5-酒抜きの夕食

保存食ではない料理を泣きながら食べては酒を飲む姿を見て、泣くか食うかどちらかにすればいいのにと思いつつ、作った料理が残りそうになくて安心する。

しれっと黒鉄と白銀が酒盛りに混ざっているが問題を起こしていないので見逃してやる事にする。

あの後、酒のツマミとなりそうな猫の遊び場で提供しているマッシュサラダに、二日酔いに聞くというウィラ貝のスープを作りるも、葉物が少なかったのでスティック状に切った生野菜とマヨネーズに似た調味料を添えて出してある。


「ライアさん」


「あ、ポスカさん」


「お隣よろしいですか?」


「どうぞ」


調理器具を洗ってから食べようとMPを消費する事で水が出せる道具を使用しながら洗っていると、簡易テーブルと椅子を二脚持ったポスカが声を掛けてくる。

何か話があるのかと思い快く返事をすれば、水がかからない距離に持ってきたテーブルを設置してから二人分の料理を取り分けに向かうのを伺い見る。

鍋などの汚れが落ちるとこちらの世界での主力商品となる自動水切りカゴを取り出し設置すると洗った器具を入れてスイッチを入れる。

乾いた物から自動的にインベントリに送ってくれる機能があるのでかなり便利である。


『パパー!僕達も傍に居ていい?』


『とと様と一緒に居たいですの!』


「ポスカさんの邪魔をしないように気を付けるんだぞ?」


『『はーい!』』


用意してくれた椅子に腰掛けながら食事の風景を眺めていると、足元からマオとヴィオラの声がすれば様子を伺いつつ問い掛けてくる姿を見て成長したなと思う。

進化をしてからマオは精神的に大人に近付いている気がする。

下の弟や妹達が頼りないから成長せざるを得なかったのかもしれないが。

マオを膝に乗せてからヴィオラを抱き上げ同じように膝に乗せると、二匹仲良く丸くなっている。


「お待たせしました。ライアさんの分も持ってきたので食べましょう」


「ありがとうございます。彼らと一緒に食べなくて良かったんですか?」


「まだ酒の飲めない私が居るよりは楽しく食べれると思うので。羽目を外せる時がないと色々と溜まるでしょうし」


「なるほど…。ん?という事は今いくつ?」


「今年、16となります!若輩者ですが人を見る目と品を見る目には自信がありますよ」


「16…若いが商団長を任される程の実力がある。…なら、対等の大人として扱わせてもらいます。若いからと子供扱いするのは無礼だろうから。言葉は崩させてもらうけどな」


わざわざ二人で食べる席を設けたと言うことは何かしらの重要な話があると取るべきだろう。

膝の上に居るマオ達の背を優しく撫でてやりながらポスカに告げると、一瞬目を見張るものの嬉しそうに笑みを浮かべる。

若いと言うだけで認められない事も多々あるだろう。

それでもめげずにやってきたという事は、それだけの努力をして他の人々にも認められているという事だ。


「貴方のように私をちゃんとした商団長として扱ってくれる人に出会えるとは思いませんでした。感謝いたします」


『この人偉い人だったんですの?』


『若いのにすごーい!』


「先程話しそびれた護衛を連れていなかった理由をお話いたしましょう」


どうせなので食べながら話をしようと声を掛けてから、ブルルンのサイコロステーキを口に入れる。

肉の臭みが全くなくスパイスとバターの味が肉本来の旨味を引き出している。

ポスカも話をしようと引き締めていた表情が緩み、ほんのり頬を赤く染めながら肉を噛み締めている。

美味そうに食べている姿に思わず笑みが浮かび、膝の上に居るマオがヴィオラに声を掛け頭に乗せてもらうとテーブルの端に前足を乗せてひょこりと顔を出す。


「ゴホン…今、ラビリアからテラベルタへと向かうアステラ街道へと向かう道の一部で、黒い牙ブラックファングと呼ばれる集団が道を封鎖しているんです」


「ちょっと待ってくれ…今地図を出す」


「あ、気が利かなくてすいません」


「気にしないでくれ。腹が減ってると普段出来る気配りも出来なくなるもんさ」


話をしている間も食べる手が止まらないポスカに笑いながら言えば、肉を口に運んだ姿で顔を真っ赤に染め上げては声にならない言い訳をしている。

マオ達もクスクスと笑っていたが、自分達もよくやる事を思い出したのか次第に耳が垂れていくのがまた面白い。


「真面目な話は食事を摂ってからにしよう。腹が減ってはなんとやら、だしな」


「うぅ…すみませんっ…。普段はこんな風にならないんですけど…凄く美味しくて…」


「美味しいと言って貰えるだけでありがたいよ。ソアラさんに教わっておいてよかった」


「え、ソアラって…もしや、テラベルタの猫の遊び場の料理長をしている…あの?」


「そうだよ。個人的な知り合いで少しの間料理を教わってたんだ」


ソアラと聞いて身を乗り出してくるポスカにかなり食い気味だなと思いつつ、マオとヴィオラの口元に肉を運んでやりながら返せば感激と言わんばかりに口を手で覆う。


「まさか、ソアラさんのお弟子さんの料理が食べられるなんて…嬉しいです!」


「弟子というわけではないけど…な」


感動しているポスカを見ながら野菜スティックを所望するマオに手渡しつつ、丸パンを手に取りスープに漬けては己の口へと入れる。

味付けも丁度いい塩梅にできている事に安堵しながら、自分も食べたいというヴィオラにもスープに浸したパンを食べさせる。

奥の席で何か楽しむような声が聞こえてくれば猫の遊び場での賑やかさを思い出しつつ、色々と楽しい夕食となった。

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