだが、マオの一撃で荒城は膝を折り炎に巻かれながら痛みに悶え叫んでいる。
あの一撃でも息絶えないことに感心しつつ、まだ戦いは終わっていないがマオ達と合流出来た事に安堵してしまう。
『パパーッ…………え?誰?』
『………姉上、この奥方は何方でござるか??』
「………白銀、マオ達に伝えなかったの?」
『ぶふっ…やって、言わん方がおもろそうやなと思って…』
こちらへと走ってきたマオと黒鉄の怪我を確認しようとしゃがんで手を伸ばせば、俺の顔を見て動きを止めてしまう。
マオは手を広げたまま動きを止め、黒鉄は目を見開いたままである。
まさかと思い白銀を見れば身を震わせながら笑いを堪えていた。
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