60-仮面イベント

店の中にある顔を隠せる物を持ち寄りフロアにひとつの大きなテーブルを置いてその上に綺麗に並べられていく。

一瞬見ただけならばこれから店を開くのではないかという光景だがライア以外の全員が真剣な表情でテーブルの前に立つ。


「これより、ライアくんに付けさせる仮面または顔を隠せる何かを真剣に選ぶ会を始めるわよ?タイムリミットはお店の仕込みが間に合う時間まで!」


「取り敢えず色々と付けさせてみます?」


「でもよぉ、コイツ一人だけ仮面ってなんかおかしくねッスか?」


「それもそうねぇ…。いっそ今日はみんな仮面つけちゃうのもアリじゃないかしら?」


「じゃあ、俺これがいいな」


「フルフェイスはダメに決まってるでしょ。料理人は鼻と舌が命なのよ?味見もしにくいじゃない」


「確かに…」


「でもなんか似合ってたよな…」


先程の大柄な男が黒いフルフェイスのガスマスクを装着し背筋を伸ばしてソアラを見ると肩を叩かれ却下されてしまえば残念そうに外す。

周りに居た同僚達が似合ってたよなとコソコソ話しているのをライアは見つつ、どの仮面を着けるべきかとテーブルの上を見る。

鼻と口を覆ってしまうフルフェイスが駄目となれば、顔の上半分を隠すタイプの物かアイマスクのようなものがいいだろう。


『若、お困りでござるか?』


「黒鉄か…マオと白銀は?」


『構いに来てくれる給仕服を着た方々と遊んでいるでござるよ…某はこっそり逃げ出してきたのでござる』


「ちゃんと後で戻るんだぞ…?」


周りがどれを着けるかで盛り上がる中、不意に横から黒鉄の声が届くと下を見て靴の上に乗っているのを見ればしゃがんで手を差し出すと手のひらの上へと移動する。

マオと白銀の様子を聞いて苦笑を浮かべるものの仮面達へと視線を戻せば黒鉄もライアに倣ってテーブルの上へと顔を向ける。

ソアラは蝶の形をしたバタフライマスクを選び、大柄の男は虎のような模様の覆面を被っている。

覆面はアリかナシかの物議が始まるが鼻と口が出ているからセーフという結論に至り各々興味のあるマスクを手に取った。


『若、あれはどうでござろう?』


「ん?どれだ?」


『額の辺りに小さな宝石が散りばめられているやつでござる』


「コレか?」


『そうでござる!それなら両目と片頬が隠せるでござろう?』


「確かに。選んでくれてありがとう、黒鉄」


『どういたしましてでごさる!』


黒鉄の誘導に従って手を伸ばし額部分に真珠を砕いたような綺麗な宝石が散りばめられた藍色の両目部分と右頬を覆うようなデザインをされた仮面を手に取る。

限りなく黒に近い濃紺色の仮面は両目の部分が透かしのような細工がされており右頬に当たる部分は蛇の模様のような柄がある。

まじまじと装飾を眺めた後、顔に装着すると紐などは無いがしっかりと顔に貼り付いているのでどういう原理なのだろうかと不思議に思っていればソアラに声を掛けられる。


「あら、素敵な物を選んだわね?けど、こんな素晴らしい細工の仮面なんて私達が見てた時あったかしら?」


「なんだろう…顔の半分以上が隠れてんのに妙に色っぽく感じねぇか?」


「なんか、逆に隠されてない唇に目がいっちまうような…」


「おいおい、やめろよ!俺達は女が好き!男はノーセンキュー!オーケー?」


「「「お、おぅ!」」


黒鉄をマオ達の所へと再び預けにライアは行くと、その間に他に厨房に立つ人々は普通のアイマスクや目が出る部分が作ってある頭巾タイプの物などを付けてそれぞれ支度を終えると選ばれなかった仮面を元あった場所へと片す。

その後、超特急で食材の下拵えを終わらせなんとか店の開店用の仕込みが終われば、他の人は一服しに行く中でライアとソアラは料理を作っていた。

材料の切り方や焼き方を聞きながら忙しなく手を動かす。


「普段から自分でも作ってるって言ってたけど、本当だったのね」


「はは、嘘なんてつきませんよ。この後はどうしたらいいですか?」


「油の香り付けに炒めた香草を一旦取り出してからこのオルクの腸詰めを焼くのよ。今回は香草を使ったけどガリコを使っても問題ないわ」


ガリコとは仕込みをしている間に教えてもらったニンニクによく似た野菜だ。

黒鉄と白銀が肉が好きという事で手軽に仕入れられて調理のしやすいオルクの香草焼きから教えて貰っている。

フライパンで焼きながら腸詰の皮が破けないように上手くタイミングを見て転がすように教えられる。


「皮が破けてしまうとせっかくの肉汁が零れてしまって勿体ないのよ。上手く破かずに焼けると肉汁が皮の中で再度肉の中に吸いこまれてより濃厚な肉の味を楽しめるようになるの」


「結構、難しいです、ね?」


熱したフライパンの熱さに額から汗が垂れるのを感じつつ箸で掴みながら丁寧に皮を破かぬように焼いていく。

香草と肉の焼ける匂いに食欲がそそられるものの軽く頭を横に振ってから真剣な面持ちで腸詰と向き合う。

その様子を見てソアラは笑みを浮かべながら今の内にと料理のポイントを抑えたレシピを羊皮紙に書いていく。


「ソアラさん!ホールで一人熱出したらしくて急遽休みになっちまったんだが、どうする!?」


「え!?今日は団体の予約が入ってるのに人手が足りないのは困るわ…どうしよう」


「ソアラさん。良ければ俺、手伝いますよ」


「料理の仕込みも手伝ってくれたのに申し訳ないわよ…」


「気にしないでください。最初に頼まれたミュラちゃんのボディーガード、ちゃんと達成できなかったお詫びと思ってもらえれば」


オルクの腸詰と向き合いながらライアはソアラに声を掛けると申し訳なさそうな声に頭を振る。

頼みやすいように前に達成できなかったお願いを引き合いに出せば渋々ながらも助っ人を頼まれれば快く了承する。

話をしている間に途中まで順調だったオルクの腸詰めの皮が破けてしまい焦げてしまう結果となったがマオ達が美味しく食べてくれたので結果オーライとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る