72-名声機能解放

露店通りの完売御礼による祭りのような状態が終わると各店の店主がガッツポーズをしているのを見つつ、頑張ったマオ達を労うように用意してもらった椅子に座りながら撫でる。

今回は整列の呼び掛けしか出番がなかったが、満足気に腹を膨らませた白銀を見つめ明日からは野菜だけ食わせようと考えていると、露店通りの代表者であろう最初に声を掛けてきた二人がこちらに歩いてくるのが見えた。


「いやぁ、助かったよ兄ちゃん!」


「コレ、売上の3分の1を集めた報酬だ!受け取っておくれ!」


「有難く…マオ達の為に使わせてもらいます」


「後、ウチらの露店でいちばん美味いって評価貰ったレシピ集だ!」


報酬の金の入った袋とレシピ集を受け取るとリストバンドから通知がなったかと思えば、このタイミングでワールドアナウンスが響き渡る。


〈匿名様により、ひとつの町の友好度が最高まで高められました。

よって、名声機能を解放いたします。

各街のクエストをクリアし、一定数の名声を集めるとNPCとの友好度が上がるだけでなく、割引や隠し取引などの恩恵が受けられるようになります。

また、NPCが搭乗者の皆様の情報を各街のNPCに共有する事もありますので行く先々で友好を築きやすくなる可能性がございます。

しかし、悪名を重ねた搭乗者の皆様は入国の際に厳しい取調べを受ける可能性が増えますのでお気を付けください。

引き続きArcaをお楽しみください〉


「…………マオ達のお陰なんだけどなぁ」


もう一度リストバンドから音が鳴ったので通知を確認すると称号獲得の表示があったので、次回全部確認しようと思いそのまま閉じる。

当面の旅の資金も手に入り、マオやヴィオラをイメージした甘味などを作ると意気込む女性たちと、黒鉄や白銀を意識した主食を考える男達とで仲良く話しをしていたので代表者に声を掛けてからお暇する。

襟元にはマオ、肩の上に黒鉄、大分重くなった白銀は腕に巻き付き、放っておくと転けるヴィオラは腕に抱いている。


「重くなったな…白銀」


『へへ…流石に食べ過ぎた気ぃするわ…』


『買いに来ていた人の差し入れまで目ざとく食べていたでござるからな…』


『今日は変な人いなかったねー!』


『いっぱい触られてしまいましたのー!』


「白銀は暫く飯は野菜だけな。流石に健康に悪いし…後は運動もすること」


『ひぇ……』


マオや黒鉄、ヴィオラと比べて確実に体重が違いすぎる白銀にダイエットを提案すると泣きそうな顔をするが、心を鬼にして満面の笑みを浮かべる。

回避しようと何か言うかと思っていたが口で勝てるわけがないと早々に白銀は諦めたようだ。

慰めるようにマオやヴィオラが白銀に声を掛けているが、下手をすれば自分も太り気味と言うことでダイエットになりかねない黒鉄は顔を背けている。


「黒鉄も…気を付けないと、な?」


『しょ、承知……』


なんやかんやと話をしながらアラクネに辿り着くと今日は利用する人が少ないのか行列になっている様子はない。

安堵しながら入口のドアを開けるとメルとタウが出迎えてくれる。

流石にこの二匹に対して恐怖を感じる事も無くなっているので、挨拶がわりに頭を撫でると軽く目を細めながら一声鳴くとアルマのいる方へと案内してくれる。


「あらあら!ライアくんいらっしゃい!」


「こんにちは、アルマさん。今日はこの子の装備を見に来ました」


「キャー!可愛い!うちのペロのお嫁さんに来ない?」


『はわわわわ!わたしにはとと様が居るので!!』


『ダメなのー!ペロにうちの妹はやれないのー!』


「あら、マオくんガードが入っちゃったわ…。残念だったわね、ペロちゃん?」


アルマと会えば真っ先にヴィオラに目が行ったのかペロとの縁談を勧められるもマオがその前に立ちはだかれば、残念そうにしながらも似合いそうな装備を見繕ってくれる。

何の事か分かっていないペロは足元で尻尾を振りながらマオとヴィオラを見ているので床に降ろしてやれば会いたかったと言わんばかりに鼻先を擦り付けている。

白銀と黒鉄はメルとタウと話してくると行ってしまうのを見送りながら改めてアラクネの店内を見渡す。


「色んな物が揃えられてるよな…。お、タマゴはここで売ってるの、か…は?値段ヤバっ」


ペットや使い魔のおやつのコーナーから専用道具コーナーなどを見つつ、タマゴのコーナーで立ち止まれば0が5~7個書かれている値札を見て度肝を抜かれる。

序盤からタマゴを偶然にも3つも貰えているという状況はかなり運が良いという事になる。


「ライアくん。ここに居たのね?」


「あ、アルマさん。俺、こんなに貴重なタマゴ、貰ってたんですね…っ」


「ん?ああ!ここにあるタマゴたちは中から産まれる子達が決まっているからこの値段なのよ!ライアくんに渡したのは未鑑定だったり預かったりした子達だから気にしないで頂戴ね?」


菫色の宝石があしらわれた足首用のチャームや、首に付けるチョーカーなどを持ったアルマが来てくれたので問い掛けると笑いながら疑問への返答に眉尻を下げる。

今ひとつ信じかねているのが分かればアルマがタマゴコーナーの一角に案内してくれるのでそこへ行くと500から2000くらいの値段で置かれているタマゴ達が置かれていた。


「この子達は中から何が生まれるか分からないタマゴ達なの。タマゴの大きさで体のサイズが分かるくらいかしら?でも、小さかったタマゴがいきなり大きくなるっていう話も聞いた事があるから不思議よねぇ」


「なるほど…?俺も1つくらい自分で買ってみるのもアリなのかな?」


「ふふっ、ライアくんならどの子達も平等に愛情を注げる気がするし、良いかもしれないわね?1つ買うなら装備もオマケしちゃうわよ?」


「…アルマさん、商売上手ですね」


笑みを浮かべながら買いたくなるような提案をするアルマを見て暫し考えた後に、マオが生まれた時に貰ったサイズのシンプルな白色のタマゴを手に取る。

アルマがヴィオラに似合いそうな花のデザインの宝石があしらわれたチョーカーをオマケにしてくれた。

その他にもマオ用に容量の大きい収拾ポーチも一緒に購入し、代金を支払うとインベントリに品をしまいつつ、ペロと遊んでいるマオとヴィオラ、メルとタウと親しげに会話をしている黒鉄と白銀の写真を撮るのだった。

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