3-行商人一行・後
野盗を縛り上げた後に紐の先を握り、引き摺りながらマオと一緒に指示をしていた男の元へと戻ると、ヴィオラの前に黒鉄と白銀が土下座をするように伏せている。
何事かと傍へと行けば怒ったヴィオラの声が耳に届いた。
『黒兄様、白姉様?とと様が許したとはいえ限度というものをご存知ありませんの?わたしが結界を張らなければ助ける為に来たのに彼らを危険に晒す所だったんですの!』
『あの、その…な…?こう、テンションが上がってしもて…』
『テンションが上がって村を滅ぼすレベルの魔法を放ちますの?村が幾つあっても足りませんの!』
『すんまへんでした…』
『某は、姉上が放った魔法と釣り合うものをと思い…』
『黒兄様の魔法の威力はご自分で分かっている筈ですの!加減が出来るようにならないといずれはとと様を巻き込んで大変な事になったらどうしますの!』
『面目ないでござる…』
『とと様がいいと言うまで反省してくださいまし!』
『『はい…』』
ヴィオラに怒られた白銀と黒鉄により、その一帯だけお通夜モードとなっていたのだが、周りの光景を見ては庇い立てができず思わず顔を手で覆う。
ウォルが居た場所には、巨大な氷柱と炎柱が建っており結界で囲われた大地は炎で焼かれた後、凍り付くような寒さに襲われるのかウォル達が炎に焼かれては凍てつきを繰り返す光景があった。
もはや、光の粒子となるのも許されないのか生き地獄のような状態と化している。
それを傍から見ている助けた人々も大分引いているのか、かなり三匹から距離をとった場所で自分達の怪我などの確認をしている。
「おお、兄さん!ソイツらがウチの荷を狙っていた奴らかい?」
「はい。それと、すみません…。使い魔達が暴走したみたいで…」
「あぁ、いや…驚きはしたがこちらに危害を加える隙を与えないように大技を使ってくれたんだろうからあんまり怒らないでやってくれ」
小狐が蛇と蜥蜴を叱っている光景を見て哀れに思ったのか、逆に気を使われてしまう形となりいたたまれない気持ちになる。
荷馬車を狙っていた野盗達を引き渡しつつ、ふとマオへと顔を向ければ彼らに何を使ったのかと声を掛ける。
「マオ、単独で先に向かったのは頂けないがよくやったな。と言うか、一体何を使ったんだ?護身用の催涙爆弾とかしか渡してなかったよな?」
『えっとねー!色々拾いながら歩いてたらね!なんか凄そうな爆弾を二つ拾ったから一つ使ってみたのー!パパにもあげるねー!』
「すごく嫌な予感しかしないんだが…」
収集ポーチ内の容量が大きくなった事で更に物が詰められるようになった事を喜んでいたが、まさか爆弾を見つけているとは思わず額に汗が滲み始める。
暫くポーチの中を手探りで探した後、見つけた事を喜ぶようにマオの尾が揺れているなと思うと手榴弾のような形の深紅の爆弾を差し出される。
恐る恐る受けとりマオと居るお陰で順調に上がりつつある鑑定のスキルを使用する。
〈
効果:怒れる龍すら一発で酔わし無力化させる事が出来る代物(廃棄間近の為、成功確率は20%)
※廃棄間近なので人へも使えるが、作り立ての新品は死んだとすら気付かぬうちに永遠の眠りへ誘う〉
「…………は?」
『どう?どう?凄いのだったでしょー?』
「マオ…今度から拾った物は俺が確認するまで絶対に使わないこと」
『なんでー!?』
「パパはお前を人殺しにしたくないからです」
必死に抗議するマオを宥めるように頭を撫でてやると不貞腐れながらも納得したのか指に擦り寄ってくる。
ペットや使い魔を四匹連れているのは中々に珍しいのか助けた人々が興味深そうに見ているのが分かれば、嫌がるような事をしなければ触れても大丈夫と告げるとヴィオラに群がっていく。
いきなりの事に慌てながらも嫌な感じに触る者は居ないのか、柔らかな毛に手が埋まると幸せそうな笑みを浮かべる姿を見て存分に癒されて欲しいとも思う。
「すまんな、ウチの連中が…」
「いや、なんだかんだ人が好きな子達なんで良ければ構ってやって下さい」
「じゃ、じゃあ…俺はあそこで落ち込んでる蛇と蜥蜴を触らしてもらうかな…。実は爬虫類が好きでさっきは俺の手の上でイキイキしてる姿が凄く可愛かったんだ…」
申し訳なさそうに頬を掻きながら、白銀と黒鉄の傍に行くと驚かせないように気を付けて触っているのを眺める。
十分反省しているようなので今度は羽目を外さないようにと言い含めつつ、撫でてきた男の腕に白銀が巻き付いたり黒鉄が手に乗ったりとサービスをしている。
「あ、そういえばこの後はどうするつもりで?」
「もうすぐ日も暮れるからな…。魔物や獣達も活発になるからここで野宿になるだろう」
「そうですか…。なら、俺達も一緒にいいですか?見た所、あまり戦いには慣れていないようなので」
「本当か!?凄く有難い!食料や寝床は俺たちに任せてくれ!助けて貰った恩も返さなきゃな」
指示をしていた男が共に野宿をする事を提案すれば、先程のウォルの襲撃が余程堪えていたのか手を握ってくる。
その旨を即座にヴィオラと遊んでいた連中に伝えると、名残惜しそうにしながらも野宿の準備を始める。
怪我をしているものも少ないようで被害が最小限で済んだのはまだ良かったが、未だ消える様子のない白銀と黒鉄が作り出した地獄絵図を見て不安に駆られる。
「ダメージを受けた大地がちゃんと元通りになればいいんだが…」
『んーどうなるんだろうねー?このままだとクレーターになりそうー』
「まぁ、手に負えない魔物が暴れた後よりはマシ…だと思いたいな」
和やかなムードになっている助けた人々の様子を見つつ、もう一度辺りに敵が居ないかマオと共に散策してから野宿の支度を手伝うのだった。
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