2-行商人一行・前
マオの後を追いアステラ街道から少し外れた平原のような場所で、三台ほどの荷馬車とへっぴり腰で武器を構えてウォルの襲撃に応戦しているのが遠目に確認できる。
『パパー。ウォルはまだこっちに気づいてないよー。周囲にも他に敵が居ないか見てくるねー!』
「頼んだ、マオ。敵に気づかれないからと言ってあまり無茶はしないように」
『はーい!』
平原には不釣合いな大岩にマオがよじ登って荷馬車の方を見ながら、風に乗って運ばれてくる匂いを確認しつつ俺の言った言葉に頷くと周りを確認しに走っていく。
ヴィオラと黒鉄を大岩の上に降ろしては、白銀のみ連れて群れに襲われている荷馬車の方へと走る。
白銀も魔法の詠唱をしながら辺りへの警戒を解く素振りは見せない。
『若、手当用の治癒魔法の準備はしてるので支援はお任せを!』
『とと様!マオ兄様が帰ってきたらお伝えしますの!』
「わかった!白銀、荷馬車周辺の人間を巻き込まないように先ずはウォルの注意をこちらに引くぞ」
『合点承知之助や!』
「お前…そんなのどこで覚えたんだ…」
白銀の返答に苦笑を浮かべながらも、先程使用した店で購入した片手剣をインベントリに仕舞いつつ、師から貰った武器を取り出しては縁に金で装飾がされた漆黒の鞘から抜き放つ。
現れた緋色の刀身には昇竜のような彫刻があしらわれており、初めて見た時はその美しさに驚いたものだ。
鞘を持ったままこちらに気づいていない1頭の背後から襲い掛かり、先ずは機動力を削ぐ為に尾と片足を斬る。
「ありゃあ誰だ!?」
「冒険者か!?」
「お困りのようなので助けに来ました!」
「助かるよ、兄ちゃん!うぉっとと!」
「なるべくこちらに気を引けるように頑張りますが、自分の身はどんな手を使っても守って頂けると有難い!」
『とと様!マオ兄様からの伝言ですの!荷馬車を狙った野盗らしき人影が居るそうですの!』
『すまぬ!止めたのでござるが、道具をぶつけてくると行ってしまわれました!』
「なにっ!?」
『最近、兄さん張り切っとるからなぁ…』
ゆっくりとしている暇が無くなり苦笑を浮かべつつ、ウォルの数を確認しながら尾を切り落とすついでに足を切り付けていく。
尾が無くなり足に傷を負った事で動きが鈍くなった事を確認してから、包囲網を抜けて囲まれている人達の方へ行けば顔を見渡す。
疲労が色濃く出ているのを見て僅かに眉尻を下げつつ、指示役を担っていそうな人物へと声を掛ける。
「貴方が指示を出している人か?」
「ん?その声は…あぁ!あの声の主か!」
「いきなりすまない。ウォルの動きが鈍くなるように尾を切り落としてきた。俺の使い魔をここに置いていく」
「え、おぉ…何かあったのか?」
「俺のペットが荷馬車を狙っている野盗が反対側に居るのを確認したらしい。白銀と言うんだが範囲魔法も扱えるからこちら側にいる方が何かと都合がいいと思う」
「そうなのか!?範囲魔法が使える使い魔なんて…アンタはスゴい奴を連れているんだな」
首に居る白銀に声を掛れば心得たというように腕の方へと張ってくるのを見て、相手に手を差し出すように言う。
恐る恐る差し出された手に白銀を乗せながら範囲魔法を使えると言えば、緊張が解けたのか目を見開いてまじまじと見ている姿に思わず笑ってしまう。
白銀の視線を感じたので目を合わせれば、ウォルに一度視線を向けてから声を掛けてくる。
『旦那はん。この人らウォルの素材が欲しかったりするか聞いてもろてええか?』
「ああ…聞いてみよう。見た所、行商人と思われるがウォルの素材は欲しかったりするか?」
「いや、ウチは毛皮関連は取り扱っていないから必要ないよ」
「だそうだ。白銀、黒鉄と連携してウォル達を倒してしまって構わない」
『承知でござる!』
『よっしゃ!腕がなるわっ!旦那はんは小さな兄さんを頼むで!』
「ウォル達を片付けたら後二匹、俺のペットの小狐と蜥蜴が来るので剣を向けないようにお願いします」
白銀の頭を撫でてからその場を後にすると、荷馬車の方へと向かって走る。
背後で寒気が渦巻くのを感じ背後を盗み見れば、生き生きとした白銀が魔法陣を展開しているのを見て大丈夫だろうかと思いつつ、いざとなれば黒鉄が止めるだろう。
そう思いながら大岩の方を見れば、白銀同様に熱気が渦巻いており思わずという感じなのか、被害が及ばぬようにヴィオラがウォルのみに影響が及ぶように魔法陣も一緒に閉じ込めるように結界を張っている。
「アイツら…後で説教だな…」
見るんじゃなかったと後悔するものの、撃ち漏らしはなく解決する未来が見えれば荷馬車の裏手に回った所で爆発音が響き渡る。
かなり大きな音に顔から血の気が引く。
「マオ、どこだ!!」
『あ、パパー!ここだよー!!』
「………え?」
『この荷馬車、ちょうどいい高さだったのー!野盗を一網打尽!僕えらいー?』
思っている以上に焦りを含んだ声が出てしまい自分に驚きつつ、マオの姿を探せば声がした方を見ると荷馬車の上で手を振る姿を見て安堵する。
腰に手を当てて尾を振るマオに手を伸ばせば、空中で回転しながら飛び降り手のひらの上に着地すると褒めてと言わんばかりに擦り寄ってくる。
取り敢えずは怪我がないかを確認してからマオの鼻先をつつくと、目を回して倒れている数人の野盗を見て縛り上げる縄を貰ってくる事にした。
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