11-掲示板の人・前

無事に宿屋を見つける事ができたのでお昼を作る為に厨房を借りようと思ったのだが、どうやら窯やコンロの調子が悪いらしく断られてしまったので、庭のような場所を借りる事にする。

早速作業に入ろうと思ったのだが、折角なので特産品とも言える蜂蜜を利用したお菓子を作りたいと思い、先に食材屋の方へと足を向ける。


『甘いお菓子楽しみー!』


『甘いのだけやとアレやからしょっぱいもんも食べたいねんなぁ』


『姉上…負のすぱいらるをやる気でござるか?更に太りまするぞ?』


『白姉様、ダイエット祭り開催ですの?』


『お前らも太ったらえぇんや!皆一緒にダイエットすれば怖ないやろ!』


「お前達が全員太ったら暫く野菜と保存食祭りにするぞ」


『………わ、わてだけ太るわ…。痩せるのも頑張る…』


白銀を慰めるようにヴィオラが声を掛けるも、心ここに在らずと言った感じに遠くを見つめる姿を見ながら、気を付けようねとマオと黒鉄が話しているのが聞こえる。

今日も今日とて賑やかだなと思っていると、店を出す場所を決めたポスカがこちらへ走ってくるのが見えた。

手を振ってやると更に走る速度が上がり目を見張るも、傍へと辿り着くも息を切らしている姿に大丈夫かと声を掛ければ頷くのが見えるが中々息が整わないらしい。


「ポスカ、急がなくていいからゆっくり息をしろ。俺は逃げたりしないから」


「は、はいっ…ふぅ、はぁ…はぁぁぁ…。久々に、全力疾走しま したよ…」


「アレで全力疾走なのか…」


「けほっ…ライアさん、喧嘩売ってます?」


「いや、そんなつもりはない。普段から駆け回ってそうなイメージだから意外でな」


「私は足よりも腕が鍛えられてるんです!あの荷馬車だって担ごうと思えば担げるんですから!」


「………それは逆に怖いんだが?」


しっかりと息が整い軽口に軽口が返ってくるようになれば笑みを浮かべつつ、どうしたのかと問い掛けると村を案内に来てくれたらしい。

丁度食材屋を探していたので案内をしてもらうと、不意に背後から大きな影が伸びて来たので振り返ると頭一つ分背の高い短い黒髪に、黒目の青年が立っており思わず肩が跳ねる。

誰だろうかと思っていると肩に乗っているマオを凝視しているのが分かり、思わず手で隠しながら声を掛ける。


「え、えっと…何か御用ですか?」


「あ、すいません。怖がらせてしまって。オレ、神威っていうんですけど人を探してて」


「神威…。申し訳ないですけど、聞いた事がな…」


『ふんふんふん…っ!この人、わたしの事撫でに来てくれた人ですの!』


「あ、コラ…ヴィオラっ!」


匂いを嗅ぎながらヴィオラがパーカーのポケットから顔を出すと、神威の顔を暫く見つめた後に耳を揺らして告げる。

なんだ、どうしたと黒鉄と白銀がズボンのポケットから顔を出し、誤魔化しきれない状況に顔を手で抑える。


「あの時の可愛い狐…それに、その肩に乗ってる子とポケットに入ってる子達も見たことあるな。もしかして、貴方が匿名さん?」


「………ハイ、ソウデス」


「そうか…合点がいった。テラベルタより先の街で調査情報を投稿した人間を探しても居ない訳だ。他の誰でもない初心者だったんだから…」


「あー…取り敢えず、ここだと目立つんで場所を変えましょう。ポスカ、座って話せる所はあったりするか?」


「近くに食事処があります。そこにお連れしますね」


状況を察したのかポスカは頷くと、先陣を切って案内をしてくれるので神威と名乗った青年と共に後をついて行く。

パーカーのポケットから顔を出していたヴィオラが頼んでくるので手を差し出し片手で抱き上げると、神威に差し出せば目を瞬かせてから両手を出して思わずと言ったように受け取るのを見て声を掛ける。


「また神威さんに撫でてもらいたいらしいので構ってやってくれますか?」


『この人の撫で方はとと様の次に好きですの!撫でて欲しいですの!』


『パパの方が撫でるの上手いのにー!』


『だったらマオ兄様も撫でられてみればいいんですの!』


『むー!いざ尋常に勝負ー!』


「いや、勝負を仕掛けるな。勝ち目ないからな?」


「うぉっ、2匹とも元気ですね。毛並みも良いし愛されてるのがよくわかる」


勝負と言いながらマオが神威に飛び掛かるのを見て苦笑を浮かべつつ、服に引っ付くとヴィオラの背中の上へと移動し胸を張って見上げている。

お兄ちゃんの威厳を見せるつもりだったのだろうが、首元や頭などを撫でられると次第にその手に身を任せ始める。


『小さな兄殿、もう懐柔されているでござる』


『なっさけないなぁ!わてやったらあの指噛んだるで!』


「牙も鋭くなってきてるんだからやめなさい」


『ちぇー…』


『姉上、発想の転換でござる!今なら若を某達で独占できるでござるよ!』


黒鉄の言葉にハッとしたような顔をしてからポケットから体を伸ばし腕に白銀が巻き付く。

久方振りに巻き付かれたなと思うと黒鉄がポケットを抜け出すと肩の上まで登り額を顎に擦り付けてくる。


「ライアさん。ここがこの村の食事処です!私は一旦露店の設置がどこまで済んだか確認してきます!」


そう言うと軽く手を振ってから来た道を戻るポスカを見送り、取り敢えずは店の中へ入るのだった。

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