Arca運営陣 episode.1・後

少し暗めの部屋の中で複数置かれた小さなモニターと向かい合いながら巧みにキーボードを叩く白衣を着た少女が居た。

長い髪をツインテールに結っており、額にはモニターの光を反射するゴーグルをしている。

その傍にはスーツケースを枕にして寝ている中肉中背の男が居る。


「Mくーん。時間だよー?起きないとOくんに怒られるよー?」


「…んーー、あと1年寝かせて」


「ボク達からしたら一年はあっという間だけどちゃんとしないとー。あー、まーたハッキングー」


カタカタとキーボードを叩く音はそのままに背後を振り返りながらMと呼んだ男を少女は見る。

眉間に皺を寄せながらも小さな溜息と共に身を起こし、欠伸をするMの姿を見届けてから再び少女はモニターに向き直る。


「はい、起きました。Oも人使いが荒いよなー…いや、柱か?」


「はいはい。無駄口叩いてないでしっかり目を覚ましてー?」


まだ寝たいとごねるMに発破を掛けつつ、少女は搭乗者のネットバンクの金を引き出そうと不正アクセスを試みているハッカーと戯れている。

その他にも搭乗者の情報の乗っ取りや、チートによるデータの書き換えを試みる者たちも、ついでにまとめて相手にしている。


「あ、これは悪手だったねー?頑張ったご褒美に爆弾をどうぞー!返り討ちにあったハッカーくんは二度とその家の電子系統からネットへのアクセスは出来ないでしょーう」


「Aちゃん、もうバリッバリのプログラマーじゃん。文明の利器使いこなしちゃってるし」


「ふふーん、それほどでも〜!けど、ほんとに凄いのはコレを発明した子供達かもねー?ボク達が忘れ去られていくのも仕方なさそう」


ひと仕事を終えると椅子から飛び降りて、白衣から棒付きキャンディーを取り出すと口に咥える。

Mと呼ばれた男は枕にしていたスーツケースの中から書類を取り出すと、ゴールドを各通貨に変換する際の金利等に関してあの手この手を使い許可をもぎとった書類を封筒に詰める。


「モニタールームまで距離あるんだよなぁ…ここから…」


「行ってらっしゃーい」


「くっ…行ってきます…」


肩を落としながら部屋を後にするMの姿を見送ると、少女はソファーに腰掛け大きく伸びをする。

あらゆるゲームの水準は大幅に上がり、ダイブ型のVRMMOが増えてきたお陰でいろんな面でこの世界は発展している。

四肢を欠損した者も過去の生態データを元に、四肢が存在していた頃の感覚をしっかりと取り戻した状態でゲームを遊ぶ事ができる域にまで発展したりしているのだ。

神の奇跡のような時間を過ごせる分、依存し過ぎて現実で破滅する事も少なくは無いらしいが。

それ故に、本人のデータをベースにしないと成り立たないため、ボディメイキングなどは行わせない事が暗黙のルールとなっている。


「まぁ…実の所は本来の自分の身体と違う身体で操作に慣れちゃうと、現実の身体で行動した時に齟齬が出て生活に支障をきたすからどこの会社も禁止してるってのが本音だけどねー」


棒付きキャンディーを舐めながら独り言を呟けば再度作業に入るべくソファから立ち上がる。


「顔も弄らせないのは、自分の行動に責任を持たせる為だけど…まぁ、ここら辺は性格にも寄るだろうし難しそうだよなー。……さっ、気持ちを切り替えてハッカー退治頑張りますかー!今度はどんな子が来るかなー?楽しみだなーん」


飴が無くなった棒をゴミ箱に捨て、新しい棒付きキャンディーを白衣のポケットから取り出し咥えると、再度モニターの前の椅子に腰掛け懲りずにハッキングを仕掛けてくるハッカーと戯れるようにキーボードを叩きながら少女は鼻歌を歌うのだった。


