24-地獄絵図

戻ってきたジェスが商談が借りている家へと案内してくれるので、置いていかれないように後を追う。

現在、フードの中にマオとセラフィが居り、パーカーのポケットの中にはヴィオラ、黒鉄は肩の上に、白銀は腕に巻きついている。


「団長がライアさんが飯作ってくれるって言った瞬間、目をギラッと光らせて上等なウモーの肉を出せって言った時は他の奴らも目が点になってたんですよ!見せたかったなぁ」


「いや、見たらなんかいけない気がするから見なくてよかったと俺は思う」


『パパは変な人からモテるよねー』


『大体飯で釣っとる気がするな』


『若は最初に飯に釣られてたような…』


『とと様は食べる事が一番好きですの?』


「食べるばかりじゃなく、ちゃんと運動も好きだぞ…?」


マオ達の言葉に苦笑を浮かべつつ、ファンビナ商団が拠点としている家に辿り着けばマンダが扉の前に立ち待ってくれていた。

扉を開けながら足元に気を付けて欲しいと言われ中を見れば、床に這いつくばり生きた屍かのような格好で横になっている男達が居て思わず肩が跳ねる。

よくよく見ればウォルの群れに襲われていた時に見掛けた爬虫類好きの男も含まれており、白銀が心配するものの何となく近寄り難いのか腕からは離れない。


「何があったんだ、マンダ?」


「……恥ずかしながら、我が商団には料理が上手い人間が居ないもので」


「唯一マトモなの作れるの俺なんすよ」


「………ピレゲアの足、スープに入れてなかったか?」


「アレはライアさんにスタミナ付けてもらおうと突っ込んだら失敗しただけっす!」


「どうだかなぁ…?」


「信じてくださいよぉ…」


しょんぼりとするジェスを見つつ、取り敢えず足元に転がっている屍達を踏まないように中へと向かっては、キッチンがある方から異様な匂いが漂ってきて思わず鼻を手で隠す。

焦げたような匂いだけでなく生魚独特な匂いのようなものも混ざっている気がする。

マオ達には刺激が強すぎる可能性があるのでマンダとジェスに預かってもらい、一人でキッチンまで辿り着けば緑色から紫色へと混ぜているだけで様々な色に変化するスープを作り出しているポスカが居た。


「あ、ライアさん!お待ちしてましたよ!」


「……いや、待たせて悪いとは思うが…何があったんだ?」


「少しくらい私も手伝おうと思いまして!スープを作って試食してもらっていたんですよ」


「……ライアの、アニキ…逃げて…」


「それは、食っちゃ……なら、ね、ぇ…」


生きる屍の中でも辛うじて意識がある人々から途切れ途切れの声が耳に届き、流石にアレは食えないと思いつつキッチンの有様を見て思わず深い溜息が出る。

悪気が無いのは分かるのだが、この死屍累々を見れば殺傷力は半端ないことが分かる。

後から追ってきたジェスとマンダが顔を手で覆い、マオ達は匂いのせいで魂が抜け掛けている。

いや、セラフィだけは魂になって俺の傍に来て甘えているのを見て、この状態だと視覚と触覚、聴覚以外は感じなくなるようだ。


『この姿だと、気を失ってる形に近い。だから、有毒ガス回避出来る』


「それは凄いな…。いや、それでもいきなり使うのはやめなさい。マオや黒鉄が取り乱すから」


『セラ!セラ!?どうしよー!気を失ってるよー!』


『若!早くそのブツをどうにかして欲しいでござる!』


『わてらの心配はしないんかいっ!!』


『うぅ…鼻がおかしくなりますのぉ』


ジェスとマンダに声を掛けて外で料理したいから色々と用意をして欲しいと告げ、嬉々としてこの場から去っていくのを見送ってはポスカに向き直る。

料理が苦手な人は失敗していても気付かないと言うが、ここまでのレベルはそうそう居ないと思いながら屍達に声を掛ける。


「すまないが、ポスカが作り出したスープを処理してきてもらってもいいか?」


「それは、構わねぇんですが…身体が上手く動かんのです…」


「あー、俺が試作した麻痺直しの薬を掛けてやるから頑張ってくれ」


インベントリから麻痺直しのラベルを貼ってある薬瓶を取り出すと、軽く振ってから匂い消しも兼ねて空中に振り撒く。

調薬を試していた際に、回復薬やこういった状態異常を取り除く薬を制作し続け、柑橘系の香りや味などが付けられるくらいのレベルまで到達していた。

この麻痺直しの薬は、精力剤の作成に失敗した時の副産物ではあるが、オレンジの香りがするのでこの生臭さを一瞬でも取り除く位の効果はあるだろう。


「おぉぉ!手足の痺れが取れやした!」


「お前らァ!団長からスープを死ぬ気で奪って捨てに行くぞぉぉ!」


「ちょっ!あなた達!!なんなんですか!」


「すまねぇ、団長…!これは世のため、人のためなんでさぁ…っ!」


「待ちなさーい!それ作るのにかなり時間を弄したんですよっ!」


身体から痺れが取れた男達は、ポスカを囲むようにしてジリジリと詰め寄れば五人が取り押さえに掛かり、残った人々でスープを持って外へと走っていく。

五人に押さえつけられながらも、前へと踏み出していくポスカに一人で荷馬車を担げると言っていた言葉を思い出し、あながち嘘ではないのかもしれないと思う俺だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る