4-ファンビナ商団

野宿の支度を終えた後、保存食を振る舞われそうになり白銀が駄々を捏ねたので仕方無しに大量に作れる料理を思案しながら調理器具を用意していた。

テラベルタで次の村までにどれくらい距離があるかは地図だけだと分からないので、多めに食材を買い込んでおいてよかったと言える。


「………20人分位作ればいいのか?白銀は一匹で三人分はペロリだしな」


『若、何か手伝いまするか?』


「黒鉄か…じゃあ、火をつけてもらっていいか?」


『承知!』


服を何かが登ってくる感覚にマオかと思っていると、ポンコツのレッテルを貼られてしまった哀れな黒鉄だった。

急拵えの竈に薪を入れておいたが、まだ火は付けていなかったので頼むことにする。

ちゃんと加減はするように言い含めると尾を垂らしながら、ボソボソと詠唱すると小さな魔法陣が薪の下に描かれ火が灯る。


『若、付けたでござるよ』


「ありがとう、黒鉄。マオ達はどうしてる?」


『助けた人々と遊んでいるでござるよ。周囲の結界も問題なく作動しているので嫌な気配は感じないでござる』


「なら良かった。行商人と言うなら護衛を雇ってそうだが、何故商人だけで動いてたんだろうな?」


「よくぞ、聞いてくれました」


「うぉっ!?」


食材の状態を確認しては腹が脹れる芋などの野菜を豊富に使ったスープを作ろうと、早速と言わんばかりに包丁を取り出した所で背後から声を掛けられ体が跳ねる。

緩く握っていただけの包丁が危うく手からすっぽ抜けそうになった。

いきなり声を掛けたことに謝罪をする青年に大丈夫だと返しながら、料理の支度の手は止めずに進めていく。

その手際を眺めながら感嘆していたものの思い出したように胸に手を当て深々と頭を下げては、ゆっくりと顔を上げた小麦色の肌に金色の髪を短く切り揃えた茶色い瞳の幼さの残る顔立ちの青年が言葉を紡ぐ。


「自己紹介が遅れました。私は、ポスカと言います。迷宮都市 ラビリアを拠点として活動するファンビナ商団の団長をしております」


「あ、俺はライアと言います。商団長さんだったんですね」


「戦闘の際には何も出来ず荷馬車に乗っている事しか出来ていなかったので…。この度は、我が商団を助けて下さりありがとうございます」


「たまたま通り掛かっただけですよ。殆ど俺の使い魔達が倒したようなもんですし」


「そんな事ありませんよ!貴方がウォルの尾や足を傷つけて行ってくれなかったら襲い掛かられていたでしょうから」


顔の前で手を振りながら苦笑混じりに告げるポスカを横目に、何時か使うかもしれないと買った大きな寸胴鍋を取り出す。

ブルルンのドロップする肉を一頭分取り出しては筋を切るように包丁を入れながら一口サイズにしていく。

臭みを取るためにソアラから持たされたスパイスをまぶしてはよく揉み込んでいく。


「手際が良いですね。普段から料理を?」


「まぁ、一人暮らしをしていたんでそこそこやってますかね。今じゃ、保存食を嫌ったコイツらに食べさせる為に沢山作るのは慣れたもんですよ」


「なるほど!ふむ……………やはり、今の内に縁を築いておいて損は無さそうだ」


「何か言いました?」


「いえいえ!私達の分まで作っていただき申し訳ないなと…」


「ははは…蛇が居るでしょ?白銀って言うんですけどアイツが1番食べるので逆に喧嘩しなきゃいいなと思ってるくらいです」


話をしながら暫く置いておいたブルルンの肉の状態を確認してから寸胴鍋を火に掛けるとそこにバターを落とし溶かしていく。

寸胴鍋のそこに溶けたバターが満遍なく塗れた事を確認してから肉を投入し焼いていく。

スパイスとバターの焼ける香りが辺りに広がり、匂いに釣られた人々がチラチラと簡易で作った料理場の方を伺い見ている。


「んー、焼けたら少し食べてますか?肉は多めに焼いてるんで」


「え、いいんですか!?」


「いやもう、その口からヨダレが垂れているのを見たら…な…?食べてれば他に作ろうと思っている料理も待てると思いますし…」


「はっ!?」


ポスカの口端から涎が垂れているのを見て指摘すれば、恥ずかしそうに拭っている姿を見て笑ってしまうも、行商人ともなれば食事を取れるのは街や村に立ち寄った時なのだろう。

保存食ばかり食べていれば作っている最中の暖かい食べ物の匂いは胃袋を刺激するものだ。

ブルルンの肉は焼きあがったらこのまま出す事にするも器がないなと思っていると、ポスカが急いで荷馬車に走って行き器になりそうな食器を持ってきてくれる。


「これをお使いください!ダンジョンで取れた木材を利用して作った食器です!」


「いいんですか?なら、お借りしますね」


大皿を受け取りながらつい癖で鑑定をしてしまったが、名うての職人が作った物という事が書かれており思わず裏面を確認する。

何かの葉をモチーフにした焼印とサインが刻まれている。

流石にタダで使うのは勿体ない代物であるのでポスカにひとつ提案をする。


「団長さん。これ、買わせて貰ってもいいですか?」


「え?そちらをですか?」


「見た所、かなり腕のいい人が制作したんでしょう?俺が買い取れば遠慮なく使えるじゃないですか。そちらも利益になるしいいと思いません?」


「ふむ、ならば…今回助けていただいたお礼としてそちらを差し上げるという形がこちらとしては嬉しいですね」


「いやでも、これ…いい品じゃないですか」


「ふふっ、貴方と縁を築きたいと思いましたので先行投資も兼ねてますからお気になさらず」


物の価値を見抜いた事で殊更評価が上がったのか、ポスカがウィンクをしながら告げる提案を受ける事にし、遠慮なくブルルンのサイコロステーキを皿に盛る。

ポスカが指示を出すとマオ達と遊んでいた人々が、テキパキとテーブルや椅子などを中央にある焚き火を囲うように用意するのを見て余程腹が減ってたんだなと思う。

丸パンや葡萄酒なども持ち出して来ているのを見て、肉をツマミに酒盛りをしようとしているのが分かる。

黒鉄にマオ達も一緒に食べているようにと言伝を頼みつつ、忘れてはいけないとサラダを盛り付けると商団の人々と共に肉を食べようとする白銀を捕まえる。


『だ、旦那はん!?なんで!?』


「まだステータスが太り気味だろ?だから、白銀はサラダだけだ」


『嘘っ!嫌や!今日だけ許して!許してぇぇぇ!』


痩せる痩せると今まで食べ続けた白銀にお灸を据える為にも、一匹だけ離れた場所でサラダを食べさせる。

残さないように告げてから調理場に戻るも、こっそりとお肉をあげにいく爬虫類好きの男を見掛けたが、何も見ていない振りをして次の料理を作るのだった。

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