31-マオの戦利品

取り敢えずファンビナ商団の荷馬車との合流地点に向かう事にする。

黒鉄とマオは迂回をしながら森の中に足を踏み入れるつもりらしく、その前に収集物を見て欲しいとポーチを差し出される。

新しく物を入れるのにも整理が必要なので、片っ端からインベントリの方へと移していく。


「今の所、インベントリがいっぱいになる量ではないからいいけど…この先を考えるとどっちも容量を増やしておいた方が良さそうだよな」


『え?もっといっぱい入れられるようになるのー?』


『兄さんがまーた張り切ってものひろいしてまうなぁ?』


『取り敢えず、兄殿…。森の中での拾い物は容量を考えてしなければなりませんぞ?』


『わかってるよー!いざとなったら投げれる道具は投げればいいんだし!』


「……黒鉄、マオの見張り…よろしく頼むな」


『心得たでござる…。暴走しないよう止めるでござるよ…』


どこか遠くを見ながら答える黒鉄の頭を優しく撫でてから岩場の上に下ろすと、マオが黒鉄の背に乗り森の方へ向かって走っていくのを見送る。


「………黒鉄が背中に乗せるほうなんだな」


『なんや兄さんが腕力すこぶるあるから負けへんように筋トレも兼ねとるらしいで』


「そうなのか…。一応、聞かなかった事にしておくな?」


『そうしてもろてえぇかな?教えたのバレたらわてが黒に一発食らわされかねへんから…』


「それは見たいかも…?」


『なんでやねん!』


白銀と行動するのは久し振りなので優しく頭を撫でながらからかって遊びつつ、何かするにしてもどこか抜けている事を思い出し大丈夫だろうかと一抹の不安を覚える。

本人は活躍する気満々で張り切っているが、空回りしない事だけ祈っておく。

取り敢えずインベントリを開いてマオが収集して来た物を確認しつつ、売れそうなものと売ってはいけないものをピックしていく。


「えーっと…魔石の欠片<最上級>は売っても良さそうだな。ホムラスの瞳、能力的に何処かの機関が欲しがりそうな…」


『ここらじゃ絶対手に入らん物なんは、わてでも分かる』


「というか、どっから拾ってくるのか逆に聞きたいくらいだ」


〈ホムラスの瞳 Rank:?

情報:天を舞う大鷲の魔力が込められた瞳。

魔法を放つ寸前の所を狙わねば手に入れる事が出来ない貴重な品。その秘められた魔力には用途があるようだが…?〉


アイテムの情報の説明を見ながら何かしらのイベントを発生させる品であることが見受けられるも、絶対にこの場所で手に入れるものでは無いことが分かる。

その他にもデーダーランの小指や、アグナダのきんのたまなどユニークそうなアイテムがある。

ふと、タマゴがある事に気付き詳細を見ようとした所で尾で服を引っ張られたので白銀へと視線を向ける。

時折背後を見ているのは知っていたがどうかしたのかと思い振り返れば、先程3人組に剣を振り上げていた男が居た。


『なんや、さっきからついてくるなぁと思っとったんやけど…アレ、どないする?』


「んー、悪いヤツなら奇襲を仕掛けてくるはずだし…何か言いたそうだから声掛けてみるか」


『旦那はんは結構怖いもの知らずって言われへん?』


「いや?ただ観察力お化けとは言われる」


『あー、確かに?旦那はんは人の事を良く見とるもんな』


「相手を知らなければなんの対処もできないだろう?」


『いっつも考え方が玄人寄りなんよなぁ…』


呆れた様に告げる白銀に片眉を上げるも、男も俺が気付いたのが分かれば暫し悩んだ後に少しだけ早足で近づいてくる。

目の前まで来たところで口を開けるも何を言うべきか分からず、百面相のように表情を変えた後にポケットに手を突っ込むと何かを差し出してきた。

どうすべきか悩んでいると早く受け取れと言わんばかりに睨み付けられれば、手を差し出すと手の上にこの辺では手に入らない上級の回復薬と軟膏があった。


「これをさっきの奴らに届けてくれ。アンタ、街に戻るんだろ?」


「…俺がこのまま盗んだらどうするんだ?」


「そんならそん時だ。でも、アンタはそんなタイプじゃねぇと思うからよ」


「さっきはなんであんな事を?」


「あのガキ共が、あのまま言うことを聞かずに中に入ったら…脅されるよりも怖い目にあうだろうからな。始めたてのガキ共が辞めちまうのは…俺とアイツも望まねぇ」


「…そんな風に気にかけるならなんであんな事してる?」


「とにかく、頼んだぞ…」


それだけ告げると踵を返して戻っていく後ろ姿を見送っていれば、黒い影が男の後ろをついて歩いているように見えた。

白銀も気付いたのか不満げに尾で俺の背を叩くが地味に力が入っていて痛い。


『後悔するくらいならやらなえぇのに』


「そういう訳にも行かなかったんだろう。強行突破した搭乗者の末路を知ってるからこそ…あんな行動に出た可能性もある」


『奴さんの考える事はイマイチわからんわァ…ん?ちょい待ち、なんや黒が強行突破しようとした搭乗者達が捕まっとるのを見たらしい』


「隠れてついていけそうか?」


『んー、兄さんがこっそりついて行こうとしてみたらしいんやけど、気配に敏感な奴が居るっぽくて断念したらしいわ』


「そうか、あまり無理はしないようにって伝えておいてくれ」


『はいな。あ、なんや黒い牙の集団の中に赤い制服を着た連中が居るらしいで』


「赤い制服?」


『なんか、胸元に十字架を逆さにしたような紋章があるとか言うとる。今回のことに関わりがあるかは分からんけど』


先程の男の言葉を思い返せば、捕まった搭乗者達は何かしらの形で制裁を受ける事になるのだろうが、その仔細は分からない。

ただ、早めに対処しなければ被害者が増える一方なのは見て取れる。


「今回の面倒事は今までの中で一番厄介かもしれないな」


『旦那はんには、わてらも居るんやから肩肘張らずに行こうや』


「気は抜き過ぎないようにしろよ?」


『……はい』


思ったよりも事が大きくなりそうな気配に俺は小さな溜息を吐きつつ、荷馬車と合流するべくアステラ街道の分かれ道付近をめざして歩くのだった。

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