74-旅立ち前の朝

ラルク達と飲み明かした後、宿屋に戻ってログアウトしてから現実で眠りに就いた雷亜は起きてカレンダーを確認してから慌ただしくしていた。

気付けばもう月末も近く引き落としにしているとはいえ家賃などを管理している通帳に不足はないかのチェックを忘れていたのだ。


「えーっと…十分な額は入ってるが、余分に入れて損はないよな。確か、Arcaの通貨が1ゴールドで100円だから…2,000ゴールド換金しておくか」


Arcaのカプセルにスマホを同期させておく事でネットバンクで簡単に通貨の換金ができるのでかなり便利だと思う。

しかも、手数料もなくやり取りできるので開発元はちゃんと利益になっているのか不思議に思うが、今の所そういった面で騒ぎになっている事も無いので上手く回っているのだろう。


「これでよし、と…。取り敢えず何か腹に入れるか…」


少しくらい手を抜いてもいいかと思い冷凍庫から冷凍食品を取り出すとレンジに入れて温める。

最近はおかずと米がセットの物も多いので一人暮らしをしていても簡単に食事が取れて有難い限りだ。

温めている間にスマホから掲示板に接続し、テラベルタから王都に行く際の簡易的な攻略を確認しておく。


「王都に行くまでに3体はフィールドボスが居るのか…。PKギルドとかもあるみたいだし気を付けて行かないとな」


こちらは四匹の大事な子供が居るのだから危ない思いはなるべくさせたくない。

特に、PKなどで死亡して自分が倒れる姿など見せてしまえばトラウマになりかねないだろう。

色々と考えるべき事が沢山あるのだが温め終わりのレンジから発せられる音に思考が中断される。

取り敢えずは動き出さねば何も始まらないので手早く食事を済ませてArcaにログインする。


「本当に寝相が悪い…というか、脱走癖が激しいな…」


胸の上に感じる重みに眉根を寄せるも白銀がマオやヴィオラが落ちないように長い身体を使って防壁のような物を作り固まって寝ている。

黒鉄のみ暑かったのか分からないが胸の上だが少し離れた場所で寝ていた。

顔の周りじゃなかっただけいいのかもしれないが起こさずに体を起こすのは至難の業である。


「どうしたもんかな…」


悩ましげに眉根を寄せながら考えるも一匹ずつ退かそうにも難易度が優しいのは黒鉄のみである。

箱庭に入れる事も考えるが起きた時に責められそうで却下だ。

暫し考えた後に奥の手を用いる事とする。


「今日の朝は昨日、露店の皆から頂いたサンドイッチとかにするかな?」


『飯!!』


『わー!!!』


『きゃーっ!ですのっ!!』


『む?何事でござるか?』


いきなり白銀が動いた事で防壁が崩れると胸の上から転がり落ちるマオとヴィオラを見て手を差し出し受け止めつつ、寝ぼけた様子の黒鉄が目を瞬かせながら辺りを見回す。

思った以上の効果があり苦笑するも怒ったマオがベッドに降りると白銀の頭に飛び蹴りを喰らわした。


『いったぁ!?何すんねん、小さな兄さん!』


『妹が僕達を離すからだよー!!昨日、落とさんから任しときって言ったの誰だっけー!?』


『………わてです。すんまへんでした』


『びっくりしましたのー!』


『だから姉上は信用できないと言ったでござろう?』


「お前達、何時も意図的に抜け出して寝てたのか」


『ちっ違うよー!今回はたまたまだもん!』


『そうですのー!とと様から離れたくないからこっそり抜け出してるわけじゃないですのー!!』


確信的な言い訳をヴィオラがしてしまうとマオと白銀も争いを辞めては、まるでロボットのようにゆっくりとこちらを伺い見る。

大体予想していた理由ではあるので体を起こしてベッドに座って胡座を掻くと、膝を叩けば素直に一匹ずつ隙間に収まっていく。

怒られるだろうかと不安げにしている姿を見ながら笑みを浮かべては一匹ずつ頭を撫でてから視線を合わせる。


「お前達が俺を大好きなのは分かった。けど、これから野宿も増えてくると安心して休める環境ではなくなってくる。ちゃんと敵避け用の道具も使用するが、万全では無いからな。だから、約束をしよう」


『『『『約束?』』』』


「そうだ。野宿の時は必ず籠の中で寝ること、その代わりこういった安全な宿屋では籠の中じゃなくて俺の傍で寝てもいい。どうだ?」


『わかったー!』


『よっしゃー!!』


「白銀、首に巻きついて寝るのは禁止だぞ…?」


『旦那はんのいけず!』


「いけずちゃうわ。命の危険を感じるから巻き付くなら腕とかにしろ…」


取り敢えず脱走癖を無くす為に約束を持ち出したがもっと早くしておくべきだったと思いつつ、それぞれ嬉しそうにしているのでつい甘やかしてしまう。

全員起きているので朝食にしようと提案すれば、先程言っていた露店のご飯の中からホットドッグをインベントリから取り出すと、大口を開けて待機する白銀の前にはサラダを取り出して差し出す。

呆然とサラダを見つめる白銀の姿を見つつ、取り出したホットドッグを3等分にしてマオ、ヴィオラ、黒鉄に食べさせる。


『ほ、ホンマに…ダイエット…せなならんのか…』


「一定の重量を超えたら俺は白銀だけ自ら歩かせるつもりだぞ?」


『喜んでダイエットさせて頂きますわ!!!』


『某も…気を付けねば…。姉上の二の舞は嫌でござる…』


泣く泣くサラダを食べてから食後の運動に体を伸ばしては縮め、伸ばしては縮めの軽い運動をする白銀であった。

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