63-神殿の祈祷室

神殿の前に辿り着けば両の手で数えられるぐらいの人数だけ並んでいる状態だったのでライアは胸を撫で下ろした。

多少は待つもののスムーズに神殿の中へと案内してもらうことが出来たので物珍しげに当たりを見回していると中央に一つの像があり、ミサを行うことがあるのか長めの椅子が綺麗に並べられている。

中へと案内してくれた神官とは違う神官がこちらへ歩いてくると礼儀正しく頭を下げながら一室に誘導される。


「こちらへどうぞ」


「あ、はい」


「籠はこちらに置いてから中央で片膝を付き祈りを捧げてください」


「こうで大丈夫ですか?」


「はい、問題ございません。それでは我々は一旦席を外させていただきますね」


陽が入るように一つだけ付けられている鮮やかな柄のステンドグラスの模様が映る場所まで歩き、指示された通りその場で片膝を立ててしゃがみ込んでは膝に肘を付けるようにして手を組むと神官が姿勢を崩さぬようにと注意事項を述べてから頭を下げて部屋を出ていく。

生まれてこの方、祈りなど捧げたことが無いのだが目を閉じると男とも女とも取れる声が耳に届く。


『職業、スキルを求めて祈りを捧げし者よ。汝の経験を我に見せよ』


「うっ、なんか…気持ち悪っ…」


頭の中を読まれる様な異様な感覚に襲われ気持ち悪くなるものの声に驚きの感情が滲み出ている。


『まさか、そんな…我らの世界の民でない者が…。いや、あの方達にこちらから頼んだのだ…ありうる事か…』


戸惑いつつも納得するように声は呟くと暫しの沈黙の後に続く言葉を紡ぐ。


『貴方にはこの職業を与えます』


「共に、歩む者…?」


『貴方が育む者達との絆は更に確固たる物となります。死さえも覆され貴方が育む者達を見捨てぬ限りその命は貴方と共にあり続ける。そして…一部の力が貴方へと流れ込み更なる力となるでしょう』


「……それって、俺のペットと使い魔は俺がこのゲームを辞めない限り死ぬことは無い、と?」


『はい。そういう事です。その他にも能力はありますが…現状はそれだけです。精進してください』


「は、はい…」


『後、貴方が取得するスキルですが、戦闘用のスキルはパッシブ以外が封印対象となっています』


「え?」


『どうやら、この先の訓練所をクリアする事が条件となっているようです。そこら辺は自分でご確認ください。その他の生産系のスキルは主に基礎となる物が付与されますが、鍛治だけ称号を授かるまで人族の物しか扱えないので気をつけてください』


頭の中に響く声の説明を聴きながらしれっと戦闘系のスキルが一部以外封印と聞こえて思わず声を発すれば補足するように事務的な説明がされる。

一瞬ライアは思考が停止するものの聞き漏らして損をするよりは過ぎった疑問を後回しにする事を決意する。


『その他、魔法関連のスキルとなりますが…現状貴方が耳にした事があるのは??魔法……どうやら、レベルが足りないようなので魔法の名称も伝える事が出来ない状態です。なので、しっかりと己を鍛える事をオススメいたします。他の基礎となる魔法を知る機会がありましたら再度神殿を訪れると習得可能です』


ちゃんとポイントを抑えて教えてくれる声がなんだかんだ優しいなと思いつつ、白銀と黒鉄の扱う魔法しか耳にした事が無いが今のレベルでは習得出来ないものである事が分かりライアはさらなる疑問が心を占める。

宝石獣であるマオの事は偶然知る事が出来たが、黒鉄と白銀がどの種族に属しているのかまだ分かっていない。

この事を今まで知ろうとしなかった自分もどうかと思うが何を育てているのか気になるものだ。


『最後に、貴方様にお願いがあります。あの方を見つける…或いは出会う事が出来ましたら重荷を背負わせてしまいすまないと、伝えてください』


「あの方、とは?」


『旅をしていく上で貴方が知る事になる方です。これにて職業、スキル習得の儀は終わりとなります。貴方の行く末に…幸があらん事を』


強制的に接続が切られるような感覚に陥り目を開けば一瞬目眩がしたものの明るい陽がステンドグラス越しに射し込んでいる。

リストバンドの時間を確認すれば約30分程のやり取りのようだったが体感的には長い時間やり取りをしていた気分だった。

姿勢を崩し立ち上がると籠の方からゴソゴソと音がするのが聞こえ歩み寄れば朝方見た姿よりも一回りほどマオ達が大きくなっている気がする。

気のせいだろうかと暫し籠の中を見つめてから手提げ部分を持ち少し上げてみると明らかに朝とは重みが違う。


「…俺が職業を得たからマオ達も成長した…のか?」


寝息を立てている三匹から視線を外してはいつまでもここに留まる訳には行かないので部屋を出ると外で待機していたのか案内してくれた神官が頭を下げる。

表の入口ではなく混み合わぬように裏手の入口へと案内し道行に幸あらん事をと告げては静かにその場を去っていく。


「なんだか…神を祀る場所という感じには見えないよなぁ…。この神殿…」


神殿に辿り着いた時も祀られている像が誰かなどの説明は一切なく、事務的な対応を念頭に置いて神官達は動いているように見える。

いずれは知る機会があるだろうとライアは一度宿屋へと戻ると足りていない睡眠を摂るべくログアウトするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る