40-黒い牙の反逆

暫くの間、睨み合っていたがアギトが観念したように手を上げると、セラフィが俺の方へと戻ってきたのを見て浄化が完了した事が分かる。

指輪の光も消えており、現在効果が発動しているのは精神耐性という所だろう。


「身体の主導権を奪われてた間、俺もただボーッとしてた訳じゃねぇ。アイツらへの落とし前は自分で付ける」


「具体的にはどうするつもりなのか、簡潔に分かり易く言ってくれないかしら?」


「チッ、これからうちのヤツらに今までの俺の状況とヤツらがやろうとしている事を伝えて阻止するんだよ」


「そう…。今までにドラグの繁殖にはどれぐらい成功してるの?」


「そこら辺の記憶は朧気なんだが…今中央の生息地に居るのは五匹は居た筈だ。どっかにヤツらの簡易的な研究施設もあるだろうよ」


体を動かして確認したいというアギトの言葉に、暫し悩んだ後に許可を出せば首に掛かっている髪を払いセラフィへ視線を送る。

小さく頷いてから自分の体へ戻るのを見てからアギトへ視線を向けると、不敵な笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。


「もう少ししたら貴方達の拠点を囲むように外へ逃げる事が不可能になる結界が張られるわ」


「なにっ?」


「アナタ達が手に負えないような奴らで仲間を呼ばれたら困るからあくまで保険として用意していたものよ。でも、今回はアナタ達の役に立つかもしれないわね?」


「………礼は言わねぇぞ?」


「元よりそんなもの言われるつもりもないわ。アタシはこれからその研究所を探して潰すつもりだし…だから、他のは任せたわよ?」


『旦那はん、そろそろ破られる!用意してや!』


白銀が空気を読んで黙っていてくれたお陰で話し合いがスムーズに進んだので、優しく頭を撫でると腕に巻き付くように告げつつアギトを見る。

何やらリストバンドを操作しているので他の連中にまで話をすることが出来たのだろう。

自分の獲物をインベントリから取り出すと、片手剣の中でも湾曲した刃に三日月刀とも呼ばれる事のあるシミターを二本手に持っている。

確か普通の剣よりも軽いので扱いやすく、盗賊や暗殺者などが好んでいると聞いた気はする。

出来れば扱う姿が見たいとは思うものの、氷が破壊される音にそちらへ顔を向ければ分厚い氷を突き破った炎を纏う拳があった。


『わお…かなり厚く作ったつもりやけど…ソレを拳でぶち抜いてくるやなんて凄いねんなぁ』


「感心してる場合じゃないわよ?取り敢えず、テーブルの上の素材はこっちで回収していくわ。本当に売る気なんて少ししか無かったし」


「なんだよ、良い品もあったんだから本当に取引してくれていいんだぜ?」


「ここから出てアタシをまた見つけられたら考えなくもないわね」


「その言葉、忘れんなよ?」


『稀代の悪女っちゅうか、魔性の女商人やなぁ…』


炎を纏わせた拳が穴から引き抜かれれば、その穴から見える麗阿と視線が逢うと僅かに頬を引き攣らせるも、アギトが俺の前に立ちその背後に居る哪柁を睨み付けている。

アギトの様子を見て哪柁が目を見張ると、あからさまに眉間に皺を寄せれば麗阿に声を掛けようとするが、こちらが動く方が早かった。


「白銀、氷を溶かしてあげなさい」


『はいな。ほな、頑張りや…うちの旦那はんに劣る色男はん?』


「なんか、その蛇ムカつくな…」


「ほら、油断してる間に早く行きなさいよ」


白銀の瞳に光が宿ると頭を振る。

その瞬間、覆っていた氷が瞬時にただの水へと変わる。

アギトが駆け出し、水の壁を突き破ってシミターを哪柁に振り下ろすのを見届けている間に、テーブルの上の素材をインベントリに回収する。

麗阿がこちらを標的として突っ込んで来るのを見れば、即座に持っていた短剣を構えるも目の前を棒のような物が通り過ぎた。

急な事に目を見張るも、ここまで案内してくれた男が俺と麗阿の間を隔てるように立つ。


「話はギルド長から聞いた!俺らの大事な人を助けてくれて感謝する。ここは俺が引き受けるからアンタはアンタのやるべき事をやんな」


「なっ!なぜ私の邪魔をする!敵はこの女だ!」


「うるせぇ!!ギルド長に変な術を使って操ってくれたらしいなぁ!女だからって容赦しねぇぞ、ゴルァ!」


そういうと麗阿に持っている棍を振り被る男の後ろ姿を見ながら、頬に手を添えてやれやれと首を横に降ると白銀にじっと見つめられている事に気付く。

どうかしたかと問い掛ければ、頭を振り一拍置いてから今の黒鉄とマオの場所を教えてくれる。


『旦那はん…もっかいだけ確認したいんやけど』


「ん?」


『……ホンマに女やあらへんのよね?』


「…生物学上ちゃんと男だってさっき言ったでしょ?」


『うん、そうやんな…うん…。でもな、その格好と喋り口調や仕草が自然過ぎて…頭バグりそうやねん』


「それは…ごめんね?」


『まぁ、えぇけど…。うん、ヴィオの結界が問題なく作動したようやし早く黒や兄さんと合流しようや』


黒鉄とマオの場所を教えてくれる白銀と共に走り出す。

一度だけ振り返り哪柁と麗阿の相手をしているアギトと男の様子を見れば、実力は拮抗しているのかどちらもいい勝負をしているように見える。


「あ…」


『ん?どないしたん?』


「指輪、返してもらうの忘れたわね」


『あー、まぁ…諦めよか?旦那はん、また作れるやろ?』


「効果的に凄く惜しいけど…仕方ないわね。また頑張って作るわ…」


小さな溜息とともに呟けば、ちゃんと回収すればよかったと指輪の事を後悔するものの、気持ちを切り替えて合流することに集中するのだった。

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