アラクネの初来店した時の使い魔たち~メルとタウ~

とある日のアラクネの使い魔たちの事である。

朝はアルマが寝坊してもいいようにタウが器用に朝食を用意している。

その傍らでメルは四つの足にモップとして使えるグローブを嵌めながら部屋の中を行ったり来たりを繰り返している。


『メル、ここが終わったら店内の方も頼めるか?』


『あいよ。天井とか棚の埃は落とし済みかい?』


『ああ、抜かりない。俺も朝食の支度が出来てマスターを起こしたら合流する』


『りょーかい。マスターの事、よろしくね』


部屋の四隅に向かい、しっかりとモップを付けた前足で拭き取るとメルが部屋から出ていくのを見送り、タウが器用にフライパンを扱い焼けたオムレツを皿に盛る。

ポテトサラダとベーコンを仕上げに盛り付けてはテーブルの上に置き、パンが入れてあるバスケットとパン切り包丁を置いておく。

火が止まっている事を確認してから、ペロ用のご飯皿にドッグフードを入れてアルマが座る椅子の近くに用意してから、ネームプレートが下げられた部屋の前に行きドアをノックする。

中から人の動く気配がすると五分程経ってからペロを抱いたアルマが顔を出す。


『おはよう、マスター、ペロ。朝食の準備が出来ている』


『おはよー!タウおじちゃん!』


「おはよう、タウ。いつも寝坊助でごめんなさいね?」


『問題ない。俺とメルが店の掃除をしておくからマスターはペロと散歩してから来てくれ』


尻尾を振りながら朝の挨拶をしてくれるペロを見て目を細めると優しく頭を撫で、要件を伝えると軽く頭を下げてから店の方へと向かう。

背後から食べましょうと言う会話を聞きながら店のスペースに来ると、メルが普段のサイズよりもふた周りほど小さなサイズになり家具の隙間や机の下に潜り込んで床を磨いていた。


『マスター、ちゃんと起きた?』


『うむ、ペロと一緒に今は朝食を摂っている』


『ん、ならよかった。マスターは放っておくと何時までも起きないもの』


『昔はそれで良く苦労したな』


『ふふっ、今となると少し懐かしいわね』


昔を懐かしむような会話をしながら慣れた様子で清掃を続ける。

アルマと散歩用のリードを付けたペロが店の方へと来れば、メルとタウが頭を垂れるといつも叱られるが使い魔流の敬愛の礼であるから許して欲しい。


「多分、常連さんしか来ないと思うからいつもの様に任せて大丈夫かしら?」


『任せてちょうだい』


『店で不祥事が起きぬように警戒も怠りませんので』


「タウはいつも硬いわよねぇ…もっと気を緩めていいのよ?」


『マスターが緩すぎるので私とタウが警戒してるくらいで丁度いいんです』


『お散歩楽しみー!』


『………ペロも警戒心無いですし』


尻尾をパタパタと振るペロを見てメルは呆れたような顔をするものの、前足で優しく頭を撫でれば気持ちよさそうにする姿を見て目を細める。

アルマがペロを飼い始めた頃は敵対心剥き出しだったメルも今ではいい姉だ。


『マスター、そろそろ行かないと遅くなってしまいますよ?』


「あら、そうね!じゃあ、噴水広場くらいまでお散歩行ってくるわね!」


『タウおじちゃん!メルお姉ちゃん!いってきまーす!』


『『行ってらっしゃい』』


軽く手を振り出ていく姿を見送る二匹だが、店の扉が閉まるとタウがその場に蹲ると床にのの字を書き始める。

その姿を見て苦笑を浮かべながらメルが慰めるようにタウの背中を叩いている。


『うぅ…ペロはなんで俺をおじちゃんって言うんだ…』


『まぁまぁ、元気出しなさいって…体がでかいから歳いってると思ってんのよ、きっと』


『マスターの使い魔となってまだ俺は日も浅いのに!古参のメルが何故お姉ちゃんで俺はおじちゃんなんだ!』


もだもだとしているタウの姿を見て面倒臭いなと思っていると、店の入口の方に気配を感じとるとサッと立ち上がる。

タウの切り替えの速さは見習いたいと思いつつ、メルは常連との会話用にホワイトボードを持ち出しながら訪れた客の対応をする。

暫くすると慌ただしく走ってくるマスターの気配に首を傾げると店の入口を荒々しく開け、血相を変えたアルマが帰ってきた。


「メル!タウ!どうしましょう!ペロちゃんが!」


『…まさか、また迷子ですか?』


『マスター、いつも目を離しては行けないと言っているでしょう!』


「うぅぅ、だってぇ…お話するの楽しくてぇ…!とりあえず捜索用の道具を持ってくるわね!」


店の奥へと向かう姿を見送りメルが普段のサイズに戻るとタウがその背に跨る。

いざ行かんと入口へと顔を向ければ、扉の前に客の気配がしてどうしたものかとタウとメルが動揺していると、腕に子犬を抱いた前髪が目に掛かっている青年が立っていた。


『メル姉ちゃん!タウおじちゃん!』


ペロの声が聞こえてホッとするものの、メルとタウを見て暫く呆然とした後に扉を閉めてしまう青年に驚く。

メルの上から降りてタウは一緒に店の扉の前まで行くと、再度開かれた店の入口を今度は閉めさせないようにする為に顔を突き出せば、怖いと言ってそこで止まって欲しいと言う青年の声に従い動きを止める。


『メルお姉ちゃん!タウおじちゃん!ただいま!』


『ペロ!この人間に何かされていないか?』


『何だか、優しそうな雰囲気は感じるけど無闇矢鱈とついて行っちゃダメだと言ったでしょう?』


『このお兄ちゃんは大丈夫!昨日も一人で遊んでた僕と遊んでくれたの!』


尻尾を振るペロを見て呆れつつ、店の奥から顔を出したアルマも警戒していないのを見て渋々メルとタウも警戒を解く。

そして、この出会いがあった事で青年との縁が結ばれ、彼の使い魔やペット達と気兼ねの無い友人となるきっかけとなったのは皆が知っている事である。

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