25-すき焼きパーティー

スープを持った商団員達は、獣避けの香を使って街の外に向かった後に、穴を掘ってからスープをそこに流し入れ火をくべたらしい。

すると、スープから苦悶に近い叫びのような声が聞こえたらしいのだが、これ以上は知らぬが仏というやつだろう。

そんな物を処理して戻ってきた団員達は世界を救ったかのような清々しい顔をしており、その反面としてべそをかきながら隅で茸を生やしているポスカがいた。


「いやぁ、アレを早々に処理出来て本当に良かったってやつですわ」


「団長は一体何を生み出したんだか…」


そんな話を横で聞きつつ、外で俺が料理を作り始めると匂いに釣られてなのか分からないが、ポスカが家の中から顔を出すと周りに指示を飛ばせる程に元気になっており、涎を垂らしながら動くそのノリが白銀を連想させる。

食う事が何よりも優先事項となっているのかもしれない。


『む、旦那はん。今、なぁんか…わてに関する変なこと考えへんかったか?』


「あー、少し?ポスカと白銀の食べ物に関する反応が似てるなと」


『あー…んー…。確かに似とる、かも?』


魔導式の卓上コンロなどの設置を、器用に頭に器具を乗せて手伝ってくれている白銀がジトリと見つめながら問い掛けてくるので苦笑混じりに返せば、何か言い返そうと口を開くものの俺の食事を食べる時のポスカを思い浮かべているのか悩ましげに首を傾げる。

頭の上に乗せていた皿が落ちそうになり慌ててヴィオラが飛んできて皿を抑える事に成功する。

白銀に頭の上に物がある時は考え事はダメだと叱りつつ、一緒に運んでいく姿を見つめながら種族は違えど良い姉妹だなと思う。


『パパー。今日は何作るのー?』


「ん?あぁ…すき焼きを作ろうかと思ってな。今、白滝がないのが残念だが、焼きトゥルと野菜や茸が沢山あるし美味いと思うんだよな」


『すき焼きー?甘い匂いがするけどおかずなのー?』


「あぁ、甘辛い汁で薄切りにした牛肉を軽く煮てから食べるんだ。ウモーの肉が霜降りで新鮮だったから普通に焼くのもありだが、彼らに一風違った食べ方を教えてもいいかと思ってな」


食用の卵などもちゃんと沢山買い込んであるので直ぐに無くなるという事は無いはずだ。

少し困ったのがすき焼き用の鍋を持って居なかったので、似たような形状の鍋が商団の荷馬車に積まれていたので購入して使っている事だろう。

割り下が煮立ってくれば、野菜と焼きトゥルに茸を入れて蓋を閉める。

6~8人程の塊で座れるようにテーブルが四つ配置されているので、その中央に魔道コンロを設置し蓋をした鍋を置いていく。


「まだ食べちゃダメですよ。今、肉と追加用の野菜を用意しますので…蓋もまだ開けちゃダメです」


「くっ、いい香りがするのにお預けだなんてっ!」


「テメェら!酒用意して待機だぞ!」


「こんな所ですき焼きが食べられるなんて!ファンビナ商団に所属してよかった!!」


「おう!新入り!今日はライアのアニキに感謝しながら食えよ!」


「はいっ!!」


剣気を纏わせた包丁で大きなウモーの1頭分に近い塊肉を切りやすいブロックにしてから薄切りにしていく。

スキルのお陰でかなり薄く切れているので火の通りも早い分、喧嘩にならずに済むだろう。

ふと、聞こえてきた声にそちらを伺い見ればリストバンドを付けた女性が泣きながらすき焼きの割り下の香りを嗅いでいる。


「あの人、俺と同じ搭乗者か?………市に来た時には居なかったよな?」


『うーーー!美味そうな匂いに腹が鳴るゥゥ!!!』


『姉上、みっともないでござるよ?』


『お腹、空いた!』


『ヴィオとセラには僕が食べさせてあげるからねー』


『マオ兄様が優しいですの!』


『鍋ひっくり返されても困るしー』


『その一言は余計ですのっ!!!』


マオ達はポスカとジェス、マンダが居るテーブルで肉や野菜が置かれるのをソワソワしながら待っている。

各席に肉と野菜、割り下が少なくなった際に注ぎ足す為の追加分の入った瓶を配膳すると、行き渡ったことを確認してから声を掛ける。


「それぞれ自分で食べる肉を鍋の中の汁にくぐらせて火を入れてから生卵につけて食べてください。かなりの量の肉を用意したんで問題ないと思いますけど足りなくなったら俺に声を掛けて貰えると助かる」


「うぉぉぉ!食うぞぉぉぉ!」


「甘辛い感じのいい香りだぁ!」


「えっと、この生のウモーの肉を汁に付けて火を入れればいいのか?」


「あ!それだと火を入れ過ぎです!先輩!少しピンク色が残ってるくらいが食べ時です!」


「おお!新入り、助かるぜ…んじゃ、いただきま…はぅぁっ!!!」


俺と同じ搭乗者の居る席では肉の火の入れ具合をレクチャーしているようで、淡いピンク色の部分が残るウモーの肉をといた生卵に付けて口に入れた団員の男が言葉を失う。

どうした?と皆がその顔を見るなり不気味なモノを見たような顔をする。

薄く頬を上気させ身を捩りながら吐息を吐き出す。

そんな姿の同性を見て誰得だと言う気持ちもわかるが、美味しさのあまりという事なので許してやって欲しい。


「や、ややや、ヤベェ!肉が溶ける!ウモーの肉ってこんなに美味かったんだな!」


「うっめぇぇぇ!!」


「酒!酒持って来い!」


「おいひぃぃ!!料理掲示板にファンビナ商団に所属したらすき焼き食べれたなうってupしよ!」


団員達が肉を求めて騒ぐ中、少ないので野菜を食べた団員の言葉にも反応し食べる物がどんどん変わる様子を見て思わず笑ってしまう。

目の前でもポスカとジェスが泣きながら肉を食べており、マンダも一口食べて目を輝かせては黙々と食べ始める。


『パパー!すき焼き美味しー!』


「マオ、白銀の頭に乗って皆に作ってやってるのか…」


『マオ兄ちゃん、お肉おかわり』


『マオ兄様!私も欲しいですのー!』


『わて、わての口にも!あっつ!!そこ鼻やっちゅうの!』


『あぁこら!あんまり騒ぐと落ちてしまいますぞ!』


「ここからは俺が肉をやってやるからマオも食べな」


『ありがとー!パパー!』


ウモーの肉を俺が火を入れてやりマオ達用の皿に乗せてやると、一枚がでかいからか二匹で一枚を食べる姿を見つつ、まるで踊り食いのようにペロリと一枚食べてしまう白銀を見ながら夕食を食べるのだった。

食べてる最中に掲示板を見たらしい神威から『狡い、オレもすき焼き食べたかった』というメッセージが届いたので、また機会があれば作る事になりそうである。

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