75-目指すは王都

朝食を食べ終えるとなるべく使用していたベッドなどを綺麗にしてからマオ達を連れて部屋を出る。

外に行くまでは自分で歩くようにと言われた白銀はげっそりしながら後を付いてくる。


『妹ー!ファイトー!』


『姉様、ファイトですのー!』


『姉上、もっと素早く動かないと踏まれてしまいますぞ?』


『くっ!旦那はん…もう少し速度緩めてやっ…!』


「…蛇って動くの早いイメージだったんだけどな」


『姉上は基本的に運動不足だからでござるよ』


黒鉄の言葉に納得しつつ階段まで来ればどうやって降りるのかと様子を見ていると、手すりに向かって体を伸ばし緩く巻きついては滑る形で降りていく白銀を見て目を見張る。

アレはちゃんと動いていると言えるのだろうかと思うものの、白銀がやりきったという顔をして階下で待っているので後を追って階段を降りる。

白銀の頭を軽く撫でると腕に巻き付かせては宿屋の主人に声を掛けてから宿を後にする。


「その場で調合できるように薬の材料とかもちゃんと持ったからな…後は、道中のフィールドボスを倒せるようにレベル上げもしながら行かないとか」


『途中で街とかには寄るのー?』


「寄る。敵のレベルも変わってくるからな。装備のメンテナンスとかもしないといけない」


『どんな街があるのか楽しみでござるな!』


『村とかも寄りたいねんなー!その土地の名物が食べたいわぁ』


『姉様はダイエット嫌ではありませんの?』


『やっぱ、折角やし食べたいやん?』


『ホント、食いしん坊だよねー』


「そろそろ名前で呼びあってもいいんじゃないか?暫くしたらもう一匹増えるぞ?」


『『『『えっ』』』』


提案にしばし悩む素振りを見せたが、その後の言葉にマオ達は互いに顔を見合せれば何やら聞こえないように話し合いをし始める。

聞き耳を立ててはいけないなと思い、意識をそらすように街並みへと視線を向ければ長い間過ごしていた場所から引っ越すような気分になりつつ、街の出入口となる門へと向かって歩く。

ふと、早くから開いている服屋が目に留まればマオ達に許可を得てから立ち寄る。


「いらっしゃいませー!」


「朝早くにすいません。服を見繕ってもらう事は可能ですかね?」


「…ふむ、お任せ下さい!」


店頭に居た青年に声を掛けるとライアの格好を上から下まで確認するとペットの種類も確認してから店内へと消える。

ラルクからボロボロになると訓練生用の衣服を借りていたのだが、旅に出るとなればしっかりとした物を着た方が良いだろう。

布地も売っているようなので裁縫用の道具も売っているか確認しようと思っていると、綺麗に畳まれた服を手に持ち青年が試着室へと案内してくれた。


「ペットさん達はこちらでお預かりしておきますね!」


「ありがとうございます。店員さんの傍で大人しくしてるんだぞ?」


『はーい!』


『わかりましたの!』


『姉上は某が見張っているでござる!』


『わてがなんかやらかすみたいに言うんやないわ!』


試着室に入ると訓練生用の服を脱ぎ、用意してもらった衣服に手を伸ばす。

シンプルな藍色のフード付き半袖パーカーを着てから、大きめのポケットが付けられている茶色地に白い蛇の柄が入っているサルエルパンツを履く。

鏡を見て変な風に着ていないか確認をしてから試着室を出ると先程の店員が傍へと来る。


「サイズが丁度よさそうでよかったです!そちらの服は頑丈な素材で出来ているのでペットさん達がポケットに入っても問題ないと思いまして選ばせていただきました」


「マオ達の事も考えてくれたのか」


「はい!何時も腕に抱いていたりするのは大変でしょうし普段居ない場所で過ごすのも気分転換になると思いまして!」


「これを貰っていくよ。後、布と裁縫道具も扱っているようならいくつか貰っていきたいんだが…」


「なら、お得用で販売している初心者裁縫福袋と布地の福袋がありますのでそちらも併せてご購入いたしますか?」


「そうします。福袋か…マオ、選んでくれるか?」


『任せてー!』


新しい服と裁縫用の道具を購入してから店を後にすると、改めて門へと向かい歩く。

パーカーの腹ポケットには白銀が入っており、フードの中にはヴィオラが、サルエルパンツのポケット右側にマオ、左側に黒鉄が入っている。

それぞれ見える景色が変わり楽しそうにしている。

いい買い物をしたなと思いつつ、門の前まで来れば一度立ち止まって歩いてきた道を振り返る。


「早く帰って来れるように頑張ろうな?」


『うん!』


『わてらが居らんと露店通りのおっちゃん達が寂しがるやろうしな!』


『姉上はただ食べたいだけでござろう?』


『新しい場所、楽しみですのー!』


「よし、取り敢えずはフィールドボスの居る場所に向かうぞ」


少しばかり寂しさを感じるものの、門の方へ向き直ると最初の難関となるフィールドボスの出現地に向けて歩き出す。

新天地でどんな出会いがあるのか楽しみにしながら街道に沿って進む。


『そういえば、ドラグってどんなボスなん?』


「トカゲに似てて鋭い鉤爪があるって言うのは聞いた気がするんだが…」


『なんや、黒の友人みたいなもんか』


『一緒にしないで欲しいでござる』


『黒に似てるなら楽勝かもー?』


『黒兄様は弱っちぃですの?』


『弱っちくないでござるよ!やめるでござる!』


他愛のない会話を交わしながら快晴の空の下、新たな街に向けて進むのだった。

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