68-まったりタイム

借りている部屋に戻るとベッドの上でウロウロしていたマオがライアの方を見ると、尾を振りながらベッドの端まで来て手を広げてくるので縁に座ると優しく頭を撫でる。

白銀と黒鉄も後から寄ってきては膝の上に乗って来たので背中を優しく叩いてやる。


『おかえりパパー!いい匂いがするー!』


『お疲れ様でござるな、若!』


『えぇ香りやー…腹減ったー』


「結構時間経ってたんだな…。今から食べると夕飯が入らなくなるだろうからクッキーで我慢してくれ」


『クッキー!』


作った星型のクッキーをマオの前に差し出せば目を輝かせながら手に持ち少しずつ食べ始める。

黒鉄と白銀には桜の形をしたクッキーを口元に差し出して食べさせる。


『甘さが控えめゆえ幾らでも食べれてしまいそうでござるな』


『わてはもうちょい甘くてもえぇかも?でも、バターの香りもしっかりしとって美味しいクッキーや!』


『クッキー美味しー!パパーおかわりー!』


「はいはい。マオは後で風呂も行こうな」


星の先端を順番に齧って回すようにマオが食べていたのを視界の端に捉えていたが、食べカスが白い毛に付いてクッキーの色が移ったかのような姿になっている。

苦笑混じりに告げれば元気良く返事をする姿にそれ以上は言えず、クッキーを完食した黒鉄と白銀が次を催促するように見てくるので今度は星型の物を差しだす。

マオが手を広げるので白銀がしっかりと口で持っているのを確認してから桜型のクッキーを差し出すと嬉しそうにまた食べ始める。


「あと小一時間もすればタマゴがまた孵化するが、どんな子が仲間になるんだろうな?」


『どんな子やろうねぇ?』


『話の分かるものだったら良いでござるなぁ』


『パパの事を独占しなければどんな子でもいいよー』


それぞれクッキーを食べながら返事をする姿を見つつ、喧嘩をしなければいいなとだけ思う。

ふとステータスを思い出せば黒鉄と白銀に現時点では全て負けているのでライアが止められるかと言えば無理の一言だろう。


「………白銀、黒鉄。お前達は兄弟喧嘩は絶対するなよ?止められないから」


『喧嘩なんてしないでござるよぉ。姉上が短気を起こさねば』


『あん?わては短気やないやろうが!』


『そのすぐ喧嘩腰になる所が短気に見えるのでござるよ』


『これはこういう喋り方だからやっちゃうの!』


言い合いをするものの噛み付いたりなどの喧嘩には発展しない二匹の背を叩き宥めつつ、2枚でお腹が膨れたのかマオがコロンとベットに寝転がる。


「マオ、そのまま寝たらダメだぞ?」


『うー、寝てないもーん』


『今にも寝そうな姿やな…』


「取り敢えずクッキーの食べカスだらけだからお前達みんな風呂入るぞ」


『承知でござる』


眠そうなマオを手のひらの上に載せると黒鉄が腕に張り付き、白銀が空いている方の腕に巻きついたのを確認してから備え付けの洗面所へ向かう。

三匹を真ん中に降ろす前にお湯と水の蛇口を捻り熱すぎない温度に調節してから栓をする。

手のひらを底に付け、手首まで溜まったのを確認してはお湯を止めると最初にマオの体を洗う為にゆっくりと身体を湯に浸けてやる。

耳に水が入らないように気を付けながら食べカスを丁寧に落とし、腕の付け根や足の付け根などを優しくマッサージをする。


「……いかん、ついマッサージまで」


『あーぁ、こりゃ小さな兄さん完璧に寝るで』


『顔合わせは起きてからになるかもしれませぬな…』


「次は黒鉄だ。マッサージ付きの風呂に耐えられるかな?」


『ぐっ、ぐぬぅっ…頑張りまするぞ』


手の上で心地良さそうに寝息を立てるマオを見てしまったという顔をしても時既に遅し。

インベントリからタオルを取り出すとマオをその上に乗せてから湯を抜き、改めて湯を貯めている間に良く水気を取るよう拭いてやる。

湯がある程度溜まると今度は黒鉄を中にゆっくりと浸けては細かい鱗の隙間に入っていそうな食べカスを取るように洗う。

もうこの際なので黒鉄の体もマッサージする事に決めれば様子を見ながらマッサージをすると、ウトウトし始めるので柔らかなタオルの上に置き拭く頃には目を閉じて寝てしまった。


『いやもう!完全に寝かし付けやん!』


「もうこの際だからお前達は起きてから顔合わせでも良いかと思って」


『いや、わては起きるぞ!何がなんでも起きたる!』


キリッとした顔をして豪語したものの全身が綺麗になりマッサージが始まる頃には爆睡している白銀に笑ってしまう。

一回り大きくなったことで前よりは三匹ともマッサージしやすくなったのだが、多少重くもなったので少しばかり大変になったという所が難点ではある。

白銀の身体もマッサージを終えるとタオルを新たに取り出し、しっかりと身体の水気を取ってから持ち運び用となったカゴの中へと寝かせていく。


「そういえば、白銀と黒鉄はいつも綺麗にしてるのにAPPが50だったな…。進化が完全に済んでないからか?」


思い出したように告げるも答える相手は居らず独り言になってしまったが、籠を持ってベッドがある部屋へと戻れば棚の上にそっと降ろす。

ベッドの上の食べカスを綺麗に掃除するとシーツなども直してから縁に腰かけインベントリを開きタマゴを取り出す。


「ん?…このタマゴ、こんなに大きかったか?」


ライアの頭位の大きさに成長している薄紫色のタマゴを見て首を傾げつつ、もう少しで孵化の時間なので膝の上に乗せながら待つ事にする。

タマゴの表面を優しく撫でつつ、ふと思い出したようにインベントリから以前買った魔法の指南書を取り出し読みながら時間を潰すライアだった。

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