61-謎の給仕係

時間通りに猫の遊び場が開店すると待ってましたと言わんばかりに客が来店し始める。

基本的な接客はミーナや他の給仕係の子達が担当するのでライアは料理のオーダーを管理し配膳を指示する役目を担う。

まさか、休んだのがデシャップを担う人とは思っておらず責任重大なポジションに苦笑を浮かべつつ仮面を付けた一緒に働く給仕係の面々を見渡す。


「今日は急な代打なのに皆に指示を出す立場となって申し訳ない。なるべく、迷惑を掛けない様に動くのでいつもとやりにくい等あったら遠慮なく言ってくれると助かる」


「いや!俺達としては絶対に立ちたくないポジションなんで逆に引き受けてもらって有難いです!」


「ウチら…指示出しとか下手だし…。オーダー伝えるのだって厨房の男連中怖いから無理です…」


「ライアさんなら安心して任せられるって私の勘が言ってるので大丈夫ですよー!」


「いや、ミーナ…勘って…。まぁ、取り敢えずテラス席に関しては俺の目が届かないので逐一報告をしてもらうが、なるべく店内の方には目を配るようにするのでトラブルとかがあったら言ってくれ」


今発言をしてくれた3人以外に後2人のメンバーの名前を覚えつつ、店が開店の時間となれば入ってくる客を確認する。

ミーナが席の案内に行っている内に人数を確認してから水とおしぼりとメニューを用意しつつ、埋まっている席の位置と人数を確認していく。

オーダーの為に手を挙げている客を見つければ傍に居る子に声を掛け向かってもらう。


「ライアさん、5番テーブルのオーダーです!」


「ありがとう、3番テーブルの客がそろそろ注文しそうだから向かってくれるか?」


「はい!」


「5番テーブルオーダー!マッシュサラダとオルクの腸詰め2人前、ガリコの丸揚げ入ります」


「了解!」


キッチンにオーダーを伝えれば入ってきた客の人数を確認してから水とおしぼり、メニューのセットを用意する。

その間にエールを樽のジョッキに注ぎ、他のテーブルからも頼まれている酒を用意していく。

3番テーブルから戻ってきた給仕係に礼を言うと男性客が多いテーブルの対応を頼み、戻ってきた女性店員と言葉を交わしては新しく入ってきた女性客の方へと用意したメニューセットの提供を頼む。


「ライアさん、ヤバくね?初めてだよな?」


「入ってきた客の性別とか色々考えてアタシ達を向かわせてるよね…?」


「あのテーブルの男性客、常連さんだけどボディタッチとか酷かったからすっごく助かる…」


「皆、お疲れ。もうすぐ料理の提供のラッシュになるから大変になるが俺も手伝うから頑張ろうな?」


「「「はいっ!」」」


現在席に着いている客の半分には料理の提供が済んでいるが後の半分は酒を片手に美味い肴を当てにして飲みたいと思っているハズだ。

多少遅くなる事は見越してくれているだろうが酒が入ると短気になる者も少なくはないだろう。

ここからは提供にも加わると伝えつつ、出来た料理を運ぶテーブルの指示を出すと自分も料理をトレーと腕に乗せ片手に酒を持ち運んでいく。


「お待たせいたしました。追加のエール二つとドラグの尾肉ステーキ2人前、採れたて野菜のグランタです。熱いのでお気をつけてお召し上がり下さい」


二人組で来ている客のテーブルに配膳すると笑みを浮かべて軽く会釈をすればライアをまじまじと見てくるので首を傾げる。

なんでもないと言って礼を述べる客を確認してからどうしたのだろうかと思うも次の提供をする為に踵を返せば良く飲んでいると近くの席に座っていたりして話をする常連の男性客に声を掛けられる。


「お?兄ちゃん見ねぇ顔だな、新人か?」


「いえ、今日限定の特別店員ですよ。いつもご来店いただきありがとうございます」


「んん?その声、もしやラルクと何時も飯食ってる兄ちゃんか?」


「バレちゃいましたか…ラルクには内緒ですよ?」


「どうすっかなぁ?今日のオススメを教えてくれりゃあ黙ってるぜ?」


「試すなんて意地悪だなぁ…。今日のオススメは新鮮な角マーロが入ってますから刺身が美味いですよ?」


「んじゃ、ソレ頼むわ!お前ら飲むぞぉ!」


オススメを聞いて笑みを浮かべてオーダーをする客に笑顔を返してから追加の注文を厨房に伝える。

他にもできた料理などを配膳し忙しくしていると時間が経つのは早かった。

予約をしていた団体客もトラブルが起きる事なく捌ききれば無事に閉店を迎えると、給仕係の皆にお疲れ様を告げながら締め作業に移る。


「ライアさん!今日はお疲れ様でした!」


「いつも絡みがしつこいお客様とか対応変わってくれたりすっごく働きやすかったです!」


「絡み酒の激しい人もライアさんが笑い掛けただけでお酒零しながら見蕩れる姿が見れたり今日はなんか面白かったです!」


「その時は俺も驚いたけどあのお客さん大丈夫だったかな?」


「俺はノンケだ、俺はノンケだってなんかずっと呟いてたのは聞きましたよ?」


「ノンケって?」


「………深いことは気にせず!賄いの時間ですよー!今日はお魚にゃー!」


話をしながらも順調に掃除まで完了すれば割って入るように賄い料理を楽しみにしている事を隠さないミーナが大声で叫んでから厨房に入っていくのを見送る。

他の面々も行きましょうかと言う中、ライアはマオ達を迎えに行く。

既に眠そうにしているのを見て朝方使っていた籠をインベントリから出すと再びタオルの上に乗せてから厨房へと向かう。

ソアラに一言掛けてから一緒に仕事をした面々にお疲れ様を告げてから軽く頭を下げて会釈すると猫の遊び場を後にし宿屋へと向かうのだった。

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