27-衣装作り

ジェスに呪符を六枚渡してからファンビナ商団の拠点を後にした俺は、籠の中で寝てしまったマオ達を連れて宿へ戻る道を歩いている。

夜風が心地好くすき焼きを食べた時のみんなの盛り上がりようを思い出せば、自然と笑みが零れてしまう。

食いっぷりも良く直ぐに酒を持ち出して宴のような雰囲気にしてしまうのだが、性格が荒くなる訳でも無くこの時間を楽しむという気持ちがなんとなく感じられる。


「あ、あの搭乗者の子に黒い牙の件に関しては他言しないようにって言うの忘れたな…」


宿に戻ると借りている部屋の扉を開けて中に入れば、ベッドの上に籠を置いてからふと思い出したように呟く。

寝て起きたら伝えればいいかと思うも、現実に戻ったら忘れないようにスマホにメモしておこうと思う。


「さてと、俺はリストバンドとローブを作っておかないとな」


部屋の中にあるテーブルにインベントリから黒い布地を取り出し、椅子に腰掛けながら裁縫キットも出すとリストバンドとローブを作成する為に夜更かしを決める。

ファンビナ商団の人々にも着けてもらわなければならないのでかなり量が要るが、大雑把に作りたい気持ちがあるものの針を刺す回数を増やして裁縫の熟練度を多めに獲得する事にした。

裁縫のレベルが上がれば、やれる事にも幅が増えるのでいい熟練度稼ぎだと思う。

それよりも、ファンビナ商団の団員達が何人居たか思い出せず首を捻る事になるが、フードを作る分の布には手を付けないように分けておく。


「……手縫いで服を作るお針子さんを尊敬するな」


作れるだけ作ろうと集中して布を縫っていたが、同じ体勢で作業をしているので時折伸びをしたりと動きを加えて体が固まらないように気を付ける。

身体を伸ばした時に骨が鳴ると気持ちはいいのだが、伸ばし切るまでが地味に痛いのが辛い所だと思う。

四苦八苦しながらも25人くらい着けられる量のリストバンドを作り終えては、疲労からくる眠気を覚ます為にインベントリから眠気覚ましのラベルが付いた瓶を取り出し一口飲む。


「こういう状態異常回復系の薬も作っておいてよかったなぁって、思うな」


眠気が覚めれば次はローブを作る為の布に手を伸ばす。

裁断用の鋏を取り出し、裁縫のスキルlvが上がったお陰で布を見ながら作りたい物を思い浮かべるだけでガイドラインが表示されるようになった。

最初は分かりやすいように多少布地が足りなくても作れる四角いクッションばかり縫っていたが、このレベルまで到達するともっと色々と作りたくなってくる。


「今度、現実でも何か服を作ってみようかな…。って、現実とゲームじゃ違うか」


独り言を呟きながら裁断を終えれば、鋏をインベントリにしまい針と糸を持つ。

先程までは鋏を入れる為のガイドラインだったが、今度は縫うべき場所を指示するガイドラインへと切り替わる。

小さく深呼吸をしてから切った布地を合わせ、ガイドラインに沿って丁寧に布同士を縫い合わせながら、時折違う所まで縫っていないか確認する。

段々と作業が楽しくなってくると、ローブに目を引くような小物を付けるべきかと思い、インベントリを開いて中にある物を確認する。


「うーん。小物となると装飾品作成で作れるか?…でも、まだレベルが上がってないんだよな」


金具になりそうな小さい銀の鉱石の塊などはあるが、宝石関連は思ったよりも大きい物しかなく嵌め込むにしても、しっかりとした台座がなければ難しいだろう。

取り敢えずは装飾品作成のスキル説明を確認し、台座にする為の銀の鉱石を手に持ち魔力を通していく。

あまりイメージが湧かなかったので、防具を作ってもらったガンドルフが行っていた作業を思い出す。

あの時は素材にアプローチする為に魔石を使用していたが、これは普通の銀なのでそこまで気を使う必要は無いだろう。


「くっ…意外と難しいな。魔力操作は持っているがこっちも初期レベルだし…地道にやるしかないか」


少しずつ魔力を送って銀の様子を見ながら形状が変わっていくのを確認する。

中々形が変わらないのでヤキモキする事もあったが、暫くして通知音が鳴るとほんの少し魔力が銀に通りやすくなったことを感じる。

ほんの気持ちずつ平たくなっていた銀がほんの数分もしない内に思い描いたブローチの台座に仕上がった。


「なるほど、装飾品作成と一緒に魔力操作のレベルも上がったのか」


装飾品を作るだけでもう一つのスキルにも熟練度が入るのはかなり有難い。

作業の効率が良くなってくれば作るのも楽しくなってきたので、マオ達が装備できる様な装飾品を作成していく。

小さなペット用の首輪やブレスレット、イヤリングなどの台座を作った後、残しておいたマオ達のタマゴの殻を宝石替わりに適切な大きさに加工してはめ込む。

作った物が淡く光を放てば、ペット用の装飾品として登録されて目を見張る。


「飼い主の愛情の籠った装飾品、か…なんか、気恥ずかしい名前だな」


レア度は無いものの、多少なりとも能力にプラス効果がある事を確認して笑みを浮かべる。

マオ達の装飾品が完成して満足していたが、ふと視界に入ったローブを見て当初の目的を思い出す。


「ヤバい!自分の分を仕上げるのを忘れてたっ」


慌てて余ったタマゴの殻を全て混ぜ合わせるように加工した物をブローチの台座に嵌め込む。

淡く光が放たれて装飾品となった事を確認してから、ローブの胸元に付けて完成させると慌ただしくベッドに寝転ぶ。

明日、作戦を執り行うにしても寝不足でヘマをするのは嫌なので睡眠を取るべくログアウトするのだった。


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