21-作戦の整理・前

宿に戻ってくれば、ベッドの上に置かれた籠の中で眠っているマオ以外の面々を見ながら食洗機をインベントリにしまう。

まさか、ファンビナ商団が情報屋もやっているとは思わなかったが、お陰で黒い牙の潜入作戦を実行に移しやすくなったのは有難い。


『パパー、セラフィ以外起こす?』


「頼めるか?」


『まっかせてー!』


イキイキと肩から飛び降りてベッドの上に着地しては、真っ先に白銀の側へと向かい頭目掛けて飛び蹴りをくらわす。

痛みに飛び起きた白銀の尾がヴィオラの鼻を叩く音が聞こえ、手当用の軟膏を用意しながら驚いて起きる二匹におはようと声を掛ける。

何度も瞬きをする姿に手荒な起こし方でごめんなと声を掛けつつ、背後で黒鉄の悲鳴が聞こえれば今度からマオに頼むのは控えた方がいいかもしれないなと思う。

セラフィ以外を起こし終わり褒めてと言わんばかりに胸を張るマオの頭を撫でてやりつつ、あんまり痛い起こし方は控えるように告げるも、なるべく控えるーと返ってはきたが不安でしかない。


『うぅ、白姉様に鼻を叩かれましたのっ…』


『すまんて…兄さんの飛び蹴りよりかは痛ないよ、きっと』


『容赦ないでござる…せらが起きなくてよかったでござるよ…』


「すまないな…。お前達にどうしても話をしなければならなくてな」


『黒い牙討伐の話だよー』


『ああ、やはり動くのでござるか。若の事だから首を突っ込むと思っておりました』


『むしろ、動くにはちぃと遅いと思っとったけどな』


『今回は私も頑張りますの!』


意外にもすんなり提案を受け入れる姿を見ながら、ポスカの見せてくれた地図の写しを取り出しベッドの上に広げる。

ヴィオラがテントの配置を見た瞬間、ピクリと片耳を動かしたのを見て声を掛ければなんでもないと告げつつ、膝の上に移動して地図をまじまじ見始めたのでついでに叩かれていた鼻に軟膏を塗ってやる。

白銀と黒鉄は敵の人数に視線を向け結構多いなぁなど二匹で話し合っているのを見ながら、一度手を叩き注目を集めればマオが駒役をしようと地図の上に立つのを見て、優しく掴んではヴィオラの上に乗せてやる。

なんでと言わんばかりな顔をされるが、流石に地図の上をせかせか歩き回らせるのは大変だし、疲れるのが目に見えているのでインベントリから裁縫キットを出し、黒、白、灰、紫、青のマチ針を取り出す。


「黒は黒鉄、白はマオ、灰は白銀、紫はヴィオラ、青は俺とするぞ」


『針に役割取られたー!』


『兄殿は一匹しか居らぬゆえ仕方ないでござるよ…』


「今回、俺は商人の振りをして、この街道から最も近い拠点に接触するつもりだ」


『ふむ、一番手前の所に行くんやな』


『いきなり深い所から顔を出されたら警戒しますの』


『商人が1人で行動するにしても何が起きるか分からぬ森の中をさ迷う事はしないでござろうからな。それが出来るのは森を知り尽くしている人のみでござろう』


「ああ。だから、街道からドラグの居るルートを抜ける普通の商人を装うつもりだ。マオが拾ってくれた珍しい品々を扱う姿を見せれば…何処かの秘境から訪れた田舎者と思って貰えるかもしれないからな」


俺の言葉に納得するように頷く面々を見ながら、マオは既に聞いているのでドヤ顔で話に加わっている。

自分に見立てた青のマチ針を手前の拠点に立てると、灰のマチ針をその隣に立てる。

白銀が俺の傍で今回は一緒に行動することになるのを伝えれば、意気揚々と尾を振る姿を見て大丈夫だろうかと思いつつ、対角線上の拠点の上に黒と白のマチ針を立てる。


「今回、マオと黒鉄には少し危険だが別行動をしてもらう。マオは索敵を、黒鉄は白銀への伝達役と場合によっては奇襲を仕掛けてもらう」


『承知。直ぐに発動できるように詠唱はストックしておくでござるよ』


『パパが気を引いてる間に盗み尽くすぞー!』


「マオ、それだと目的が変わってるぞ…」


『とと様、わたしは何をすればいいですの?』


「ヴィオラにはファンビナ商団の足が速い奴を借りれる事になったから臨機応変に結界等を使ってサポートをしてくれると助かる」


『なるほど。とと様、コイツらに逃げられたりしたら困りますの?』


「そうだな、なるべく滞在している奴らは逃がしたくない」


『ふっふっふっ!ならばわたしに任せて欲しいですの!』


背筋をピンと伸ばし犬のお座りポーズになるヴィオラを不思議そうに見ていると、この場所が見渡せる高地がある部分に前足を置く。

確かにここなら全体を見渡せそうではあるが、何の目的で向かうのかと次の発言を待っていれば、次いだ発言に思わず目を見張る。


『この地図の拠点の配置を見ながら考えていましたの!中央には中々にHPが高そうなボス!このボスを主軸に対角線上の拠点の位置を考えて内側から出る事の出来ない結界を張ればいいんですの!』


「そんな事が出来るのか?」


『はいですの!全力でやれば効果時間は大幅に減ってしまうけれどもやれない事はないですの!』


尾を揺らしながら見上げてくるヴィオラの目はやる気で満ちており、信じて任せるのもいいかもしれない。

だが、そうなれば拠点の位置で結界を構成してしまうと範囲外に居る人物が出てくるだろう。

そこら辺はどうするのかと問えば、考えがあるのか前足で拠点よりも少し奥になる部分を指し示す。


『とと様、協力を得られるのなら拠点から少し離れた位置に用意してもらいたいものがあると伝えて欲しいですの。作るのはとと様にお願いしたいですの!』


役に立てる事を楽しみにしているヴィオラが、尾を揺らしながら笑みを浮かべるように口端を上げて告げる姿に、俺は何を作るつもりなのか首を傾げるのだった。

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