43-共闘・中

時間経過により荒城を拘束していた鎖が消えるも、足の甲を白銀の地針に穿たれているせいかその場から動けないでいるようだ。

少なからず話し合う時間が出来たことに俺は安堵の息を漏らすと、二人へ視線を向けて声を掛ける。


「このままだと連携も取りにくいから今の内に軽く自己紹介しちゃいましょうか…。私はアイラ。少し剣も扱える商人よ」


『しれっと偽名を名乗れる旦那はん、尊敬するわ…いてっ!』


「ボクちゃんはTrickyだよぉ。職業はこう見えて召喚士。よろしくね、アイラちん!」


「アタシはPretty!職業は回避特化型のシーフなのよさ!索敵、諜報とかも得意なのよさ」


簡単に職業を交えた自己紹介をしてから所持しているスキルの情報を共有し合う。

途中茶化しに来た白銀の頭を小突くも、事前に商人と言っておいたお陰でパッシブ以外の攻撃系のスキルが使用できない事は納得して貰えた。

その代わりに使い魔が魔法で援護する事を告げると驚いたように白銀を見ていたが、深くは詮索されなかった。


「今はこの子しかいないけど、もう一匹こっちに向かってきてるからその時は声を掛けるからアイツから離れてちょうだい」


「んー?離れる必要あるぅ?」


「もう片方の使い魔の魔法の威力が半端ないから、としか言えないわね」


「アタシらもフレンドリーファイアで死ぬのはゴメンなのよさ。トリトリっち、ちゃんと距離取っておくのよさ」


「わかったよぉ、プリプリっちぃ」


白銀の地針が消えると足の甲と膝にかなりのダメージがある筈なのに、平然とした様子でゆっくりと荒城が俺達の方へと距離を詰めてくる。

先程までの勢いは殺せているのかもしれないが、腕の方は傷を付けられていない為、パワーの方は落とす事が出来ていない。

どうにかして腕へもダメージを与えられるように、拘束や妨害をしながら攻撃を与えられる隙を作って行く他ないのだ。


「白銀、さっき言った拘束用の魔法の準備はできているかしら」


『バッチリや!いつでも言うてくれたら発動するで!』


「じゃあ目標は今負傷の酷い方じゃない足を凍らせて頂戴ね。負傷した足に添え木を与えてやる必要はないわ」


『そ、そそそ、そんなウッカリなんてするわけないやろ!!』


「Prettyさん、白銀の準備が出来たわ!奴の気を引きながらどちらかの腕にダメージを蓄積させてちょうだい」


「任せるのよさ!」


「Trickyさんは、Prettyさんが危険だと思ったら召喚でサポートして」


「はいはぁい!まぁ、何が来るかは運次第だけれども頑張っちゃうよぉ!」


白銀に発動するように告げれば、先程の氷結牢華の特性を活かし足の甲を対象として鋭利な花弁が足首に刺さりながら荒城の足を拘束する。

それを見てからPrettyがチャクラムを持ちながら駆けて行く。

Trickyがカードを切ってから一番上の物を捲ると、頭上に翳し背後にゲートが現れる。

頭から花を生やした毛玉が転がり出てくると、その場で弾んでから身を震わせる。


「優しき心を持つ精霊。戦いを嫌うも友の為に精一杯の牙を剥く…」


「あの毛玉、少し可愛く見えるわね…」


『なんや旦那はん!!浮気か!?兄さん達にチクるで!』


「ちょっと可愛いって言っただけで大袈裟ねぇ…。さてと、私も動くわね」


毛玉の頭に付いている花が揺れると、胞子のような物が宙に撒かれると大輪の花がそこかしこで花開く。

Prettyは足場代わりに軽快にその上を跳ねるように踏んで荒城の腕の傍まで行く。

持っていたチャクラムを振り下ろし肩に食い込ませ己の体重を乗せた一撃を叩き込む。

人の体重が乗った一撃には荒城の硬い皮膚も耐えられなかったのか、傷付いたのが見えるも怯むことなくアッパーのようにPrettyを狙って振り抜かれた拳を、回避対応ができずにチャクラムの腹で受け止める。

頭上に叩き上げられたPrettyを見て即座に俺は荒城の方へと走る。


「プリプリっち!!」


「アタシの方は大丈夫なのよさ!トリトリっち!サポートの手は緩めたらダメなのよさ!」


「Trickyさん、Prettyさんを受け止めてちょうだい!男なら、出来るでしょ」


「デテキタナ、オンナァ…!!」


「へ?アイラさ…んぇぇっ!?」


「来てやったわよ…。アンタのその腕、私がたたき落としてやるわ」


俺の動きを察したかのように道標の如く目の前に現れた花を足場に、位置を確認しながらPrettyの元へと走る。

落下速度をどうにかする術はあるのだろうが、次の手を打つ為には彼女を回収しなければ巻き込まれてしまう。

Prettyを抱き留めるようにして腕に収めると、いきなりの事に動揺しているのが分かるがTrickyの方へと体を向き直す。

小さな深呼吸をしてからTrickyの方に向かって落ちていくように放る。


「死んでも受け止め…へぶっ!」


「あいたたた…いきなり酷いのよさ…」


Trickyが腕を広げて受け止め体勢に入っていたが、Prettyの肘が顔面にめり込むような形でヒットする。

悲痛な叫びを上げながらも、結果の上では全身を用いてPrettyを受け止める形となったので良かったと言えば良かったのかもしれないがかなり痛そうである。

俺はそれを横目に確認してから傷が付いている箇所に追い打ちを掛けるべく武器を構えるのだった。

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