9-朝のひと騒動

スマホのアラームで目を覚ませば、ベッドの上で大きな伸びをしてから体を伸ばす。

歪んでいたのか背骨から音が鳴ると僅かに眉間に皺を寄せる。

次いで欠伸を漏らしながら身を起こすと軽く肩を回してからベッドを降りる。


「そんな遅くならない内に寝たつもりだけど…眠いな。シャワー浴びるか」


なるべく六時間以上は眠るように気をつけていたのだが、昨日は掲示板で情報収集をしていた事もあり少しばかり眠気が残っている。

目を擦ったりする程に眠い訳では無いが、横になったら少しもしない内に二度寝が出来そうな気がする。

まぁ、寝る気は毛頭ないのだが。


「水冷たっ…目ぇ覚めるわっ」


服を脱ぎ浴室でシャワーを頭から被れば、まだ熱くなっていない水の冷たさに眉を寄せつつ手早く髪や顔を洗っていく。

ある程度の眠気も覚め、身体を洗い終えると浴室を出てバスタオルで体を拭く。

時計で時間を確認すると何か手早く出来るものがあったかと戸棚や冷蔵庫を確認し、牛乳とシリアルがあったのでボウルに入れて手早く作るとスプーンを持って椅子に腰掛ける。

バスタオル一枚を腰に巻いたままの姿で朝食を摂るのも久しぶりに思いつつ、少し硬さの残っているシリアルを口へと運び咀嚼しながら予定を振り返る。


「今日はファンビナ商団と村に行かないとな。養蜂を営む村か…蜂蜜を買っておくとパンケーキとかも作れるからマオ達に食べさせられる物が増えるな」


小麦粉や卵などもArcaの中で買ってあるので朝食やデザートに作れる物などを考えていると、いつの間にかシリアルを完食しておりながら食いの恐ろしさを感じる。

噛んでいた筈だがあまり食べた気がしないのでもう一杯食べるか悩んだが、マオ達にご飯を食べさせる際、何かしら腹に入れるので問題ないかと思い食べた食器を洗ってから下着と服を着てカプセルの中に寝転ぶ。

Arcaを起動させると目を覚ました先には俺の顔を覗き込むマオ達とポスカの姿があった。


『おはよー!パパー!』


『おはようでござるよ、若!』


『とと様おはようですのー!』


『おはようさん!わてより遅いんは初やないか!?』


「おはようございます、ライアさん。起きないようなら荷馬車に積もうかと思ってた所です」


「おはよう…荷馬車に積まれるのは勘弁…。いや、少し気になるな?」


「寝心地は最悪なのでおすすめしませんよ?」


ゆっくりと体を起こせば膝の上に乗るマオ達を一匹ずつ優しく頭を撫でてやってからポスカを見ると、朝食の支度が出来てますので後から来てくださいねとテントから出ていくのを見送る。

軽く体を伸ばしながら首を回すと、白銀が様子を伺うように見てくるのでどうしたのかと首を傾げる。


『旦那はん…昨日、わて…お肉食べてしもた…。怒る…?』


「あぁ、その事か…。ちゃんと運動するならいいさ。アレくらい厳しくしないと白銀は気を付けないだろう?」


『くっ!わての事、ほんまによぉわかっとるな、旦那はん!!』


『いや、分からない方がどうかと思うよー?』


『白姉様は運動嫌いですもの!』


『姉上は少し脅すくらいが丁度良いでござる』


『兄も妹も弟も今日という今日は許さへんぞ!喧嘩や、喧嘩!』


膝の上から降りてじゃれ合いのような喧嘩をする四匹の姿を横目に、立ち上がると使わせてもらった物を片してからテントを出れば、大鍋を囲んで騒がしくしているポスカ達の傍へと向かう。

こちらを見て挨拶をしてくれる男達に笑顔で挨拶を返しつつ、大鍋の傍まで来るとハッとしたような顔をしたポスカが慌てて駆け寄ってくる。


「ら、ライアさん!朝食はもう少しお待ちいただけるでしょうか!」


「構いませんけど、何かあったんですか?」


「その…えっと…」


「頭ぁ!なんですかぃ、この緑色のスープは!」


「あっれぇ?おかしいなぁ?さっきまでは白かったんだがなぁ?」


「あ!ジェス!お前また勝手にひと手間加えたんか!」


「昨日の料理のお礼にライアさんに精の付くもん食ってもらおうと思ってよぉ…これ入れたんだよ」


「なっ!バッ、バカ!それはあくまで薬の材料だっての、このスカポンタン!」


「いってぇ!」


緑色のスープという言葉に気になって大鍋の中を覗こうとすると、ポスカに腕を捕まれ首を横に振られる。

見ない方が良いという事なのだろうが、普段料理をするからこそどんな物を作ったのか気になるというものだ。

驚いたりしないので大丈夫だと告げてから大鍋の中を覗き込んだ事を真っ先に後悔する。


「コレは…ピレゲアの、足っ!!」


「薬の材料として欲しいと言われていたヤツの余る分を入れてしまったみたいで…朝食はもう少し待って頂けると…」


「は、ははは…良かったら俺が作りますよ…。どうせ、マオ達の食べる物を作らないとなんで…余ってるパンとかがあるなら貰えると助かります…」


「す、すいません…。昨日の夜からお世話になりっぱなしで…」


申し訳なさそうに謝るポスカに気にしないで欲しいと返しつつ、コッペパンに似たふわふわのパンを貰えたので屋台で教わったホットドッグのレシピを用いて手早く作成する。

テントの中から出て来たマオが足を伝って肩まで登ってくると、尾を揺らしながら作る姿を見ている。

その後にぐったりとした黒鉄と白銀を背に乗せたヴィオラが駆け寄ってくるが、途中で躓き派手に転んでしまう。

ヴィオラの背中から放られる形で宙を飛んだ黒鉄と白銀が、地面に叩き付けられ衝撃に目を回しているのを見た商団の男達が三匹を慌ただしく介抱する光景があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る