71-露店通りでお祭り騒ぎ
現実の事を手早く済ませてArcaにログインしたライアは頭にずっしりとした重みと、両肩に何かが乗っている感覚、首に何かが巻き付いている感覚に襲われる。
何時かログアウトせずにArcaの中で寝たらどうやってこの状況になるか見れるのだろうかと思いつつ、先ずは顔の上半分にのしかかっている子を剥がす。
毛に沈み込む手の感触からヴィオラだと分かれば腹の上に移動させ、続いて両肩の存在を確認する。
右肩にはマオ、左肩には黒鉄が居たのでそれぞれ腹の上に移動させつつ、最後の首は白銀と言う事になるのだがどうやって頭の下を通ったのだろうかと疑問が湧く。
「なんでわざわざ首に巻きついた…?」
このままだと絞め殺されそうなので隙間に手を差し込み、白銀を起こさないようにゆっくりと力を入れて輪を拡げると抜け出す。
四匹とも夢の中である事を確認しつつ、棚の上の籠に手を伸ばし取ると一匹ずつ起こさぬように寝かせ直す。
籠の中にみっちり詰まっている姿を見て流石に可哀想に思えば、アラクネに行った時にアルマに相談する事も追加する。
「とりあえず…朝飯だが前みたいに露店でいいか」
ベッドから身を起こし身体を伸ばす。
何回か背骨が鳴るのを感じつつ、ベッドを降りては早めに行動しようと籠を持って部屋を出る。
階下のカウンター傍まで来ると作業していた店主からクッキーの礼を言われ、軽く頭を下げつつ口に合ったようで良かったと返してはまた夜にお世話になりますと告げて宿屋を後にする。
慣れ親しんだ街並みを歩きながら露店通りに来ると、我先に食べて行ってくれと声を掛けられ困惑する事となる。
「お兄さん!タダでいいからウチでサンドイッチ食べておくれよ!」
「あっ!ずりぃぞ!そこのバアサンの店よりウチの厳選したオルクの腸詰めを使ったホットドッグの方が美味いぞ!なんならレシピも教えたっていい!」
「ちょっ!落ち着いて!いきなりなんですか!?」
「あー…そうか、すまねぇ!兄ちゃんとそこのペット達が食べた物は人気が出て完売するって噂があってな?」
「アタシらも生活があるからね…多少でも売上と客足が増えるならその恩恵に縋りたいってヤツでね…」
「なるほど…。そういう事ですか…」
『話は聞かせてもろたで…!!』
いきなり不躾な事をしてしまった事に申し訳なさそうにしながらも、切羽詰まっている様子が分かるので暫し悩んでいると、ムクリと起き上がる一匹の蛇が居た。
嫌な予感がするもののわざと格好を付けるように流し目をする姿に思わず顔を手で覆ってしまう。
『食べる事に関してはわてが一番!その悩み!解決したろうやないかい!』
「いや、お前の声は皆に聞こえてないぞ?」
『そこは旦那はんが上手く通訳してぇな!』
「どうしたんだ?この蛇?」
「なんか、凄いやる気に満ち溢れてるけど…?」
「白銀っていうんですけど…兎に角食べるのが好きな奴なので、宣伝に一肌脱ぐと俄然やる気になってまして…」
白銀の声に起きたマオや黒鉄がいまいち状況が判断出来ていない顔で見てくるので仕方なしにヴィオラも起こすと状況を説明する。
目を瞬かせた後に宣伝を手伝うと乗り気になるのを見ては、露店を営む人々を集め交渉を持ちかける事にする。
「ウチの子達がやる気を出してるので宣伝の件、お手伝いします。その代わり、報酬として皆さんの店のレシピを教えて頂くことは可能ですか?」
「手伝ってくれるならレシピだって渡すさ!ちゃんと売上から報酬も渡すぞ!」
「今日はあの福の神達がついてるんだ!完売御礼目指すぞ、野郎どもぉ!」
「アタシ達も負けちゃいられないよ!女の意地見せてやろうじゃないかい!」
活気立つ露店の人々を見ながら区域ごとに手伝いをするメンバーを決める事にする。
甘いデザート関連はマオとヴィオラが宣伝大将となり、主食関連は白銀と黒鉄を宣伝大将にする。
残ったライアは四匹がやり過ぎないようにセーブさせるストッパーの役目を担うのだが、正直絶対やりすぎそうな気がするので不安しかない。
「各店準備はいいかー!そろそろ街のヤツらが動き始める頃だ!食べて貰う商品は出来てるかー!」
「「「おー!!!」」」
「マオ、ヴィオラ、黒鉄、白銀!変なヤツらが居たらちゃんと威嚇してお店の人が分かるように対処するんだぞ!」
『パパが作ったこの色付けるボール投げるねー!』
『わたしは噛みつきますのー!』
『わてはシバき倒しちゃるわ!』
『某は体が麻痺する魔法を使うでござるよ…』
「………取り敢えず俺は混雑しそうだから整列するように声掛けに回るか」
案の定、各店の商品を食べる姿に通行人とプレイヤーが興味を持ち、サービス精神旺盛なマオの首を傾げながら差し出すあざといポーズを見た女性客が集まり、たまらんと言う顔で食べる白銀と黒鉄の傍には男性客が集まっている。
ヴィオラはと言うと最初は対処出来ずおろおろしていたが何も無い所で転けると言うドジっぷりを発揮し、助け起こした客がふわふわの毛に魅了され手触りを周りの人に告げると何故か綺麗に整列し触る為の行列が出来ていた。
かなり背の高い一際目立つフルプレートアーマーに身を包んだプレイヤーが手の鎧を外して黙々とヴィオラを撫で回し、一瞬だけ兜を外すと柔らかな尾に顔を埋めたかと思えば満足気に立ち去った所を見掛ける。
ふと掲示板で小動物に触りたいけど逃げられてしまうと書いていた書き込み主が居た事を思い出すも、まさかなと思えば整列の声掛けに集中するのだった。
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