14-先ずは用意

昨日は神威に色々とフレンド機能の有用性を教えて貰い、宿の部屋の前で別れてからログアウトし現実で睡眠を取った後、朝食に混ぜた納豆をレンチンご飯の上に掛けて食べながら用意した無地のノートとペンを見つめる。

神威には暫く大人しくしているようにと言われたが、何時黒い牙が掃討されるか分からないので巻き込まれる初心者が増える前に何かしらの手を打っておきたい。

俺が気にすることでは無いと思うのだが、これをどうにかしなければ先に進めないというのであれば例外だ。


「…一度、テラベルタに戻ってラルクか誰かに相談するべきか?いや…例え相談したとしても直ぐには動けないだろうし…。あの場所を占領しているという事は、何かしらの目的があるだろうからそれを探る他ないか?」


ならば、潜入するにしてもコンセプトが必要になる。

偽装するなら彼らが何度も騙してきた商人が良いだろう。

あの魅了の仮面を被れば、多少の違和感を感じさせつつも上手く懐に潜り込むことは可能だと思う。

考え事をしながら食べているとやはり完食しても食べた気にならず、眉間に皺を寄せつつレンチンご飯の容器と納豆の容器をしっかりと分別して捨てる。


「納豆を食べた後は口の中が粘つくのは仕方がないことなんだが…あんまり好きな感覚ではないんだよな…」


口の中の違和感に眉尻を下げつつ、インスタント味噌汁の素を面倒くさいからとマグカップに入れてお湯を注ぐ。

いつも早すぎる位の時間にインしている為、今日は少し遅くても問題ないだろう。

椅子に腰掛けると先程思い付いたことをザックリとノートに書きながら、そこに細々とした必要な物を書き記していく。

先ずは、体格を隠せるような服とローブに付けているリストバンドを隠す為の装備が必要だ。


「…少し大きめで手首も隠れるグローブを作るか?それか、もう片方にも似たリストバンドを付けて近くの村で流行っているので試してみていると言った方が違和感はないか?」


リストバンドの存在を誤魔化すために両手に付けて、近くの村で流行りらしいので付けている商人を演じるのはどうだろうか。

商人というのは流行らせる為に自分で広告塔になる人間も多いだろう。

念の為にファンビナ商団長であるポスカに協力してもらい、団員の皆に同じようなスタイルをしてもらえば更に信憑性は上がる。


「取り扱う品をどうするか、だな…。マオが拾った素材をチラつかせるか…?神威に確認してもらって素材の価値を確認してからそれぞれ適正よりも少し安めに設定しよう…」


商談の材料にするには少し勿体ないが、貴重な物を取り扱う事で有名になれば身分を偽りたい時に利用出来るだろう。

だが、模倣犯が出ても困るので記憶の中に真似出来ない何かを印象づけさせる必要がある。

ふと仮面の詳細に刻まれていた内容を思い出し、一度のみの幻として動くのもいいかもしれない。


「………取り敢えずは、インしたら神威に素材の価値を聞こう」


目的が纏まればノートを閉じてカプセルへと向かうと、カバーに手を付け指紋と生体認証をする。

読み取りが完了して開かれたカバーの下を潜りカプセルの中に寝転ぶと目を閉じる。

カバーが閉じる音を聞いてからArcaを起動させると、顔の上に二つの重みを感じるも口と鼻を塞ぐように乗っているので、息が出来ない状態に慌てて退かす。


「ぷはっ…俺の口を塞いで寝てたのはだ…れ…だ…?」


肺に呼吸を取り込みながら退かした存在を確認すれば、寝息を立てるマオと見知らぬ小鳥が居た。

フワフワとした柔らかな羽毛を膨らませて嘴を背中に入れて眠っており、羽の先が薄緑色で根元は灰色に近い色をしている。

嘴は小さく見た目は最近流行りのシマエナガに似ているかもしれない。

ヴィオラは腹の上に、白銀は腕に巻き付いて寝ている。

黒鉄はどこだと思って身を起こすと額の方から黒い何かが落ちていったのを見て驚く。


『うぐっ!』


「すまない、黒鉄…。額に張り付いてたんだな…」


ヴィオラの上に落ちたお陰でそこまで衝撃はなかったのだろうが、仰向けになったまま呻き声を上げて眠る黒鉄の頭を優しく撫でてから辺りを見回せば、買った時は白かった筈のタマゴの殻が薄緑色に染まっていたのか破片が枕の傍に落ちている。

マオに続いて孵化する姿を見逃してしまったのは2匹目となってしまい、思わず顔を手で覆う。


「俺は小動物の孵化には立ち会えない呪いでも掛かってるのか?」


深い溜息を吐きながら呟いては、眠る小鳥の傍に寄って抱きしめて眠るマオに笑ってしまうも、寝ている今がチャンスかと思い裁縫用のセットと布地を取り出す。

いざ縫わんと意気込むものの、イメージはあるが型紙などもなく形にするのは裁縫のレベルが低いからか出来なかったので、ならばと小鳥でも付けられそうなスカーフを作る。

裁縫に関しては、布地に針を刺す毎に熟練度が上がるのでいい練習になると思い、その他にもマオ達も着けられそうな小物を作っていく。


没頭し過ぎていつの間にかマオ達も起きており、作業をしている姿を興味津々に見ていたようで神威がログイン状態なのに中々部屋から出てこない事を気にし、訪ねてきてくれた際に驚いて指を針で刺した事でかなりの時間が経っていた事に気づいたのだった。

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