12-掲示板の人・中
食事処に入り人数を告げれば店員に窓際の二人用のテーブル席に案内され、向かい合うようにして座るとメニューを確認する。
神威に腹は減っているかと問いながらマオ達用に蜂蜜たっぷりのパンケーキを頼みつつ、互いに飲み物を注文すると店員が厨房へ向かうのを見送る。
神威がそっとテーブルの上にヴィオラとマオを降ろすと、物凄い速さでこちらに近付いてくるので何事かと思えば、白銀と黒鉄とプチキャットファイトを始めたので巻き込まれないように全員床に降ろす。
『パパは僕のなんだぞー!』
『とと様を独り占めは狡いですの!』
『へへーん、兄さんとヴィオがあの男にうつつを抜かしとるんが悪いんや!』
『久々に若に甘えられたでござるよっ!』
『ぐぬぬぬぬ!よーしっ!決闘だー!』
『わたしも頑張りますのー!』
「お前達…店の中で暴れたら、分かってるな?」
『『『『ごめんなさい…』』』』
神威から見れば四匹が互いに威嚇し合っている図なのだろうが、俺からしてみれば今にもこの場所で喧嘩を始めかねない爆弾である。
そんな光景も可愛いと思っているのか、暖かく見守るような視線を神威がマオ達に向けているのを見て悪い人物では無いのだろうなと思いこちらから口を開く。
「知らないフリをしようとしてすみませんでした。貴方がどんな人か分からなかったもので」
「いや、警戒されてもおかしくないですし気にしないでください。改めて自己紹介をさせてもらうとオレは神威って言います。基本的にソロで行動してます」
「俺はライアと言います。俺も基本的にはソロでリリース日から先日までテラベルタで過ごしていました」
「リリース日からずっとテラベルタに…何をして過ごしてたんですか?」
「師匠…あーいや、初級訓練所のラルクっていう教官に鍛えてもらってました。その他にも、アラクネや猫の遊び場などの手伝いとか…ですかね?」
「え、あの鬼教官のクエスト、クリア出来たんですか?と言うか…テラベルタで話題になってたの、殆どライアさんか…」
「毎日コツコツやってたら何とかクリア出来ましたよ、クエストは。そんなに話題になってました?」
些細な事から話し始め、共通の話題があれば擦り合わせるようにして会話を楽しんでいると、互いに頼んだ飲み物がテーブルの上に置かれれば手を伸ばしつつ、パンケーキが来るとマオ達が騒ぎ始める。
テーブルの上に乗せても平気かと神威に問えば、問題ないと答えてくれるのでインベントリから濡れタオルを取り出し、床に敷くとしっかりと足踏みをするよう告げる。
足の裏の汚れが取れているのを確認してから先にマオとヴィオラをテーブルに乗せるとパンケーキを見て尾を揺らす。
『こうやって旦那はんに拭いて貰えるんはわて等の特権やなー』
『若の用意するタオルはいつも気持ちいいでござる』
『ヴィオ、早く食べちゃおー?』
『白姉様と黒兄様は要らないそうですの』
『言うとらんやろがい!』
『ちゃんと残しておいて欲しいでござる!』
汚くなっていない面で白銀と黒鉄を拭いてからテーブルに置いてやると言い争いをしながらも、マオがパンケーキを器用に切ってそれぞれの口へと放り込みつつ、自分の分は少し大きめに切って美味しそうに食べている。
使った濡れタオルをしまい、新しいものを直ぐに出せるように用意をしておきながら神威を見れば、少し羨ましそうにマオ達を見ているので声を掛ける。
「神威さんもパンケーキ食べたかった?注文しようか?」
「いえ、そうじゃないんです。ペットが凄く懐いてるので羨ましいなと思いまして」
「アラクネには行かなかったんですか?」
「店の前まで行きはしたんですが、何時も小さな動物達に怖がられてしまうから気が引けてしまい中に入れずじまいで…」
「なるほど…」
「ライアさんはこの子達をどうやってこんなに懐かせたんですか?」
「俺の場合はこの子達をタマゴから孵して育ててるから…そうだ。暫くヴィオラを撫で回してくれる?」
「え?」
「まぁ、騙されたと思って。この子も神威くんに撫でられるの好きみたいだから」
口の周りを蜂蜜とパンケーキの食べカスだらけしたヴィオラに声を掛ければ、首を傾げながらこちらへと来るのでインベントリから新しい濡れタオルを取り出し、口の周りを拭いてから神威に差し出す。
若干懐き始めているのか尾が揺れているのを見てもう少しかなと思いつつ、神威が首を傾げながらヴィオラを受け取ると膝の上に乗せて撫でている。
ペロみたいな甘えん坊で懐きやすい子が居ると楽なのだが、我が家のペット達は一癖二癖あるので一番懐柔しやすいのは天然ドジっ狐なヴィオラだろう。
「この子、ホント毛並み最高ですよね。何か秘訣とかあるんですか?」
「んー、元からその毛量だったからね。毎日のブラッシングは欠かしてないよ」
「そこの白い子も中々の毛並みでしたけど、この子が一番だなぁ」
『やったー!褒められましたの!マオ兄様より上ですのー!』
『むむむっ!僕の毛並みはこれから本気出すんだもん!』
『毛並みだけ成長したら怖ない?』
『しーっ!言ったら駄目でござるよ!』
『白と黒、生意気ー!』
『ぎゃー!!!フォークで刺そうとするんわ無しやろ!』
『お、おちっ、落ち着くでござるよ…兄殿!』
「全く、落ち着きがない…」
「良いじゃないですか、可愛いですし」
「そうなんだけどなぁ…」
フォークを持って黒鉄と白銀を狙うマオの姿に苦笑を浮かべつつ、通知音が鳴ったのに気付けば神威が一言断わってからリストバンドを操作する。
ペロを撫で回した時と同じ称号とはいかないかもしれないが同じような効果のものが手に入れば、神威もペットを買いに行きやすくなるかと思う。
「新しい称号…もしかして、この事知ってたんですか?」
「初日に懐っこい子犬と知り合ったんだ。もしかしたらと思って試してもらったんだが、貰えた?」
「はい!これで俺もペットを買いに行けそうですっ!」
心の底から嬉しそうにする神威を見て思わず笑みを浮かべるが、アラクネに戻るつもりなら使い魔に関する話は必要だろうかと思いつつ頼んだ飲み物を口にするのだった。
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