10-養蜂の村 ビーネスト

朝食を食べ終えた後、村へ向かうべく街道から少し逸れた道をファンビナ商団の人々と共に歩く。

マオと黒鉄は先頭の荷馬車の屋根の上に、ヴィオラと白銀が最後尾の荷馬車の屋根の上で何やら話をしながら辺りの気配や音を確認している。


「良いんですか?マオ君達と離れてて」


「マオ達から言い出したことなんで多分大丈夫だ。街道から逸れて動いているからブルルンやウォルの気配を察知するならなるべく高い所がいいって言ってたしな」


「ごめんなさい。今更なんですが…もしかしてマオ君達と念話ができるんですか?」


「ん?言ってなかったか?」


「初耳ですよ!これで合点がいきました…ペットや使い魔にしては感情豊かだなと思ってたんです」


ポスカが納得したように頷くのを見ていると、マオが少し先にブルルンの姿を見付けたと言うので声を掛けてから先頭の方へと走る。

ゆっくりと進んでいたお陰で簡単に先頭まで追い付けば、マオが荷馬車の屋根の上から顔を覗かせ指で方向を指し示す。


『パパー。こっちの方角にブルルンが居るよー!お肉のストックするならそんなに距離もないから狩ってもいいかもー』


『昨日の肉料理は美味でござったなー』


「こっちには気付いてそうか?」


『多分、こっちが風下だから気付いてないと思うよー』


「なら、少し狩ってくるか…。マオ達はそのまま荷馬車の上から他から襲撃があった際に対処出来るようにしておいてくれ」


『わかったー!』


『任せるでござるよ!』


一瞬黒鉄の発言に不安を覚えるものの、ちゃんとやってくれると信じてマオが指差した方向へ向かい走る。

二分ほど走った場所で側頭部から一本ずつ生えた角が、額近くで絡まり一本のドリルのような先端の尖った角が生えたイノシシが二頭いた。

地面から生えている草を食べながら時折辺りを警戒するように顔を上げて匂いを嗅いでいる。

ゲームだと分かってはいるが、多少の罪悪感を感じつつインベントリから片手剣を取り出すと、角を無力化させる為にこちらから視線を離した瞬間を狙い近付いては角の根元を狙い振り下ろす。

パッシブの剣気を纏わせれば難なく切り落とす事が出来たが、怒ったブルルンが脇腹を狙って頭突きをしようとするので篭手を付けている方の左腕でガードしつつ、衝撃を逃しきれず少しだが背後に仰け反る。


「ん?よく見たら…もう一匹は角がない?アレは…腹に子が居るのか…」


角を切られたブルルンがもう一匹を庇うように前に立ち塞がるので目を瞬かせると、よく見ればもう一匹は腹が大きく角が無い。

何となくだが察すると小さな溜め息を吐いてから剣を収め切り落とした角を拾い上げる。

野生故に力量差がわかるのか、威嚇するように地面を蹴り不用意に近づいてこない雄のブルルンを見つつ、角の断面に軟膏を塗ってから切断面にくっ付ける。

接着剤代わりになるかなと思ってやった事だが、切断面が淡い光を放てばちゃんとくっついた事が分かる。


「あー、なんだ?男手が無くなったら子が産まれたら困るだろ。もう狩る気は無いから早く行け」


暫くポカンとしていた雄のブルルンだが、脇腹を雌のブルルンに触られ何かを話すような素振りを見せた後、足早にこの場を去って行く。

マオ達に叱られそうだなと思うものの、また復活するとはいえ新たな命を宿している姿を見れば狩れなくなるものだ。


「取り敢えず、商団の所に戻るか…」


小さな溜め息を吐きつつ頭を掻いてから元来た道を戻るように走る。

途中、一匹で行動している雄のブルルンに遭遇したので南無三をしながら倒し、ドロップした肉や牙をインベントリにしまう。

食料となる獣にはその命に感謝を持って討伐するのが礼儀だと思っている。


「っと、早く戻らないと置いていかれるな」


服に着いた砂埃を叩いてから再び荷馬車の方へと合流すると、何度か獣の襲撃があったのか報告をしてくれるヴィオラとマオの話を聞きつつ、団員達から礼を言われ照れている白銀と黒鉄が居た。

その後も何度かウォルの襲撃はあったが、ブルルンは遠巻きにこちらを眺めてるだけで襲ってくる事はなく村まで無事に辿り着くことが出来た。


「甘い花の香りが凄いな…」


「凄いでしょう?この花はハニーメイデンという名前で、甘い香りで獣達を誘き寄せてしまうので育てるのがかなり大変らしいです」


「そうなのか…家の周りもハニーメイデンが咲き誇っているが大丈夫なのか?」


「はい。この花を専門に扱う蜜蜂、ハニーヴィーナスが居ますので問題ないです」


『甘い香りー!』


『甘ったる過ぎてちぃとばかし酔いそうやなぁ…』


『この香りを嗅いでいると甘い物が食べたくなるでござる…』


『とと様ー!お昼は甘いものが食べたいですのー!』


荷馬車の屋根から降りたマオ達が花畑の傍に行き匂いを嗅ぎながら、昼に食べたい物をお願いされ苦笑を浮かべつつ、まずは宿探しが先だと告げれば落ち込みながらも素直にそれぞれズボンのポケットやパーカーのポケットなどに収まる。

それぞれ納まった場所から顔を覗かせれば一匹ずつ鼻先を突いてやると顔を引っ込めるが、マオだけ指にしがみつき釣れてしまった。

そのままだと危ないので肩へと乗せれば、狡いとブーイングの嵐が吹き荒れるもののマオは胸を張って尾を揺らしている。

荷馬車を引いている男達に指示を出していたポスカに宿の位置を聞いては、村の様子を眺めながら宿へ向かって歩くのだった。

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