42-共闘・前
投げたトランプは荒城の肩に命中したが傷を付けることも無く弾かれる。
続いて小さなチャクラムを女が投げつつ、インベントリを操作しているような仕草を見せた後、大きめのフラフープ位の持ち手のある刃の分厚いチャクラムを取り出し、荒城の足元へ向かい突っ込んでいく。
チャクラムを棍棒で受け止めつつ、荒城はより一層笑みを深めるとバッターが振りかぶる様な構えをとる。
その様子に怯んだ様子もなく女は背後に居る男を伺い見ると、鼻歌を歌いながら今度はトランプではなく違う種類のカードの束を切っている。
「さて、今日のボクちゃんの運勢は何かなぁ?」
「トリトリっち!ふざけずちゃんとやるのよさ!」
「うーん、プリプリっち…これは博打だからボクちゃんにもどうにもならないかなぁ?」
荒木の振る棍棒を少ない動きで避けてから切り上げるようにチャクラムで女が腕を切り付ける。
その様子を見て笑いながら男が一枚のカードを捲ると、僅かに目を細めてはそのカードを頭上へかざす。
金色の眩しい程の光がカードから放たれたかと思えば 、何も無かった筈の場所に一枚の扉が現れる。
ゆっくりと扉が開かれ中から何本もの鎖に巻き付かれた何かが姿を見せた。
「今回は当たりって所かなぁ?」
「何かしら、アレ…」
『わてらとは違うものって感じやな…。なんて言えばいいかわからんけど…時間の決められた召喚物って感じ?』
「疑問系で言われても…なるほどとは言えないわよ?」
「そこのお嬢さん!今日はボクちゃんの運が良いみたいでね…いいものが見れるよぉ?」
男は唇に指を当てながらウィンクをすると、鎖に巻かれたソレがゆっくりと動きだし巻き付いていた鎖が解けて地に落ちていく。
そこから現れた美しい女が微笑みを湛えると、巻きついていた鎖が宙に浮かぶ。
「岩礁に巻き付けられた乙女…その身を縛った鎖は強固な物…。乙女の怒りか、はたまた恨みか…その鎖は仇なす敵を縛り付ける」
「トリトリっち!アタシは分かるけどその子は分からないんだからちゃんと説明してあげるのよさ!」
「あ、めんごめんごー!彼女はボクちゃんの使ってる武器の召喚獣でね!鎖がしっかりと敵を捕まえてから2~3分が効果時間って所かなぁ?」
男が俺を見て軽く説明をしている間に、召喚された女に巻き付いていた鎖が荒城の四肢と腰に
絡み付く。
しっかりと外れないように巻き付いたかと思えば、地面に魔法陣が浮かび上がり女が召喚されたゲートのような物が設置される。
鎖はその場所に根元を移し、余剰分のたるみを取るかのように牽引していくのが見える。
『旦那はん、わても出来る限り魔法でサポートするさかい…足の一本でも落とせりゃ大分楽になると思うわ』
「サポート頼んだわよ?チャンスは次、いつ来るか分からないもの…しっかりやるわよ」
小さな深呼吸をしてから鎖から完全にたるみが取れ、荒木が身動ぎ出来なくなった時を狙い俺も動き出す。
手に持っている剣をしっかり握り、膝の間接を狙って横薙ぎに振るう。
刃が膝に当たるが、荒城の皮膚は思った以上に硬く刃の先が数ミリ入った程度の小さな切り傷しか与えることが出来ない。
手応えの無さに舌打ちをしつつ、今度は刀身に剣気を纏わせ与えた傷を狙って剣を振るう。
『旦那はん!一旦離れるんや!鎖の様子がおかしいっ!』
「くっ!?」
『旦那はん!!』
剣気を纏わせる事により刃が深く入るようになれば些細な傷と放っておけなくなったのか、荒城は浮かべていた笑みを無くし、雄叫びと共に縛り付けている鎖を引き千切るつもりで抵抗を始める。
できるだけ傷を広くする為に限界まで攻撃を続けるが、鎖の軋む音と白銀の忠告の声に咄嗟に後ろに飛び退けば、引き千切れる鎖の音と共に目の前を拳が横切る。
細い物が後から俺に向かってくるのを見て、篭手をしている左腕を上げてガードの体勢をとるも、重い衝撃に眉間に皺を寄せながら後ろに吹っ飛ばされた。
『よくも旦那はんを!!穿て、地針!』
白銀の放った地針が荒城の片足の甲を突き抜けた事で、引き千切られた鎖は一本だけで済んだようだ。
痛みに呻く声を耳にしつつ受身を取りながら地面を転がると、擦り傷と打ち身の痛さに俺は眉根を寄せる。
なるべく庇いはしたが、白銀に傷を負っていないか確認しながら上半身を起こす。
「大丈夫か、お嬢さん!」
「今の一撃、よく耐えたのよさ!あのデカブツに与えてくれた膝の傷を狙ってアタシとトリトリっちで時間を稼ぐから、この回復薬を飲むのよさ!」
「大丈夫よ…回復薬なら沢山持ってるもの。あの鎖が消えないと近付くのは危険よ。避けてもこの威力だもの…」
「あー、敵に塩を送る結果になっちゃったみたいだねぇ…」
「召喚物なら効果失効時に消えるんじゃないのよさ」
「うーん、引き千切られる事が初めてだからねぇ…。どうなるかボクちゃんも分からないなぁ?」
「そこは検証しておかないとダメなのよさ!スキルとか能力関連は知っておかないといざと言う時困るのよさ!」
一旦、距離を取り俺の傍に来て回復薬を差し出しながら喧嘩のような会話をする二人を見つつ、向けられる殺気混じりの視線が俺を見ているのが分かる。
荒城の様子を伺い見ると、何度か瞬きをした後に薄らと先程までの笑みとは違うものを浮かべている。
背筋が冷えるような感覚に警戒態勢は崩さずに自分のインベントリから取り出した回復薬を飲み干すと、俺に向けて振り被った拳を開き顔を手で覆い隠しながら、指の隙間から絡み付くような視線が向けられる。
「オレノ、イチゲキデ…シナナイ…。キヒッ、ホシイ…オマエ、ホシイッ!」
『旦那はん…アカン。その仮面で魅了されてる可能性もありそうやけど、それとは違う何かをアイツから感じる』
「私は今それ所じゃないくらい色んなものの危機が迫ってる気がして冷や汗がやばいんだけど」
『………小さな兄さんに旦那はんの幸運吸われてもうたんかねぇ?』
「そんな力があったらマオを連れて歩けなくなっちゃうじゃないの…。取り敢えず、今すぐここから逃げたい気持ちでいっぱいよ」
『けど、旦那はんは逃げへんやろ?』
「まぁ、この騒ぎを起こした人間が後始末もせずに逃亡は…いただけないじゃない?」
小さな溜息と共に立ち上がれば、白銀に氷属性の拘束タイプの魔法を放つ様に指示しつつ、少しでも余力を残せる方法を考えるのだった。
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