ーーーーー


一方場面が変わり穏やかな陽の下で二人の女性が一人の男性を囲んで書類を見せながら会話をしている。


「P様!なんですの!この可愛くない魚型の敵は!」


「魚に人の足を生やす、気持ち悪すぎ…嫌悪…」


「む、この書物を参考にしたのだが…」


「まぁ!そのデフォルメが効いた書物を参考にしたんですか!?」


「この本、多分Lの…参考、ダメ」


「皆、こういうのが好きなのでは無いのか?」


「人によります!!」


既に作成してしまった敵に関してダメ出しを喰らいPと呼ばれた男はしょんぼりとしながら叱責を受け入れる。

その間に、一人の女性がお茶をそれぞれの前に配ると、話題が変わるので一旦気持ちを落ち着かせるように全員お茶を一口飲んでから、その他の提案をする為に違う書類を出す。


「取り敢えずもう世に出てしまう為に組み込まれてしまっておりますので仕方がありませんわ。気持ちを切り替えてこちらの話をいたしましょう」


「ああ。ふむ…搭乗者達を助ける動物達の作成か」


「新しい、動物…創造、ワクワク!」


「取り敢えずペットと使い魔という大まかな二つのグループに分け、成長型を晩成、標準、早熟の3つに分けようと思いますわ」


「異議なしだ」


「早熟型、基本的にペット…。標準型、バランスよく…ペット、使い魔変化可能…。晩成型、進化の過程…多く、条件厳しめ使い魔…どう?」


「バランスを考えるとその案でいいと思いますわ!ペットと使い魔の種族に関しては分かりやすく名前を明記してあげるのがいいかと思いますわ」


「ふむ…こちらの世界の動物達をベースにしつつ能力に沿った種族名を考える必要があるな」


「そうなりますわね…。Arcaの世界の希少な原生生物となる宝石獣や陰陽を司る王達の種族名称はそのまま使用するつもりでおりますの!」


「賛成、彼ら、尊重…大事」


「ふむ、ならば搭乗者達への提供は全てタマゴがよさそうだな。そうすれば確率という形で平等に搭乗者の手に渡る。一部は中身が分かるようにして市場に流せば競争率も上がるだろう」


ペットや使い魔の制作に関する話を開発案として書類に纏めOに提出し、可決されたのだが序盤で貴重な生物達が一人の搭乗者の元に集中して誕生してしまった事により、この三人が慌ただしくする事になるのも時間の問題となる。


ーーーーー


「ふんっ!ふんっ!筋肉を動かすのは素晴らしい事だっ!」


「いや、A先輩…トレーニングよりも戦闘スキル関連の案が…」


「甘い!甘いぞ!筋肉を動かす事で発想を得られるんだ!貴様も早くそこのダンベルを持ちたまえ!」


「ひぇっ!1tのダンベルなんて無理ッスよ!」


「それぐらいも持てないでどうする!!ならば、外を走ってこい!」


3tのバーベルを持ち上げながら、筋肉こそ正義と書かれた白のタンクトップに、ハーフパンツを着用したAと呼ばれた男は黙々とトレーニングをこなす。

とりつく暇もなかったので下の者で勝手に制作する訳にもいかず全然書類が埋まることもなかった。

何も案が出ることも無く戦闘スキルの発案書の提出日を迎え、部下達は連帯責任として怒り狂ったOによるお叱りと罰を受ける事となるのだった。


「ふはははっ!反省の為に正座で一週間過ごすなどトレーニングの一環と見れば俺にはおちゃのこさいさいだ!」


「「「ホント、マジで少しは反省してくれ筋肉バカッ!!!」」」


その後、OがAを他所に部下達としっかりと話をして戦闘スキルに関するデータを作成することとなる。

何故か訓練所を任せるNPCに関する事だけはAが積極的になり秒の速さで決めた発案を提出し許可が降りるも、後から重要人物などを序盤の街に配属させたりしていた事が発覚し大騒ぎになるのだった。

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