30-接触

道中襲ってくるウォルやグルゴンを相手しながらドラグの生息地近くへと辿り着けば、鬱蒼と茂った森の入口付近で黒いマントを着用した集団が、ラビリアへ行きたいのであろう初心者装備を脱却した三人程のパーティーと何やら言い争っている光景が目に入る。

遠目に見ているだけなので内容までは分からないが、一触即発の空気である事は見て取れる。

マオと白銀、黒鉄を近くの死角になりそうな岩場で降ろしてから、どうしたのだろうかという体で歩み寄って行く。


「そんなレベルの初心者じゃぁ、この先のフィールドボスは倒せねぇよ!出直しな!」


「なっ!やってみないと分からないだろう!っていうか、俺達が負けようとアンタ達にはそもそも関係ねぇよ!」


「ちょ、タク…出直そうよ、なんかこの人達怖いし…」


「何言ってんのよ、紅珠こうじゅ!そもそもフィールドボスの狩場を独占するなんてコイツらがおかしいんじゃないっ!」


「こっちの気の弱そうな嬢ちゃんは身の程を弁えてるが、気の強そうな嬢ちゃんはレベル差も分かってねぇようだなぁ?」


「紅珠、アゲハには手を出すな!」


「かーッ!足が震えてる癖に彼女達は守るってかぁ?良いこと思いついた…。その女達の前でお前をボコしてストレス発散させてもらおうじゃねぇか!」


「おいおい、見た限りまだガキだろ?見逃してやれよ」


「うるせぇ!実力もねぇのに守るだなんだ騒ぐやつが俺は嫌いなんだよっ!」


吐き捨てるように言いながら腰に下げている片手剣を引き抜いては、青年に突き付けた後に振り上げる姿を見て流石に見過ごせない状態となる。

小さな溜息を吐くとインベントリから少し刃に厚みのある短剣を取り出し、鞘から抜いて下手に構えながら身を屈めて二人の間に割り込むように滑り込んでは、振り下ろされる刃を短剣の腹で受け止める。


「誰だっ!てめぇ!」


「通りすがりのあなた方と同じ搭乗者です。若い子達に剣なんて振り下ろしたら危ないじゃないですか」


「あぁん?先に喧嘩売ってきたのはそこのガキ共だぜ!?」


「まぁまぁ、少し落ち着いて…。そんなんじゃ人生疲れますよ?、っと」


「うぉ!?」


「ほら、君達…早く行きな。暫くはここに近付いたらダメだよ」


「ごめんなさいっ!ありがとうございます!」


些細な事で明確な敵意を向けられた事に怯える青年達に、後ろ手に早く行くよう手でサインを送りながら未だ叩き切ろうと力を抜かない目の前の男の剣を刃を傾け滑らせるようにしていなす。

青年達がテラベルタへと向かう街道の方へと走っていく姿を確認してから敵意はない事を示す為に、短剣を鞘に収めると両の手を挙げて一戦交えるつもりは無い事を示す。


「誰だ、テメェ!割り込んできやがって!」


「さっきも言いましたが通りすがりの搭乗者ですって。あんな子供に剣向けるの見たら危ないと思うじゃないですか」


「チッ…。じゃあ、ここには何しに来たんだよ?」


「ドラグを倒してラビリアに行きたくて来たんですけど、なんかダメそうな雰囲気ですよね」


舌打ちをしながら剣を納める姿にそこまで悪い人物では無いのだろうかと思うが、直情的なタイプに見えるのであまり強気には行かずに控えめな青年をイメージしながら言動に注意を払って問い掛ける。

男の後ろで諌めるような声を掛けつつ、眺めているだけだった少し体躯の大きい男が一歩前に出てくると、威圧感はあるものの訓練を監督している際のラルクよりは怖さもなければ恐ろしさもない。

多少は怖がる振りをしなければと思い少し俯きながら続くであろう言葉を待つ。


「今、オレ達のギルドで大規模なドラグの討伐をしている。ここまで頑張ってきたんだろうがお引き取り願おうか? 」


「えぇ!?そうなんですか?困ったなぁ…今日此処を抜けてラビリアに行かないとNPCから聞いた商人に会えないのに…」


「商人?お前そんなのに会いたいのか?」


「いやぁ…なんか、レア素材ばかり扱ってる黒のローブを着た商人がラビリアに来るって話を聞きまして…。その商人もここを通るって聞いてたんですけど見てませんか?」


「ここにはさっきの女連れとお前しか来てねぇよ。さっさと帰んな」


「マジかよ…嘘の情報掴まされたのか、俺…」


あからさまにガックリと肩を落としては、踵を返してビーネストの村の方へとゆっくりと歩いていく。


「本当にレア素材を持つ商人がここを通るのか?」


「分からねぇ。だが、NPCが言ってたなら通る可能性がある。黒いローブって言ってたな…次にここを見張る奴らに伝えとけ」


上手く種は撒けたので、後はファンビナ商団の力を借りて黒いローブの商人が荷馬車から降りて別行動をすればいい。

その他の面でバレないように上手くやる事も必要なのであるが、アレだけの接触で先程この場所に来た登場者だと分かる人間はそうそういないだろう。

岩場の傍まで来るとホクホクとした顔で収集ポーチを抱き締めているマオと、ドン引きですとでも言わんばかりの顔をした白銀と黒鉄がいたので俺は首を傾げる。


「ただいま。何かあったのか?」


『パパー!おかえりー!』


『旦那はん、おかえり…ちょっと、小さな兄さんの幸運がヤバすぎてな…』


『若、おかえりでござる…。兄殿は幸運お化けでござる』


疲れきったような声と元気な声を聞きながらその言葉の意味を、これから俺は思い知る事になるのだった。

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