59-従業員緊急会議
16時よりも少し早めに猫の遊び場へと辿り着けば待っていたと言わんばかりにソアラが手を振ってくれているのを見て少し駆け足で傍へと向かうと笑みを浮かべる。
「お待たせしました、ソアラさん」
「待ってたわよ、ライアくん!マオくんは今日も元気そうね」
『マオはいつも元気だよー!』
『アレ?わて等は?』
『ほら、小さな兄殿は可愛いらしいでござるから…』
「ちゃーんとあなた達の事も見えてるわよ?はい、これ!特製ジャーキーね」
『美味い!噛むほど肉の良い味が染み出るでござる!』
『さっき食べた串焼きの味を忘れてしまいそうやぁ!』
誤魔化すように口に入れられたジャーキーを噛みながら黒鉄と白銀が黙ってしまうとちょろいなと思いつつ撫でられているマオを横目に今日の指導の予定を聞く。
酒場の仕込みを手伝いながら渡されたレシピを見て実際に料理を作るという流れで行こうと思っていることを簡単に説明される。
「普段料理もしてるって言ってたからちょっとハードかもしれないけれど仕込みのお手伝いもお願いしたいの。今日、また予約が入っちゃったのよね」
「レシピを教えてもらうんですから手伝って当然ですよ」
「そう言って貰えると有難いわ。マオくんと白銀ちゃんと黒鉄くんはここで待っててくれるかしら?後でライアくんの作ったご飯差し入れするからね」
『パパの作ったご飯ー!』
『楽しみでござるなぁ!』
『わての舌を唸らせる事が出来るんか、楽しみやな!』
『妹生意気ー!』
『あいたぁ!!』
マオの尾で叩かれベソを掻く白銀の姿を見つつくれぐれも周りの人に迷惑を掛けないようにと言い含めてからライアは厨房傍の更衣室の前へと通される。
近くの棚から厨房着をソアラが取り出すとライアに手渡し着替えてくるように促される。
「更衣室の中に髪を纏める道具も色々と揃ってるからくれぐれも髪が落ちないように対処してきてね?」
「了解です。とりあえず支度が出来たら声掛けますね」
「厨房で待ってるわね!」
手を振り厨房がある方へと歩いていくソアラの後ろ姿を見送りつつライアも更衣室へと入れば店内で食事をしていた際に忙しそうに働いていた面々が居た。
ほぼ毎日通っているからか顔を覚えられているのでソアラさんの指導はキツイが頑張れよと応援の言葉を掛けてくれる。
笑みを浮かべながら感謝を述べつつ厨房着に袖を通すとよくシェフの方々が付けている腰エプロンを身に着けてから備え付けられている鏡の前に立つ。
髪を纏める様のヘアゴムや前髪などを留めるように用意されているヘアピンを見ながらどうすべきかと悩んでいると声を掛けられたのでそちらを見る。
「いつまで鏡の前で迷ってんだよ?自分の髪あんま触らねぇのか?」
「あんまり自分の髪型とかに拘りがなくて…何時も長くなったら少し切るぐらいしかして来なかったというか」
「はぁ!?料理人たるもの…って、お前はそうじゃなかったか…。しゃあねぇ、後もつかえてるし俺がやってやるから大人しくしてろ」
少し大柄で横柄な態度の男だが頬を掻きながら申し訳なさそうにするライアを見て小さな溜息を漏らしつつ、櫛を手に取ると器用に前髪を後ろへ流すように梳かしながらヘアピンで留めていく。
少し伸びて中途半端な後ろ髪は髪ゴムで纏めて最後は頭巾まで着けてくれた。
何から何までやって貰ってしまったので振り向いて礼を述べると顔をまじまじと見てライアを指差しながら振り返って同僚に声を掛ける。
「コイツを見て意見がある奴…挙手」
「え?ええ?」
「はい!酒場に来る一部の変な客の視線の餌食になると思う」
「へい!来店した女の客のラブコールがうるせぇと思う」
「ほい!寧ろラブコール送る女達を見て俺たちが嫉妬に狂うと思う」
「「「それな」」」
「ソアラさんに相談してくるわ…店に出して問題無いか」
「俺達も行きます」
「そこまで……?」
久しぶりに前髪が完全に下ろしていないオールバックに近い髪型になり首に手を当て落ち着かない様子を見せていたライアだが、自分を見て思い思いに感想を述べると最後の言葉に同時に頷くのを見る事になる。
深い溜息とともに大柄な男性とその他の従業員が引き連れて更衣室を出て行ってしまい一人取り残されたライアは暫し呆然とした後に急いで更衣室を出る。
男の従業員に連れられて更衣室の方へと歩いて来ていたソアラと視線が合えば口を手で覆うとまじまじとライアの顔を見てから口を開く。
「まさか…こんなに美人さんだなんて…」
「言っただろ?で、どうするつもりなんだ?」
「彼を店に出したら一悶着絶対あるわよね…。どうしようかしら」
「なんか、顔の半分隠せるようなもん無かったっけか?」
「マスク、はあんま意味なさそうだよな」
「えー、じゃあ…ゴーグルは?」
「ゴーグルとマスクどっちも付けさせましょ」
「それじゃ、不審者だろうが!」
ライアそっちのけで話し合うソアラ含む厨房の従業員達を見ながら取り敢えず流れに身を任せることしか出来ない事がわかり成り行きを見守るのだった。
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