15-名付けと仕分け
指を刺した痛みに震えながら部屋の扉を開けると、何があったのか分からず首を傾げる神威が居たのだが、ヴィオラが甘えるように歩み寄って行けばその場にしゃがんで抱き上げると頭を優しく撫でている。
なつき度が最高になるとこんな風になるのかと思いつつ、少しだけ娘を取られた父親の気分になるものの部屋の中へと入るよう促せば大小様々なスカーフや、綿詰め前のクッションなどをインベントリにしまってから手当用のキットを取り出す。
「おはようございます、ライアさん。何かしてた感じですか?」
「おはよう、神威…。今、ちょっと裁縫をしててな。針で指を刺した所だ…。…昨日、俺には敬語や敬称は無しでいいって言った筈だぞ?」
「うっ…年上を呼び捨てにするのは気が引けて…」
「同じゲームを楽しむ仲間だと思ってくれ。と言うか、ゲームの中でまで歳は感じたくないからな…」
苦笑混じりに椅子に座るように促しながら、ベッドの縁に座り針を指した指に軟膏を塗ってから絆創膏をまく。
痛覚を感じるように設定しているものの、地味な痛さがリアルに再現されており眉間に皺が寄る。
ふとコソコソと話をしているマオと黒鉄、白銀の三匹がヴィオラを見て何やら話をしていた。
『おはようございますなの!』
『しれっと甘えに行ったで、あのドジっ狐…』
『昨日の一件で完全に懐いちゃったよねー』
『某からすればらいばるが減るので良い事でござる』
『『確かにっ!!』』
何やら楽しげに話をしているので悪さをしないのであれば良いかと視線を外しては、神威に素材に関して少し質問がある事を告げると、答えられる範囲でならと快く返事をしてくれたのでインベントリを開いて見せる素材を選んでいく。
不意に服の裾を引っ張られた事に気付き、視線を下にやると白銀が尾で器用に服を掴んでおり、その傍へ行こうと覚束無い足取りで未だ寝息を立てている小鳥を抱いたマオが歩いてくる。
何かあったら手伝おうとあたふたとその傍を右往左往する黒鉄が居る。
『旦那はん、その前に忘れたらアカン事あるやろ?』
『パパー、この子の名前はー?』
『兄殿!とりあえず若の傍に一旦降ろすでござるよ』
『確認したけど、女の子だったよー!』
見かねた黒鉄が降ろすように告げればマオの前に手を差し出すと、起こさない様にゆっくり手に乗せれば尾を振りながら胸を張る姿に空いている方の手で優しく頭を撫でる。
この小鳥用のスカーフを作っていたのにすっかり名付けを忘れていた事に罪悪感を覚えつつ、どうしたものかと首を傾げる。
女の子なら可愛らしい名前がいいと思い悩むも、ふと白銀を見れば女の子なのに双子だからと安易に対になる様な名前を付けてしまったなと後悔が押し寄せる。
「白銀…お前も女の子だから可愛い名前が良かったよな、きっと」
『え、いきなりどしたん?わて、この名前気に入っとるから不満を感じた事あらへんで?逆に、わてと黒が対になるような名前にしてくれて感謝しとるくらいや!』
「そうか…そう言って貰えて少し安心したよ」
『なになに?女の子っぽい名前にせんかったから不満抱いとるんやないかと思ったん?そないな事あるわけないやろー?あ、でも…悪いと思っとるならわての晩御飯を肉に…』
「それはダメ」
『まだ全部言うとらんがな!!』
「緑は確か癒しの色だ…。天然石か何かにセラフィナイトってのがあったな…。そこから取ってセラフィにするか」
『くっ!旦那はんのいけず!』
「その子は新しい子ですか?…と言うか、孵化用のタマゴ持ってたんですね」
「ははは…商売上手なアルマさんに勧められて思わず買ったというか、なんと言うか…」
白銀の嘆きに頭を撫でて誤魔化しつつ、神威に問われては苦笑混じりに返しながら小鳥の名前がセラフィと登録されれば、後でステータスを確認しようと一旦枕の上に降ろしてから気を取り直してインベントリから素材を取り出す。
最初は多少珍しい物だろうと思っていたのであろう神威の表情がどんどん険しいものに変わっていくのを見ては、これだけだとインベントリを弄る手を止める。
これ以上出したら肩を掴んで迫られそうな気がしたからだ。
「ライアさん…これは、流石に…。有名ギルドから狙われますよ…?」
「……え、やっぱかなり珍しいもの?」
「はい…ドロップ率低い素材ばかりですし、中には見た事ないのもありますから…。マオくんの幸運怖すぎるんですけど…」
『僕って怖いのー?むふふーん!!』
「何を得意気にしとるんだ、マオくんや?」
『怖い=強いって方程式組まれたんちゃうか?』
『小さな兄殿は意外と価値観が独特というか…』
『強くなりたいお年頃ですの!』
『……ヴィオ、白、黒は後で裏で話し合おうねー?』
『わて、怒られること言うてなくない!?』
『連帯責任だー!!!』
『巻き込まれ事故やないかい!!』
肩の上に登ってきたマオが腰に手を当て胸を張る姿に苦笑を浮かべつつ、微笑ましげに見ていた神威が騙されてはいけないと頭を振る。
白銀がこういう理屈じゃないかと俺に言ってくれるが、黒鉄とヴィオラが余計な事を言ったせいで後程マオよりお叱りを喰らうことになる。
流石に可哀想になり白銀の頭を撫でるとしょんぼりしながらも、ちゃんと怒られようとする所が変に真面目で可愛いなと思う。
取り敢えず普通に持っていても問題ない品を、神威に教わりながら仕分けていく。
「あ、これ…オレが探してた素材…」
「ん?どれだ?」
「えっと、この亀の甲羅みたいなのなんですけど…」
「色々教えて貰ってるし良かったらやるよ」
「いや、それは流石に…」
「いいっていいって、ソロで行動してるなら武器とか防具はしっかり整えないと大変だろ?」
マオがどこからか拾ってきた亀の甲羅を神威に手渡しつつ、ある程度し分けられた素材を
クッション用に縫った綿詰め前の布の中に分かりやすいように詰め込む。
貴重な物はそのままインベントリにしまい、後でゆっくり確認しようと思いながら作業を終えると、マオ達の方から腹の音が聞こえては朝食がまだだったなと思い良ければ作るから一緒に食べようと神威を誘うのだった。
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