19-ファンビナ商団の裏の顔・前

神威を無事に見送るとポスカに向き直れば、先程のふざけていた態度とは打って変わり真剣な面持ちをしているのを見て思わず笑みが漏れる。

俺が何かしら行動に移そうとしている事に気付いたのか、はたまた商人の勘と言うやつか。

伊達に商団長を名乗っていないなと思いつつ、真剣な話をしようかと言えば途端に笑みを浮かべるポスカを見ながら、この歳でこれ程の才覚があるなら末恐ろしいなと思う。


「取り敢えず、庭に戻るか…。白銀達と調理器具と食洗機を片さないと」


「お任せ下さい。ちゃんと白銀さん達と食洗機の方はライアさんが泊まっている宿の部屋に人を使って送り届けてありますから」


「……いつの間に」


『パパー、変な事しようとしたら爆弾投げるねー?』


「そんなに警戒しないでくださいよ。変な事はしませんし、寧ろこちらは全面的にライアさんに協力しようと思っていますし…。ここだと誰に聞かれているかも分からないので私達が開催している市の方に行きましょう」


まるで考えを見透かしているかのように紡がれる言葉に警戒しつつ、マオが僅かに尾を立てながらポスカを見つめる。

先程の食事の食べっぷりを考えればこちらに害を成すつもりは無いとは思うものの、得体がしれない事には変わりないので一定の距離を保って共に行動する事にする。

完全に警戒されている事にポスカは苦笑を浮かべながらも市の方へと先導しつつ、村の観光スポットを話し始める。


「この場所がこの村一番の観光スポットで、ハニーメイデンを使ったハート畑です。ここで告白をすると一生甘い生活が送れるという言い伝えもあるんですよ」


「そうなのか…。確かにカップルっぽい二人組が多いな」


「やはり、一生を共にしようとする人とは良好な関係を結びたいでしょうからね。因みに、我が商団でも縁結び関連のアイテムを取り扱ってますよ!」


「いや、勧められても困る。相手も居ないのに」


『パパ、寂しい人なのー?』


「マオ達が居るから寂しい人ではないぞ?」


時折グサリと胸に来そうな発言を首を傾げながら言い放つマオに苦笑を浮かべつつ、毛を乱すように頭を指先で撫で回すと、きゃーっ!と言いながらも嬉しそうにしている。

その光景を微笑ましげに見ながら村一番の蜂蜜を取り扱う家などの情報をポスカが紹介しつつ、市の方まで来ると色々な人で賑わっている光景が目に入る。

奥の方にあるテントの方へと招かれれば、中は意外と広く大きなテーブルと数脚の椅子が用意されている。


「さぁさぁ、座ってください。今、我が商団自慢のお茶も淹れますから。マンダ、お茶の用意を…それと、ジェスを呼んできなさい」


「分かった…」


「ここに来た時には見てない人だな」


「先にこの村に来させておいた従業員ですよ。無口なのでかなり無愛想に見えますが、小動物が大好きなんです」


『あー、だから僕の事じっと見てたんだー』


「それで…ポスカ。俺をここに呼んだ理由は説明してくれるのか?」


「ええ。テラベルタでの貴方の名声は私共の取引先から色々と聞いております。助けてもらったのは偶然でしたが、私達の悩みを解決してくれる人物だと思い何時かは接触しようと思っておりました」


ポスカが伏し目がちに告げれば、テントの入口から茶の入ったポットとカップを持ったマンダと呼ばれた無口な男と、朝にピレゲアの足スープ事件を起こしたジェスという青年が入ってくる。

人懐っこそうな笑みを浮かべてこちらに手を振るジェスがポスカの隣に立ち、マンダが茶を入れて俺の前に差し出すと軽く頭を下げてから一歩後退する。

重々しい雰囲気となるが毛を逆立てて威嚇するマオを落ち着かせるように優しく撫でてやりながら、名声機能が開放された際のワールドアナウンスを思い出し僅かに目を細める。


「まぁまぁ、取って食いやしませんから…そんなに警戒しないでくださいよ」


「一応、警戒しておいて損は無いだろう?やり手の狐に化かされた気分だし」


「あははは。でも…貴方には商団長としてではなく私として接していたつもりですよ」


「そうだな…俺が作った飯を美味そうにたらふく食べてたし」


「え!?ちょっと!団長!一人だけライアさんの飯食ったんですか!?ずりぃっ!」


「ちょっ!それは言わないでくださいよ!会いに行ったらご飯作ってるなんて思わないですし、あんなに美味しいんだから食べたいに決まってるじゃないですか!!」


「団長、キャラが迷走してる」


『んー、取り敢えずは警戒しなくても良さそう?』


「そうだな…。警戒しても疲れるだけな気がしてきたな」


ジェスとポスカが取っ組み合いの喧嘩をしようとしているのをマンダが間に入って止める様子を見つつ、マオが逆立てていた毛を収めると撫でる手に擦り寄り久し振りの甘えん坊タイムに突入してしまう。

警戒を解き過ぎだと注意をしたいが、こうなったしまってては暫くは撫でてやらないと気が済まないのがうちのマオだ。

二人の喧嘩がマンダによって収められると、気を取り直すように咳払いをしてからポスカが口を開く。


「私達は表向きは商団を裏では情報屋を担っています。いつか貴方に接触しようとしていたのは…信用できる人か否か見定める為です」


「それで、俺は信用できそうなのか?」


「ええ、底抜けのお人好しで、情に厚いお方だと思っていますよ。番のブルルンを見逃すくらいですし」


「ん?なんで知ってるんだ」


「すんません!俺が商団長に言われてコッソリと尾行してましたっ!」


ジェスが勢いよく頭を下げて謝罪を述べてくるので気にしなくていいと返しつつ、尾行されている事に気付けなかった自分をまだまだ弱いなと思うのだった。

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