16-朝食作り

部屋から出ていく準備をしていると枕の上で眠っていた小鳥のセラフィが目を覚まし、辺りを見回し俺の姿を目に留めて数度瞬きをしてから小さな翼を必死に動かす。

ゆっくりと宙に浮かび上がるとフラつきながらも肩の上に留まっては、頬に擦り寄りつつ愛らしい声で声を掛けてくる。


『おはよ…ママ』


「え?ママ?」


『ぶふぉっ!ま、ママっ…!いったぁっ!?』


『え、パパは…ママだったの?』


『とと様はかか様でしたの!?』


『悪のりしてると若に怒られるでござるよ…?』


『ママ、ご飯作る…?見たい…』


「セラフィ、待ってくれ…俺は男なのでママはやめて欲しい…」


『やだ、ママはママ…』


ママと呼ぶセラフィに一瞬固まれば、笑う白銀の頭にゲンコツを喰らわせつつ揶揄うマオとヴィオラに目を向けると口を手で覆い顔を逸らす。

深く息を吐き出してからママは辞めるように言うも、顔を背けて拒否するセラフィにどうしたものかと思えば、神威が肩を叩いて来るので首を傾げる。


「どうしました?」


「いや、セラフィが俺の事をママと呼ぶからどうしたものかと思って…」


「なるほど…。普通はカルガモやひよこなどが刷り込みという最初に見た物を母親と思う習性を持ってるのかもしれないですね」


「あー、だからママなのか…。ある程度、年月が経てば自然とお父さんとかになるのかな…?」


「………というか、ライアはパパとかお父さんってこの子達から呼ばれてるんですね」


「まぁね。マオはパパ、白銀は旦那はん、黒鉄は若、ヴィオラはとと様、セラフィはママって呼んでくるな」


「なんか、面白いな。でも、ライアはなんと言うか…面倒見が良さそうだから分かる気もする」


「ん?んん?そうなのか?まぁ、取り敢えず飯を作るから皆を見ててもらってもいいか?」


「あ、はい。皆、おいで。ライアパパの邪魔をしたらダメだよ」


「おいコラ、神威まで悪ノリするな」


素材確認をしてもらっている間に、神威の言葉から敬称と敬語が少しずつ抜けていっているので気楽に話し掛けやすくなったと思いつつ、苦笑混じりに庭に野宿用に購入したテーブルと椅子を設置する。

急に人が増えた事を考えて椅子を多めに買っておいて良かったと思いながら設置を終えると、新しく仲間となったセラフィ含め五匹を神威が見てくれているので簡易式の調理用の器具などを取り出す。

何を作ろうかと思いながら、少し重いかもしれないが昼に近い朝食なのでオルクの腸詰めを使ったペペロンチーノとサラダに野菜とベーコンのコンソメスープを作る事にする。


「残ってもインベントリにしまっておけば問題ないしな…。先ずはパスタを茹でるか」


インベントリから魔道具タイプのコンロを三個取り出しては、作業し易いように等間隔で設置すると上に大きめの鍋と深い寸胴鍋を置く。

もうひとつはパスタを炒める際に使用する為に用意したのだが、茹で終わってしまえばコンロはどうせ空くのでひとつはしまう事にする。

気を取り直して購入しておいた飲み水を並々と注ぎながら、茹でようと思っているパスタより少し多いくらいの量となれば火を付ける。

中火位に火を加減してから水が沸騰するまでに時間が掛かるので、その間にもう異世界の名前で言う事を諦めた野菜達を用意する。

鍋の脇に野菜などを切る用のテーブルを設置しているので切った野菜を入れる為のボウルを用意してから、包丁を取りだしキャベツは1口大にカットしていき、玉ねぎはくし切り、人参は産まれたばかりのセラフィの事を考えて賽の目状に細かく切る。

傷みやすいからじゃが芋はやめておこうと思っていたが、インベントリの中は時間経過も無いし問題ない事を思い出したのでジャガイモも入れるべく皮を剥いて1口大に切っていく。


「調味料も色々購入しておいてよかったな…。と言うか、結構現実にある物がこの世界にあってくれて良かった…」


インベントリからオルクのベーコンブロックを取り出し、噛みごたえがあるように少し太めの短冊状に切っていく。

現実のいい所は色々な調味料があるお陰で料理の味付けには時間が掛からなくて済むことだろう。

まぁ、自作すれば良いのだが時間も掛かるし食いしん坊達の事を考えれば購入品がベストだ。

寸胴鍋の方に切った野菜とベーコンを入れて野菜が浸るまで並々と水を注ぐと、後から味を調節できるようにキューブ状に加工されたコンソメを二つ分入れ蓋を閉める。

野菜からも水分が出るので少し量は多くなるかもしれないが問題ないだろうと、神威達の様子を見るのに一度振り返れば一人増えているのに気づく。


「あれ?ポスカじゃないか。いつの間に?」


「お邪魔してます、ライアさん!会いに来たらご飯を作っているという事なので私もご馳走になろうかと!」


「別に一人分増えた所で変わらんしな。パスタを茹でる前に来てくれて良かったよ」


「ライアは本当にNPCと仲良くなりやすいんだな…」


「あはは、彼らと過ごすのも結構楽しいぞ?」


細かい水泡が鍋の底に見えるくらいに水が沸騰した鍋へ少量の塩を入れてから少し多めのパスタを広げるように入れ、湯の中に全体が沈み込むと麺同士がくっつかない様にパスタ用のトングをインベントリから取り出し掻き混ぜる。

その間に鷹の爪やニンニクを輪切りにし、すぐに炒められるようにオルクの腸詰めを薄切りにする。

鍋の中で揺れるパスタを見ながら時折掻き混ぜることを繰り返しつつ、一本引き上げては硬さを確認する為に口に入れる。

中心に細い芯がある位の硬さなのを確認してからパスタをザルにあけて水気を切ると、鍋は洗う為に脇に置いてから手早く広めのフライパンを用意し、ニンニクと鷹の爪を弱火で炒めて油に香りが移ると一旦取り出しパスタと切ったオルクの腸詰めをを入れる。


「………量が多いな!!」


一言叫びつつ、多人数で食べる時はパスタはやめようと思うのであった。

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