26-呪符

結局ウモーの肉の追加を切る羽目になったが、満腹になり酒を抱きながら外で寝ている団員や米が欲しかったと嘆く搭乗者の面々を見ながら楽しい夕食を過ごせたと思う。

しかし、この味を知ってしまった白銀がこの先、ウモーの肉を毎回所望するようになったらどうしようかと思ったが、予想とは違い大人しかったものの何か企んでいる様子を見て嫌な予感がする。

気にしたら負けだと思い残った汁は野菜やウモーの味が染み込んでいるので瓶に詰めてインベントリにしまう。


「はぁ…野菜と肉と焼きトゥルを甘辛い汁で煮て食べる…こんなに美味しい料理があったなんて…」


「ライアさん、片付け手伝うっすよ!」


「俺も…」


「マンダさんはコイツら見ててくれないか?多分もう腹がいっぱいで眠くなってるだろうから…」


『眠く、ないもん…』


『旦那はーん!籠出してー!』


『姉上、食って直ぐに寝ると太るでござるよ』


『もう太ってるからえぇもーん』


『開き直ることじゃないでしょー?』


『とと様!寝る前に例の媒介の作り方を教えますの!』


完全に寝る気満々の白銀がセラフィを頭に乗せながら、籠を催促してくるのでテーブルの上に二つ置いてやる。

すると、白銀が大きい方の籠に潜り込みとぐろを巻いて寝れば、その上にセラフィを降ろす。

マオと黒鉄は一緒に寝ようと籠の中に入ってくるのを尾で阻止しながら白銀が威嚇している間も、ウトウトしているセラフィが冷たくて気持ちいいのか寝そべりリラックスモードに入っている。


『白姉ちゃんの体、冷たくて気持ちい…』


『セラは僕に一番懐いてるはずなのにー!』


『某がせらの面倒を見たいのに!』


『兄共にばっかチヤホヤされてもセラフィかて嬉しないやろが!たまには、わてやヴィオラに譲りぃ!』


『白姉ちゃんカッコイイ!』


『せやろー?今日は男達は男達で寝るんやな!』


『わたしも終わったら混ざりますの!』


大きい方の籠を占領しフンと鼻を鳴らす白銀の姿を見て、マオと黒鉄は不貞腐れながらも大人しく小さい方の籠の中で話をしている。

なんだかんだと妹を可愛がりたい姿を微笑ましく見つつ、夕食で使った鍋や調理器具を食洗機で洗いながら満足気に腹を撫でているポスカの前に座る。

ヴィオラが傍に来たので膝の上に乗せながらインベントリから無地の紙と筆、短剣を取り出してはテーブルの上に並べる。


「作戦に少し追加をしたいんだが問題ないか?」


「作戦自体、ほぼ全てライアさんの提案ですから私達は多少内容が変われど合わせられる自信がありますので問題ございませんよ」


「そうか、なら良かった。今回、黒い牙の連中を逃さない為にヴィオラの力を借りる事になった」


「その子狐ちゃんっすか?」


「ああ。黒鉄と白銀が暴れた時に使った結界の中から外に出られない効果のあるものを張ってもらうつもりだ」


話をしながら小皿を取り出すと、己の指先を短剣の先で軽く切り痛みで眉間に皺が寄るものの、流れ出てくる血を小皿の上に垂らす。

ヴィオラがそのくらいで十分だと教えてくれるので小皿から指を離せば、インベントリから回復薬を取り出し傷口に掛けて治療する。

己の牙で前足に傷を作り血が流れるのを見て小皿の上に差し出し、俺の血と混ざる様子を見ながら何かを呟く。


『とと様、私の手も治療お願いいたしますの!』


「はいはい。………結構深くやったな」


『うぅ、気合いが入りすぎましたの…』


「次からは気をつけような」


兄となるマオと黒鉄、姉である白銀のサポートの要となる事もそうだが、セラフィに自分も凄いのだと教えたいとヴィオラは思っているのだろう。

優しく頭を撫でつつ、ヴィオラを見ればちゃんとやれると目が訴えてくる。

ドジっ狐と言い過ぎただろうかと思うも、無地の紙の方を向いて小皿の血をヴィオラは肉球に付けると紙の中央に押印していく。


『とと様は私の肉球を囲うように四角、菱形を書いて欲しいですの』


「こうか?」


『完璧ですの!書いた四角と菱形の角を繋ぐように円を描いた後、人魂の様な記号を四つ書いたら完成ですの!』


「ホントだ。アイテムになってる」


『この印を崩さないように丁度いい大きさに切ると使いやすいかもしれませんの』


何かあった際の予備分も作りつつ、紙を適度な大きさに切り終えるのを見届けてからヴィオラが白銀とセラフィの寝ている籠の方へと駆け足で向かっていくのを見送る。

作業工程を見ていたポスカ達が呆然としたように口を開けており、呼び掛けても返事をしないので目の前で軽く手を振るとハッとしたように瞬きをする。


「ライアさん…ちょっと作ってた物を見せてもらっていいですか?」


「ん?ああ…今回これを使うからジェスに設置を…」


「やっぱり!これは妖狐族の商人が稀に市に流す呪符!」


「貴重なのか?」


「それはもう。普通に購入出来る結界用の呪具とは違い、この呪符は範囲に制限も無ければ破れない限り何度も使える品です」


「……1つ聞いていいか?幻妖狐っていう種族を聞いた事は?」


「あ、それなら俺が聞いたことあるっすね。妖狐族から極稀に生まれる子で千年に一度お目通りできるか否かって前に酔った妖狐の商人が喋ってたっす」


「そう、なのか…」


思わずヴィオラの方を見るも、白銀とセラフィと楽しげに話している姿に俺は顔を手で覆うのだった。

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