29-別行動の準備が出来たら
庭で簡単なサンドイッチを作ってマオ達と食べていると、地味な服を着たジェスが麻袋を肩に掛けながら走ってきた。
一瞬見ただけでは普通の旅人に見える姿に目を瞬かせつつ、傍まで来ると麻袋を肩から降ろして軽く礼をしてからジェスは口を開く。
「おはようっす、ライアさん!呪符に関してしっかりと設置してきたんで報告に来ました!」
「ありがとう、ジェス。大変だっただろう。簡単に作ったハムとチーザと野菜を挟んだサンドイッチなんだが、食べるか?」
「有難く頂くっす!」
「牛乳もあるから必要なら言ってくれ」
「はいっす!うっまい!徹夜で頑張ってきたかいがあるなぁ…」
使用しているテーブルの空いている空間に、椅子とサンドイッチの乗った皿を置けば瞳に涙を浮かべながらジェスが椅子に腰掛けるのを見てそんなに嬉しいものだろうかと頬を掻く。
礼として食べさせる事が出来るサンドイッチが残ったのは、白銀が着けている装飾品の効果のお陰である。
『くっ、くそぅ…いつもやったら三個はペロリと食べれるんやけど、二個しか腹に入らんなんてっ…』
『やっと少し食べちゃう人くらいのレベルになったってことだねー』
『姉上…食べ過ぎもいいところでござったからな』
『白姉様!痩せたらきっと神様がスキルを変えてくれますの!』
『…ヴィオ姉ちゃん、期待させたらダメ』
ショックを受けている白銀に追い討ちを掛ける兄弟と、慰めようとして諌められる姉妹のやり取りを見ながら今日も仲がいいなと思う。
そもそもマオ達は喧嘩をしたとしても翌日には持ち越さないので手が掛からなくて有難い。
と言っても、俺が喧嘩してもちゃんと仲直りできなければ箱庭で過ごしてもらうと先に告げたのが効いているのだろうが。
「ハッ!!美味すぎて夢中で食っちまった!」
「いい食いっぷりを見せてもらったよ…。これからファンビナ商団の拠点に戻るなら、昨日話した通りヴィオラとセラフィを預けても良いか?」
「大丈夫っすよ!元よりそのつもりで仕掛け終わった帰り道に寄らせてもらったんす」
夢中でサンドイッチにかぶりついていたジェスが、皿の上が空になっているのを見て頭を抱えながら悔しげに呟くも、ヴィオラとセラフィの事を話せば胸を叩いて頷く。
事前にヴィオラとセラフィには話が通っているので朝食を終えると、作成したリストバンドを持たせてはマオが最初に使っていた収集ポーチに入れてから首へ掛ければ、ジェスに連れられファンビナ商団へと向かうのを見送る。
『若、何かあればすぐに姉上に伝えてくだされ。某がちゃんと小さな兄殿に報告しますゆえ』
「わかった。マオと黒鉄が一番あぶない仕事になると思うがあまり無茶はしないように。ダメだと思ったら直ぐに撤退すること」
『わかってるよー!パパー!でも、今日の僕はなんだか何やっても上手く行きそうな気がするんだよねー!』
『黒、あんま無茶したらあかんで?突っ走る兄さんにノせられへんようにな』
珍しくちゃんとした姉の振る舞いをする白銀を見つつ、サンドイッチを食べた後の食器などを片し終えれば宿に代金を支払い村を後にする。
ビーネストの村から約2時間程の距離の為、先ずはソロの冒険者が狩りをしながらドラグの生息地まで来たものの、わざと追い返されねばならない。
その際にレアな素材を販売している旅商人がラビリアに向かっていると、NPCから聞いた極秘情報としてリークする為だ。
このArcaの世界の中にレアな商品を扱う旅商人が居ても何らおかしくはないだろうし、搭乗者ではなくNPCから聞いたともなれば尚更だ。
「白銀とマオと黒鉄は俺が奴らと最初に接触する時は、離れた場所で隠れていてくれ。お前達が初心者である俺のペットや使い魔と知れたら何をされるか分からないからな」
『分かったー!』
『承知』
『了解やで』
了承の返事をしてくれる三匹の頭を順番に撫でながら、普通のペットはこうして念話を通じて語り合えない事をふと思い出す。
自分を親と慕うペットや使い魔達をすんなりとでは無いが、受け入れて共に生活している間にかなりの情が湧いている。
俺がこのゲームをふとした拍子に辞めてしまえば、マオ達は何を思うのかと考え始めようとした所で服を引っ張られてはハッとしたように肩を見る。
『戻ってくるまで辺りを見てきてもいーい?』
「あー、うーん…人に見られなければ?」
『わーい!』
『小さな兄殿は何を拾ってくる気でござろうな…』
『あー、それは知らぬが仏ちゃうか?』
「マオは本当に運がいいからな…。また驚きそうな物を拾ってきそうな気がする、が…タマゴはダメだぞ?」
『うん。タマゴを産んだ親が悲しむから、でしょ?もうしないよー!パパに教えてもらったもん!でも、盗まれたヤツとかは持ってきてもいいんだよね?』
「ん?んー…そう、だな?親元に返さないとだし?」
『いや、持って来ちゃあかんくない?孵化してもうたら…駄目やん?』
『孵化する前に親に返せばセーフでござろう?』
『そう簡単に親の居場所、絶対わからんと思うで…?』
顎に手を添え暫し白銀の正論にそれもそうだなと思い、マオに声を掛けようと顔を向ければ目を潤ませながら見られてしまえば言葉が詰まる。
良いって言ったよねと訴えるように両手を合わせ、耳と尾を垂らす姿に言おうとした言葉を飲み込む。
「持ってきて、いいからな…」
『わーい!!』
『あー、あれはズルやなぁ』
『同感でござる』
持って来ていいと言えば喜ぶマオの姿を見つつ、呆れたような白銀と黒鉄の言葉にぐぅの音も出ず顔を手で覆うも、気を取り直すように軽く頬を叩いてから宿を後にし村の外へと向かうのだった。
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