22-作戦の整理・後

ヴィオラが欲しい物は俺が作るとして、設置の方は商団に頼もうと思うので市が終わる頃に出向く事を考える。

ジェスが確認してきた拠点の内容はかなり正確なものだったので、斥候のような仕事が得意な可能性があるだろう。

ふと、一人奇襲を仕掛けて倒せたと言っていた事を思い出し、もしかしたら暗殺系の仕事もできるのかもしれない。

その他にもいろいろと妄想が膨らみ掛けたのだが、今はそれ所では無いだろうと頭の隅へと追いやる。


「今は作戦を考える方が大事なんだから違う事は考えるんじゃない、俺…」


自分の頬を軽く叩いて叱りつつ、取り敢えずはヴィオラが持ち掛けてくれた効果持ちの結界がどれだけ持続するかの話を掘り下げようと口を開くも、ふとファンビナ商団を助けた際の結界の事を思い出したので聞いてみる。


「もしかして…この前、白銀と黒鉄が暴走した時に張ってた結界にも同じような効果を付与してたのか?」


『とと様、鋭いですの!あの時は、白姉様と黒兄様の魔法が結界外に影響を及ぼさないようにする効果を付け加えましたの!』


『あー、せやから巻き込まんで済んだんやな』


『あの時のゔぃおの怒る姿は若の生き写しでござったな…』


『本来は結界の中から外への攻撃を可能にするのが普通なんですの!それを逆にするのは大変な事をわかって欲しいですの!』


「まぁ、あの時のお前達はやり過ぎだったな…。ウォル達が逆に可哀想だと思ったのは初めてだったよ」


あの時の光景を思い出しては苦笑を浮かべつつ、しょげている白銀と黒鉄の頭を撫でてやる。

俺が見てもドン引きだったので、あの地獄を見て寄って来ようと思う敵が居なくなった可能性もあるから良かったと言うべきなのかもしれないが。

同じように尾を揺らす黒鉄と白銀に双子だなぁと思いつつ、ヴィオラにどんな素材で作ったらいいか問い掛ける。


「ヴィオラ、用意する物はなにか特別な素材が必要だったりするか?」


『無地の紙に筆と、とと様の血が数滴欲しいですの』


「紙と筆はまぁわかるが、俺の血?」


『とと様の血とわたしの血を混ぜてまじないを書く事により、結界の状態をわたしが把握できるようにしますの』


「なるほど…?という事はヴィオラにも傷を付けなきゃいけないのか」


『致し方ありませんの。中から外に出さない対象にとと様を含めない為でもありますの』


詳しくヴィオラに話を聞いてみると、結界を維持する為の媒介として紙を作成するのだが、俺の血も利用する事で消滅時間が来た際にMPを代償に多少効果時間を伸ばす事が出来るらしい。

想定外の出来事があった場合のあくまで保険というおまけ機能だが、今回の結界はそれなりに高度な物となるので維持者が変更された場合には脱力感に襲われる可能性がある事も併せて説明される。

よくよく考えてみれば結界のスキルを持たない者が維持者に代わるのだから、それ相応の代償が伴う事は仕方がないのかもしれない。


「因みに、ヴィオラだけでこの結界を維持するとなるとどれくらいの効果時間になるんだ?」


『私もまだまだ未熟なので二時間半から三時間保つのが限界かもしれませんの…』


「なら、早めに交渉段階まで持ち込めるようにしないとか…。結界を張るのにヴィオラ自身にも負担が掛かるだろうし」


『ママ…結界張るタイミング、伝えるようにするのは…どう?』


「セラフィ、起きたのか」


『ん、おはよう。ボク、伝令役…する』


『え!?ダメだよ、セラ!危ないから絶対ダメー! 』


『そうでござるよ!まだせらは産まれたばかりなのだから今回はお留守番でござる!』


『……前に何処かで聞いたことあるんやけど、兄は妹にゲロ甘になるっちゅう話やけどホンマなんやな…』


『兄ちゃん達、過保護過ぎ…。ボクだって手伝えるっ!』


『わたし、ここまで優しくされた記憶ありませんの』


『嘘つけぇ!わてみたいな扱いされた事ないの知っとるんやからなっ!』


『白姉様はお姉様だから仕方ないですの』


『くっ!確かにっ!』


手伝うと言ってやる気を見せるセラフィを俺が止める前に、マオと黒鉄が止めに入ったので目を瞬かせつつ様子を見ていると、その横で白銀が苦笑混じりに告げた事にヴィオラが頷きながら返せば、すかさずツッコミを入れられている。

止めに入る兄達に翼を広げて威嚇するように胸を張りつつ、セラフィが宙へ飛び上がると俺の肩の上へと移動してくる。

じっと静かに見つめられてしまい何を訴えているのかわかるのだが、ここで承諾してしまうとマオと黒鉄に何を言われるか分からない。

余計な事を言えば今にも飛び掛かってきそうな二匹の様子にまさか悩まされる日が来るとは思って居なかったが、どうしたものかと眉尻を下げれば慎重に言葉を選んで話す。


「セラフィ、申し出は嬉しいが…今回は参加させられない」


『なんで?ボクだって…ママの役に立ちたい』


「その気持ちは有難いが、産まれたばかりのセラフィを今回みたいな危ない作戦には参加させたくないんだよ…」


『…大丈夫だもん。ボクの身体はヴィオ姉と一緒に居れば良いから』


「ん?どういう意味だ」


『そのままの意味。ボクの事、確認すれば分かるよ…ママ』


ふふっと目を細めて笑いながら見てくるセラフィに、俺はマオ達と顔を見合わせてから首を傾げる。

どこか得意げな顔をしているセラフィの言っている事を確かめる為に、一言断りを入れてからステータス画面を確認する。

所持しているスキルの内容を確認して俺は驚く事になるのだった。

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