38-浄化の時間稼ぎ・中
浄化に集中し頑張るセラフィの様子も確認しつつ、アギトの瞳を確認しながら未だに焦点の合わない状態である事に俺は眉根を寄せる。
『ママ、この人…かなり念入りに何かの術が掛けられてる』
『変な力が縛っとるんがわてにも分かるけど…この兄ちゃん、意識あるんかな?』
「どういう意味かしら?」
『んー、なんて言うんやろ…。旦那はんが寝とる時の静かな感じっちゅうか、ここに居るけど居ないって言うたらええんかなぁ?』
『白姉ちゃん、惜しい…。この人の魂はここにあるけど、ここに居ても何も出来ない状態…なだけ。多分、こっちの言ってる事は分かってると思う』
白銀の言葉に現実で俺がArcaに接続していない状態の時を言っているのかもしれないと推測する。
だが、セラフィの言葉によってその考えは間違っており、接続していても操作不能の状態なのだろう。
洗脳や傀儡のスキルを使われるとこういった状態に陥るのかもしれない。
あくまで推測でしかないが、それが正解であれば気をつけなければならない事が増える。
「さっきの哪柁と呼ばれた男は、依頼と言ってたわね…?」
『言っとったで。わても聞いてた』
『ボクもしっかり聞いた』
「…もしかしたら、最初はこの色男の信頼を勝ち取るべく普通の依頼を彼らは出していたのかも」
『…ん?どゆこと?』
『白姉ちゃん…ママの推理の邪魔はダメ』
『ごめんなさい…』
「なんて言えばいいのかしらね。さっき彼の傍から離れた二人組が何かしらの組織に所属しているのは確かよ。彼らの利益になる依頼を出して、それ相応の報酬を払ってもらっていたら自ずと相手を信頼するでしょう?」
『せやね。警戒心は取れるやろな』
「そうやって少しずつ信頼を積み重ねた後に…道徳に反するような依頼を混ぜ始める。請け負っている方は段々不信感が募るわよね?」
『信用出来なくなるやろね』
「色男が率いる組織に離れられては困る彼らが、この男に何かしらの術を掛けて操り人形にした後、元から悪い事ばかりに手を染める者達だと情報を操作したとすれば…?」
掲示板で聞いた話は、前線組に追い付けないからグレて徒党を組んだギルドというものだ。
PKのような行為に関しては言われていない。
団結力が強くて厄介と言っていたが、彼らが依頼を受けた上で他のギルドと狩場で衝突した可能性を考えれば、悪評を流されても致し方ないだろう。
そう考えると全ての鍵を握り、解き明かすにはアギトの証言が要る。
「白銀…外に時限式の魔法を設置してこれたりするかしら?」
『今から用意したら…確実にわてがやったってバレると思う』
「そうよね…時間稼ぎをするには何かしらの騒ぎを起こさなければならないのに…どうしたんもんかしらね」
素材同士を掛け合わせて何かを瞬時に作り出せる程、魔道具作成のスキルのレベルは上がっていない。
かと言って、マオと黒鉄に騒ぎを起こせと伝えたとして哪柁と麗阿の仲間が他の拠点にも居る可能性がある。
『うーん、うーーーん…。あ!えぇこと思いついた』
「何か良い策でもあるの?」
『旦那はん、セラ…多少寒くても我慢できるやろ?』
『ボクは寒さを感じないから平気』
「………嫌な予感しかしないわね」
『物は試しや、失敗したら黒鉄に魔法を使うようお願いするわ!』
白銀の周りを冷気が渦巻いている事に気付くと、テーブルの上の品を確認し魔石と情報に氷と記載されている物だけを残す。
いざと言う時に素材と魔石が近くにあった事で、暴走したとでも言えるような状況を作り上げると同時に背後で魔法陣が展開され輝きを放つ。
『我らを覆うは硬き氷壁、崩すは至難の清き華…
『ママ!しゃがんで!この人と同じ高さ位に!』
「え?うぉっ!?」
セラフィの言葉に瞬きするもその場にしゃがみ込めば、俺の頭があった場所を鋭利な花弁の様な氷が通り過ぎる。
もしもあのまま立っていれば白銀の攻撃でログアウトした事になっていた可能性に冷や汗が背中を伝う。
テントの壊れるような音が聞こえ、外が騒がしくなっている。
「アギト様!アギト様っ!?」
「くっ、一旦離れろ麗阿!これに触れれば我らの身が危うい!」
「ギルド長!?な、なんだってんだこりゃぁ!」
慌てたような声が聞こえていたが、氷が次第に厚くなっているのか音が遠くなっていく。
疲れたと言わんばかりに頭を垂れる白銀を気遣うように優しく撫でるも、氷による肌寒さに眉尻が下がる。
吐く息も白くなりどれだけこの場の温度が下がっているのか見当がつかない。
『いやぁ!上手くいってよかったわぁ!これくらい厚く作ればそう簡単には溶かされへんやろ!!』
『…白姉ちゃん、ママの頭が首から離れるところだった。空間の広さも考慮しないとダメ』
『……この兄ちゃんの事しか頭になかったわ』
「よくやったと言いたいけど、私の首が離れてたら逆に大変な状況になってたから…今日の夕飯から一週間肉抜きで許すわ」
『飯抜きよりかは…我慢、出来るけど…けどぉ…』
『白姉ちゃん…ボクも付き合うから…』
泣きそうな声で訴えてくる白銀を横目に、氷の壁に触れてみれば人の体温では溶けない事が分かる。
逆にこちらの体温を限界まで奪おうとするような冷たさを感じ、直ぐに手を離せばしゃがんだ状態でアギトの方へと向くとセラフィに指示を仰ぐ。
この氷が突破される前に浄化を終わらせなければ、俺の命も危ういのだからやれる事をやるまでだ。
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