41-凄惨な光景

マオと黒鉄と合流するべく森の中を走りながら、時折聞こえる武器同士のぶつかり合う音が耳に届く。

赤い制服を来た人物達が何か訴える様に声を掛けている姿が見えるも、金属同士の独特な衝突音も混ざっているので聞き取ることは出来ない。

この状況へと持っていったのは俺なのだが、少しばかり罪悪感は心に募る。


『そこかしこで戦闘しとるな…。兄さん達巻き込まれてなければえぇけど…』


「マオの幸運が発揮されてれば大丈夫だと思うけれど…心配よね」


『旦那はん、そろそろその口調辞めてもえぇんちゃう?周りに人も居らんし』


「そうやって油断してると急に何かに巻き込まれたりする…」


「のわぁぁぁ!!コイツ強過ぎなのよさぁぁぁっ!」


「一振で簡単にふっ飛ばされるとかマジ悲しぃ!ってかー、普通のボスより強いんじゃね?燃っえるぅ!」


風切り音がしたかと思えば気の抜けるような声と共に、受身を取りながら地面を転がり叫ぶ二つの影があった。

円月輪と呼ばれる投擲用の武器であるチャクラムを所持している女と、両手にトランプを所持した男が自分達を吹っ飛ばした何かを見据えている。

異様な気配が感じられ白銀が威嚇するようにそちらを見ていた。


『いやぁな気配があっちから近付いて来とる…。旦那はん、気ぃつけてや』


「口は災いの元ってこういう事を言うのかしらね…」


「ん?こんな所にNPC?巻き込まれたら危ないから早く逃げなぁ?」


「いやいや!こんな所にNPCが居るわけないのよさ!君!巻き込まれたくないなら逃げるのよさ!」


「ドコへ、ニゲル?ニゲル…ユルサナイ」


重いものが地面へ落ちるような音がゆっくりとだが確実に此方へと近付いており、地を這うような低い声が耳へと届く。

黒い霞のような何かが俺と、少し離れた場所に居る男と女を包囲する様に広がっている。

本能的に危険を感じるも、霞に触れるとどうなるか分からないので不用意に動くことが出来ない状況へと追い込まれた。


「白銀、魔法の準備を…。戦うしかなさそうだもの」


『あんま気乗りせんけどしゃあないよなぁ…。後で旦那はんの精神回復薬のサラミ味、用意しといてや』


「………あれ、不味くない?」


『肉禁止なんやもん!味するもんなんでもえぇから口にしたいんや!』


怒りながら魔法の準備をする白銀を横目に、足音が止まったかと思えば人とは思えぬ程の背の高い何かが姿を現す。

人型を保っているが、異常に発達した四肢の筋肉に肌は浅黒く虚ろな目をした男がこちらを見ると、下卑た笑みを浮かべながら武器であろう巨大な棍棒を肩に担ぎ直す。

棍棒の太くなっている先の部分には赤い血が付いており、もう片方の手には何かを引き摺りながら歩いてくる。

何を持っているのかとよく見てみれば赤い制服を着た人であり、その手から逃れようと暴れながら必死に己を掴む男に懇願するように叫ぶ。


荒城あらぎ様!お許しくださいっ!もう、もう…逃げたりしませんからぁぁっ!」


「ダメダ…。ニゲル、キンキ…バツ、ウケロ…」


「ひっ!や、やめっ…ぎゃあぁぁ゙ぁぁぁぁっ!」


俺と目の前の男と女の傍へ捕まえていた赤い制服を着た人物を放り投げ、地面を転がると見せ付けるように棍棒を振り被りながら跳躍する。

その巨躯からは考え付かぬ程の早い動きに俺は息を呑むも、逃げようとしていた人物は足を負傷していたのか勢いと荒城の体重を乗せられた棍棒に叩き潰された。

断末魔と潰れるような異音が響き渡り、その亡骸は光の粒子となって消えたが凄惨な光景に俺は眉間に皺が寄る。


「ひぇぇ、えっぐ…もしかして、ボクちゃん達もGAME OVERになった時ってこんな感じになってんのかねぇ?」


「こんな屍晒したくないのよさ…。トリトリっち危ないっ!」


「うぉっ!?あっぶなっ!避けてなかったらボクちゃん即死ぃ!」


「そこの女の子も死にたくなかったら絶対に奴の攻撃は避けるのよさっ!」


「わ、分かったわ!」


『旦那はん、アレはわても喰らいたくないわ…いくら防御高くても無理』


「そもそも盾にする気はないわよ…取り敢えずは、マオ達との合流は見送りって所かしら」


『うんにゃ、人手は多い方がえぇから黒にはこっちに向かってもらっとる。蜥蜴の手でもあった方がマシやろ?』


「それは猫の手…まぁ、そんな事を今ツッコんでても仕方ないわね」


短剣で相手をするのは流石に難しいのでインベントリを開き、刃が欠けるのは嫌だが師から受け取った剣を取り出す。

鞘から刀身を抜き放ち、目の前の血を見た事で更に興奮している荒城を見据える。

トランプを所持した男とチャクラムを持った女の方も腹を括ったのか、インベントリから薬瓶を取り出し飲み下している。


「ちょっとだけ捜査しに来たつもりなのに困ったもんなのよさ!」


「まぁまぁ!ボクちゃん達、こういった荒事も大好きだしいいじゃんプリプリっち!」


「そうだけども、流石に相性が悪すぎる気がするのよさ…。そこの女の子!見た所アタッカーさんかな?アタシとトリトリっちで隙を作るから足か腕を狙って無力化を狙って欲しいのよさ!」


「分かったわ。そこまで攻撃に自信はないけど…」


『わてもサポートするから大丈夫や!黒には特大魔法を用意させとるから期待してえぇで!』


「その魔法は皆を巻き込まないわよね?」


『…………………………大丈夫や!』


「信用ならな過ぎるわね!」


念の為に変声用の飴をもう一つ口に入れつつ、インベントリの薬の量を確認しておく。

いざとなれば即座に作れる材料も残っているので作ることも視野に入れつつ、男達の方に視線を向ければ用意が出来たと分かれば、持っているトランプを荒城に向けて投げたのだった。

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