1章~外伝~

Arca運営陣 episode.1・前

大画面に様々な場面が映し出されるモニターを確認しながらデスクの上に山積みにされた書類に目を通す眼帯を付けた一人の男が居た。

30代くらいに見える容姿に煙草を咥えながら尋ねてくる人々に指示を出している。


「今の所、大きな不具合は無さそうだな。そこのエネミー担当の奴、現在狩られてる中で1番多いのは?」


「はっ!グルゴンとウォルが大半ですね。レベルも初日で10を超える搭乗者がかなり見受けられます」


「今日中に最初のフィールドボスが抜かれるかもしれねぇな…その先の街の様子もチェックしろ。他の国担当の奴等からはなんか来てるか?」


「アチラでは水場からスタートする国もあるので低レベルのメディカとゲコロンなど沢山生息している物が狩られてるそうです」


「分かった。序盤で10まで上げる奴がいるならフィールドボスを抜けた先の敵のレベルは11とか少し経験値渡しにくいようにしておけ」


「分かりました」


話しながら纏めたメモを紙に書き殴ると、会話をしていた社員に手渡し灰皿に煙草の灰を落としてから次の案件を確認する為に待機している社員を呼ぶ。

呼ばれては上擦った声を上げながら走ってくる白衣姿の女性の持っている書類に目を通しつつ、モニターでNPCに暴力を振るうプレイヤーを見て監視するようにモニター班に途中で指示を出す。


「研究班か。HとTが開発した栄養補給関連の報告書か……は?」


「あの、あのですね!?H様とT様が知恵を出しまくりまして…開発もかなり捗ったのかちょっと予想外な物を作りまして…」


「アイツら…ある程度の常識はわきまえてると思ったが結局やらかしてくれやがって!」


「すいませぇぇぇん!止めたんですけどぉぉ!」


「あー、お前のせいじゃない。しょうがねぇ…ダミーとして補給用の装置を購入者に配達するように手配しろ。中に送付する説明書には寝る前にカプセル内に入れておけば自動で補充しますって書いとけ!」


「はいぃぃ!」


報告書の内容を見て頭を掻きながら指示を飛ばすとHとTが作成した栄養補給用に作成したの備考を見て眉間に皺が寄る。

賞味期限もないので何時でも新鮮な栄養が体に染み渡るぞ!と書いてある報告書を握りつぶす。


「O様、大丈夫?」


「珈琲、要る?」


「大丈夫だ…取りあえず後でHとTは殴る…」


大丈夫かと問い掛けるOの周りで甲斐甲斐しく世話を焼いているスーツ姿の女の双子が不安げにする。

問題ないと返せば優しく頭を撫でてモニターの様子を見ているよう促す。


「O先輩!どうしましょう!!」


「どうした?」


「開発当初は組み込まれてなかったドワーフの火酒って言うのを飲んで搭乗者が酔って倒れました!」


「あん?そうなる前にセーバーが効くはずだろ?というか、そのドワーフの火酒はどんな酒なんだ」


「アルコール…100%以上の酒です!」


「…………作成者は?」


「B先輩と…D先輩です…」


「あんのバカどもぉぉぉ!」


Oの怒号が部屋中に響き渡り作業をしていた全員が恐怖に身を震わせる。

眉間に寄ったシワを伸ばすように指で抑えながら、どうしたものかと思うがNPCの助けを借りて早めに現実に戻れたようなので安堵する。

その状態で朝まで接続していたら確実に体調を崩していただろう。

あの二人を酒開発に回した自分が悪いとも言えるのだが、その分野に関して知識が豊富な上に飽くなき向上心もあるので搭乗者やNPC達を飽きさせない為にも必要な人材なのである。


「倒れた搭乗者には称号効果に詫びとして酔い耐性を付与しろ。ドワーフの火酒に関しては搭乗者が飲む場合にはアルコール度数が自動で4分の1に下げられるように調整だ」


「O先輩!倒れた搭乗者を確認した所、どうやら例の種族を選んでいるようです!」


「なんだと!?Zには言ってないだろうな?」


「まだ、報告前ですっ!」


「その情報は暫く漏らすな。この搭乗者の為にもな」


モニターで報告のあった登場者を確認しつつ、顔を手で覆うと深い溜息と共に天を仰ぎ見る。

このゲームを制作するという話もZがいきなり持ち出したが、どうしてそうなったかの理由を知っているので一つ目の目的は達成されたようなものだ。

しかし、その種族が見つかったという事はもう1つの問題が浮上してくる事になる。


「H、M…各モニターからさっきの搭乗者と対になりそうな奴を探せ」


「了解」


「O様、珈琲置いとくね」


「そこ置いといてくれ。また忙しくなるぞ……その書類はこっちに置いておけ。開発部門と財政部門の書類来てないぞ!」


眉間の皺を解しながら報告書やモニターの確認を再開し、必要な事があれば指示出しをするとMの入れた珈琲を飲む。


「あっま!!!」


最早珈琲の風味なぞ一欠片も無い砂糖の塊のような味と化したソレをどう処理するか悩む。

せっかく気を利かして入れてくれた物を無下にするのも忍びなく深い溜め息を吐く。


「O先輩。一旦休憩入れましょう?」


「そうですよ!幾ら寝なくても大丈夫な体でも疲労は堪えますよ」


「あー…じゃあ、これを飲むまでの間な」


周りからも心配の声が上がれば仕方がないと甘過ぎる珈琲が飲み終わるまでの暫しの間、休憩の時間となるのだった。

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