62-厄介な代物

宿屋でログアウトしスマホのアラームで目が覚めた雷亜は欠伸を噛み殺しつつ、時計を確認すれば朝の3時30分頃が表示されていることを確認するとベッドを降りて眠気覚ましにシャワーを浴びに浴室へと向かう。

寝ぼけている頭がハッキリとすれば早く起きた理由を思い出し早く朝食を食べてしまおうと浴室を出て身体を拭きつつ、ドライヤーを取り出してコンセントをさせば髪を乾かす。

若干甘乾きとなってしまったがドライヤーをしまうと冷蔵庫の扉へ手を掛ける。


「昨日のグランタ…美味そうだったな。見た目的にはチーズフォンデュっぽかったけど…料理の名前が微妙に現実の料理と似てるせいか覚えにくい…」


新鮮なミルクに塩、胡椒とブイヨンで味付けをしてじっくりと弱火で採れたての野菜を煮込んで味を吸わせてから皿に移し、溶かしたチーズを掛けてブラックペッパーと乾燥パセリを掛けていたのは覚えている。

その後にも手を加えていたようだが酒を作っていて見れなかったのが残念で仕方がない。


「………洋風の物が食べたくなった。簡単なピザパンでも作るか」


思い出しただけで少し洋風なものが食べたくなってはケチャップととろけるチーズを冷蔵庫から取り出し、スプーンと残った食パンを持ってオーブントースターの前に立つ。

食パンにケチャップを掛けてはスプーンで薄く伸ばしてからとろけるチーズを1枚乗せる。

もう1枚同じように作ってはオーブントースターの扉を開けて温度を高めにしてから焼く。

空になった食パンの袋を結んでコンパクトにしてから燃えないゴミ用のゴミ箱に入れてから焼き上がりを待つ間に使った材料をしまう。


「あ、そういえば仮面、返してくるの忘れたな…」


昨日の仕込んだ野菜なども思い出していると不意に仮面を付けっぱなしで宿に戻ったことを思い出す。

返しに行かないとと思いながらオーブントースターから音がすれば、扉を開けて狐色の焼き目が着いた簡易ピザパンを皿に乗せてテーブルへと持っていき椅子に座る。


「いただきます…アチッ」


手を合わせてから雷亜はピザパンを手に持ちカリカリになっている角から齧り付けば熱々のチーズが歯茎に当たり熱さに思わず眉間に皺が寄る。

軽く息を吹き掛け冷ましてから再度齧りつき伸びるチーズを楽しみながら食事を進める。

食べ終えれば小さく息をついてから手を合わせてご馳走様を告げると使用した皿とスプーンを洗う。

腹も満たしたのでカプセルの中に寝転がればArcaを起動する。


「籠の中に寝かせてたよな…?」


重みを感じる場所に手探りで手をやればベッド横の籠からいつ抜け出したのか目を隠すように白銀が伸びて寝ており、黒鉄が首に張り付くように寝ている。

マオは胸の上で寝ているので害は無いが正直に言えばかなり白銀が重い。

起こさぬ様に顔と首から白銀と黒鉄を脇に降ろしてからマオを落とさぬように手を添えながら身体を起こすと息を吐き出す。

顔にまだ仮面をつけている事が分かれば手を伸ばし装備を解除すると返しに行く為にインベントリにしまうも書かれている説明に目を見張る。


「は?舞踏竜の魅惑の呪面???」


〈舞踏竜の魅惑の呪面(唯一等級)

装備必須条件:APP(100)、CH(100)

能力:記憶の忘却(任意/一日一名)、魅了(男女問わず自動/対象が装着者に負の感情を抱いている程効果が強くなる)

説明:遥か昔、美しく気高き竜が居た。他者と毎夜踊る事で威厳を保っていた竜が隠れて遊び回る為に己の鱗を用いて作成した。彼が亡くなる寸前に自分の巣に封印を施して隠したのだが凄腕の冒険者のせいで戦利品として持ち帰られ世に出ることとなる。使用者が限られるものの、この仮面を装着出来た者はあらゆる者を惑わす事も出来れば手にする事も出来るという〉


「えーっと…なんだ?とにかく、昔偉い竜が夜遊びする為にわざわざ作ったって事か?でも、それが何であそこに?」


確かソアラがこんな仮面は選んでいる時に無かったと言っていたのを思い出し、条件に当てはまる人間以外には見えなくなっていた可能性がある。

あの場に集められていたのが過去に店の中で忘れられた物も含まれていたのならばかつての所有者はうっかり屋だった可能性があるか、怖くてわざと忘れたなどの可能性があるもののコレを見つけてくれた黒鉄は何故見えたのだろうかと首を傾げる。

兎にも角にも使用は控えないと大変な事になりかねないが、使いようによっては苦難を乗り越えられそうな代物ではある。


「昨日の一部の客の反応が変だったのは、そういう事…だったのか?」


変な客の対応も女性の店員が行く事になりそうならば率先して変わっていたが、この能力ならば相手側の対応がしおらしくなったのも頷ける。

ほんの少し、自分が何かしてしまったかと不安だったのだが呪面のせいなら問題ない、と割り切ることにする。

黒鉄に聞きたい事はあるものの起きたらにしようと思いつつ、リストバンドで時間を確認しては後20分程で神殿が開く時間となっていることに気づく。


「誰も並んでませんようにっ…」


この時間であればまだ並ぶ人間はいないだろうと思いつつ、手早くマオ達を籠の中へと起こさぬように入れてはベッドを降りる。

軽く身支度を整えてからカウンターに居た宿の主人に今日は早いなと声を掛けられれば神殿に向かうと説明すると妙に納得した顔で気を付けてと返され軽く頭を下げてから宿を出る。

折角早く起きた意味がなくなってしまうので誰も居ませんようにと願いながら人が疎らな街道を足早に歩くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る