2章 迷宮都市 ラビリア

1-旅は順調?

テラベルタを後にした俺はラルクから貰った地図を参考に、フィールドボスの生息する区域の傍にある村を目指してアステラ街道を歩いている。

現在、フードの中にマオとヴィオラが入っており、首元には白銀、黒鉄は二の腕辺りに張り付いている。

街道を歩いているからかウォルやブルルンは滅多に出て来ないが、人型で腹が出ており額に角のあるグルゴンと頻繁に遭遇していた。

今も五体程のグループで行動していたのであろうグルゴンが口から涎を垂らしながら棍棒を持って威嚇してきている。


『旦那はん!コイツら、群れで向かってくるからくっそ怠いんやけど!』


「そういうな、白銀。俺もそろそろコイツらと戦うのは飽きてきてる」


『パパー!こんなヤツらさっさと倒しちゃってー!』


『やっちゃえー!ですの!』


「ぐっ、マオ、ヴィオラ…っ!フードの中で騒いだらダメだと言ったろ…首が締まるっ」


『小さな兄殿、ゔぃおも言うことを聞かねばダメでござるよ!』


『黒は未だにカタカナみたいな名称は拙くなってまうねぇ?成長したら変わるんやろか?』


『くっ!!気にしているのにっ!』


「ほら、無駄口はここまでだ。奴らが痺れを切らしてこっちに来てるぞ」


隙あらばコントのような会話をし始める4匹を窘めつつ、向かってきているグルゴン一体へと視線を向ける。

インベントリから初期装備とも言える普通の片手剣を取り出し構える。

白銀と黒鉄に目配せをすれば小さく頷いた後に魔法の詠唱を始めたのを確認してから一歩踏み込む。


「悪いが、ここに来るまでにお前たちの対処法は粗方覚えたんでな…」


ボソリと呟くと棍棒を振り被るグルゴンの懐に潜り込み、片手剣で腹を切り付けてから傷口に追撃を食らわせる様に蹴りを入れる。

腹が出ているので重そうに見えるが、ウォルやブルルンよりも圧倒的に軽い部類の敵なので後ろに続いて居た仲間の方へと吹っ飛んでいくのを確認する。

詠唱を終えた白銀が待ってましたと言わんばかりに魔法を発動させる。


『押し流せ…水波すいは!』


口の前に魔法陣が浮かび上がると大きな水の玉が白銀の前に現れ、波紋が少しづつ広がっていくと鉄砲水のように直線上に発射される。

距離が遠くなる程に扇状に広がり、五体居たグルゴン達の傍へと届いた頃には波のような波紋と共に襲い掛かり飲み込む。

街道の石畳が水に濡れた事を確認し、肩に居る黒鉄が今度は魔法を発動させる。


『閃き穿て…閃雷矢せんらいし


黒鉄の言葉と共に魔法陣が光ったかと思えば、一瞬の瞬きよりも速く何時放たれたかも分からぬ内に濡れた石畳に刺さった白い矢があった。

次の瞬間、矢の中に溜め込まれていたかのような雷が爆ぜたかと思うと、遠くに押し流されていたグルゴン達が黒い炭と化していた。


「相変わらず…一撃一撃が必殺レベルだな、黒鉄は…」


『この装備のお陰で威力が増しているでござるからな!』


『なぁ、旦那はん…。あれ多分、戦利品もダメになってそうやない?』


「あー…まぁ、毎度の事だしな」


『黒は加減できないもんねー?』


『黒兄様はポンコツですの!』


『どじっ狐には言われたくないでござる!』


『何を上手いこと言うたみたいな顔してんねん…』


炭と化して消えたグルゴンの居た場所を見ながら話をしつつ、戦利品は消えてしまうが白銀と黒鉄の連携は回を増すごとに良くなっている。

やはり双子という事もあるのだろうが、前に言っていた共感覚が関係しているのだろうか。


「そういえば、前に白銀が言ってた共感覚はどれくらいの範囲まで把握できるんだ?」


『む?共感覚?姉上がそう言ったのでござるか?』


『そうやで!わてと黒は共感覚っちゅう便利な物があるって教えといたんや!』


『……姉上、某達は確かに感覚を共有する事も出来るでござるが、共感覚とはまた違ったものでござろう?』


『えー…やって、そう言った方が早ない?』


『意味が変わってきてしまうでござるよ。若、某達は元は一つの存在である故…思考などの共有が可能なのでござる。今まで居た街からここまでの距離でも問題なく意思疎通はできまする』


『実は、黒は凄い子ー?』


『黒兄様、ポンコツ脱却ですの?白姉様が可哀想ですの!』


『コラ、ヴィオラ!どういう意味やねん!』


『キャー!ですの!』


黒鉄の説明を聞きながらそういうものなのかと思うも、ふと元は一つの存在だったという所が妙に引っ掛かった。

確かに一つの卵から白銀と黒鉄が産まれた事は不思議に思っていたが、ひとつの存在だったという事は何かの拍子に別れる切っ掛けがあったという事になるだろう。

思い当たる節は今の所ない為、直ぐに答えを導き出せずモヤッとしたものが心に残るものの、じゃれ合う四匹を見ながら些末な事かと思えば気を取り直して街道を歩くペースを上げる。

時間をこまめに確認しながら場合によっては野宿の事も考えていると、不意に悲鳴が聞こえたかと思うと耳を立てたヴィオラが背筋を伸ばし音のした方角を見る。

フードを出てマオがゴーグルをすると走る気満々で準備運動を始める。


『とと様、あちらで人が襲われてますの。応戦してる様なのですが、状況は不利と思われますの』


「初心者が少し強めの敵と戦いにここらまで出てきたのか?」


『パパー。採取しながら見てくるねー!後から来てー!』


『マオ兄様!わたしも行きますの!』


『やめとき、ヴィオラ…絶対転ぶのが目に見えとるからココは小さな兄さんに任せとき』


「マオ、気を付けるんだぞ。あまり近付き過ぎないようにな」


『うん!あんまりにも襲われてる人が危なそうならパパが用意してくれた道具投げるー!』


『待って、わて…心の準備、がぁぁぁぁっ!!』


そう言うと先に走って行くマオを追い掛けるように走り出す。

あまり距離が離れてしまわないように気をつけつつ、着いた時に体力が底を付かないような速度で走る。

それでも大分早いのかしっかりとしがみつく黒鉄とヴィオラが居たが、白銀だけは泣きながらマフラーの様にはためいていた。


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