39-浄化の時間稼ぎ・後

セラフィの補助ができそうなアイテムをインベントリから取り出しつつ、落ち込んでいた白銀がいきなり顔を上げては焦ったように俺に声を掛ける。


『旦那はん!アカン!黒と兄さんが見つかってもうた!』


「なんですって!?」


『木陰や木の上を利用して撒こうとしてるみたいなんやけど…気配に敏感な奴がどうにも難しいらしい』


「マオに道具を使うように言ってもいいんだけど…間違えて龍酔爆弾を使ったらいざと言う時の逃げの手段がなくなってしまうし…」


『黒に何かしら魔法を使って応戦するように言おか?』


『黒兄ちゃんの魔法、目立つ…』


セラフィの浄化の力を補助出来そうな十字架を刻んだ俺が作った指輪の効果を見て、一か八かでアギトに着けさせれば白い光を放ち始める。

説明には着用者の精神耐性を上げて治療効果を高めるという記載があったが、果たして浄化も治療に入るのかという所である。

だが、精神耐性が多少でも上がれば抵抗力も上がりそうだが難しいところだ。


「黒鉄に魔法を使わせてもいいのだけれど、威力が強い分目立ちかねないのよね…。そうなると、異変を感じた奴らが外に助けを求める可能性もあるから出来ればヴィオラに結界を張らせた後がいいのよね…」


『でも、中々この男の浄化が終わらん可能性もあるから何かしら手は打たんと兄さんと黒が危険になる一方やで?』


『ボクがもっと早く浄化できてたら…』


「セラフィのせいじゃないわ。この色男が意識を取り戻せば黒の牙のギルド員の方はなんとかなるかもしれないもの…逆に無理をさせてごめんなさいね?」


多少なりとも指輪の効果はあるのか、白い光がセラフィの纏っている緑色の光と同じ輝きを放っているのを見て、浄化の効果を多少なりとも増加させているようだ。

暫し悩んだ後に小さな溜息を吐いてから白銀を見る。


「仕方ないわね…。この許可はあまり出したくなかったんだけど…」


『ん?なんや秘策でもあるんか?』


「黒鉄に伝えてちょうだい…。マオに拾った道具の中から使用できそうな物を投げていいって」


『え…それは、下手したら死人が…』


「そうも言ってられないもの…。結果的にそうなってしまった場合は、私がその罪は背負うわ」


マオが投げた物でNPC、搭乗者の命を奪った場合には、自分が親なのだからその業を背負うべきである。

いくら死なないとはいえ搭乗者も痛みは感じるだろう。

NPCに関しては死んでしまえば復活出来ないのだから、例え悪い事に手を染めていようと命を奪うことは罪なのだ。


『わかった。ほな、黒に伝えとくわ』


「それでも無理そうなら黒鉄の判断に任せるとも伝えておいてちょうだい」


『了解や』


『ママ、大分浄化が進んだ。多分、会話は出来ると思う』


「ありがとうセラフィ。ふむ、確かにさっきよりも目に光が戻っているみたいね?」


「うっ…アンタは?」


「軽く確認をさせてちょうだい。こうなった経緯を話せるくらい、口はちゃんと動きそうかしら?」


「あー、んー…た、ぶん?」


「簡単な会話は出来そうなくらいの回復って言うところかしら?自分の意思で動かせそうな場所は?」


患者に確認するように一つ一つ順を追って状態を確認しつつ、手が動かせるようになったらギルド員に連絡を取るように告げながら、インベントリから気付け用の薬を取り出すと強制的に口に突っ込む。

口移しで飲ませてもらう事を期待していた可能性もあるが、男同士でしたとなればどちらの傷にもなりかねない。

味は葡萄なので不味く無いのは自分でも飲んでいるので保証する。


「うぐっ!?ゲホッ…ゴホッ!容赦なく口に突っ込む姉ちゃんだな!」


「悪いけど、色男ではあるけど…こんな事しでかす奴に優しくなんてしてやれないわよ。どう?意識はハッキリしたと思うけど」


「強気な姉ちゃんだなぁ…。自分の口がちゃんと自分の意思で動かせるってぇのはありがてぇって思うわ」


軽く咳き込みはしたものの、指先も動く位に回復したのであれば上々だ。

セラフィも先程よりも浄化しやすくなったからか抱き締めていた羽根を畳んで座るだけの状態になっている。

それだけ危険な状況だった事が分かるものの、アギト本人が理解していないのが腹立たしくもある。


「口がハッキリしてるんだったら…あの赤い服着た男と女の目的を話してちょうだい。奴らはドラグをこの地域から解き放ってどうするつもりなの?」


「あー、なんだったか?要を穢し、世界を在るべき姿に…とか言ってた気がするな。最初はまともな奴らだと思ってたんだが、騙されたわ」


「要?……他には?」


「それ以降は俺もこんな状態にされて怒り狂ってたから覚えてねぇよ…。お、指も動かせそうだ」


呑気に告げてくるアギトを睨みながら顎に手を添える。

小さな溜息を吐いてから俺はインベントリから短剣を取り出し、アギトの首筋に刃が触れるか触れないかの位置に構える。


「ここらに居る初心者達に迷惑が掛かってるんだ、真剣に答えな。さもなきゃ、ここでその首切り落としてあげるわ」


「そんな事していいのかよ?ここから逃げられなくなるぜ?」


「逃げるだけならどうとでもなるわよ…。この計画を潰すのもついでに、ね」


『旦那はん!わての張った氷への攻撃が始まった!そないに長くはもたへんで!』


首筋にある短剣の刃を見つつ、茶化すように言うアギトを睨みながら誰もが見蕩れるような笑みを浮かべるも、白銀の言葉と共に地面が揺れ始めれば中々上手く作戦通りに事は運ばれてくれないなと思うのだった。

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