58-広告塔

昼食にと露店通りへと来ると籠の中から見る世界が新鮮なのかマオと黒鉄が縁に手を置き周りを見ている。

食べ物の香りに起きた白銀が籠から飛び出しライアの腕を伝って肩まで登って行くと目を輝かせながら辺りを見回す。


『おはようさん!めっちゃえぇ匂い!』


『もう昼過ぎだよー、妹ー』


『うぅ、あんな姉を持って恥ずかしいでござる…』


「飯の匂いで起きるとはな…。マオ、黒鉄。籠を片すからお前達もおいで」


『はーい!』


『承知!』


その様子に呆れながら人目につかない場所に避けてからマオと黒鉄に手を差し出す。

待ってましたと言わんばかりにマオが手のひらに乗ると腕を伝い襟元へと向かい、黒鉄は遠慮がちに腕の裾に何時でも隠れられる位置で止まる。

籠をインベントリにしまうとこの後の事も考え食べ過ぎればこの後のソアラから料理を教えてもらった際に試食分が入らなくなってしまう。


「いいか、お前達。露店のご飯は1品、デザートは2種まで。それ以上はダメだぞ?」


『はーい!分かったー!』


『承知でござるよ、若』


『了解や!何食べよかなぁ?』


「特に白銀…お前が一番破りそうな気がする」


『せっ成長期やからっ!食べたなるんや!』


『姉上…食べ過ぎは太り…いったぁ!!』


「黒鉄、今のはお前が悪い」


白銀に尾で叩かれる黒鉄を見て苦笑混じりに告げつつ少し食べるくらいに留める事を念頭にゆっくりと出店を見ていく。

柔らかそうなパンに沢山の野菜と照り焼きのタレによく浸かった肉を焼いて挟んだバーガーやシンプルに塩で味付けられたものとタレがつけられた串焼きを扱う店などが並んでおり、どれも美味そうな匂いを発しているので食欲を刺激する。

マオが先に声を上げ串焼きを食べたいと言うので塩とタレの方を注文する。


「お兄ちゃん可愛いヤツら連れてんなぁ!オマケだ!もう2本持ってけ!」


「え、そんな…ありがとうございます」


「食ったら是非とも宣伝してくれや!」


お代を払いつつ気前の良いねじり鉢巻きをした青年が串焼きを2本オマケしてくれたので礼を述べつつ、宣伝を考えると店の横でまず最初に食べたいと言ったマオに肩まで出てくるように告げれば塩で味付けされた串焼きを差し出す。

手拭き用のタオルも用意しつつマオが差し出された串焼きの尖端に刺さっている肉を食べれば尾を揺らしながら食べ進める。

それを前を通ろうとしていた通行人が見掛けマオがあまりにも美味しそうに食べているので自分もと購入していく。


『パパー!これ美味しー!肉汁すごーい!』


「良かったな、マオ。白銀、黒鉄も食べな。お兄さんがオマケしてくれたんだし」


『待ってましたァ!』


『それでは頂きまする!』


タレ付きの方の串焼きを取り出すと首を伸ばして白銀が肉に食らいつき口の中に広がる肉汁に目を輝かせ夢中になって食べ進める。

興奮してライアの肩を叩く尾が地味に痛い。

黒鉄にはマオと交互に塩味の串焼きを食べてもらうが熱々の出来たての美味さに食べ進めるのが早い。

ライアも一口食べようと思うが三匹に差し出していると食べる暇が無く苦笑を浮かべる。

それに気付いたマオが肉を串から外すとライアの口元に差し出してくれた。


『パパー!あーん』


「ありがとう、マオ。…んっ、お前たちが夢中になるのも分かるくらい美味いな」


『でしょー!僕お店選ぶの上手ーい!』


『こんな所でも幸運発揮している小さな兄殿…恐ろしい』


『旦那はーん!もう無くなってもうたよー?次の串焼きはー?』


「………食べ過ぎじゃないか?」


『え、そんな食うとらんやろ?』


「白銀…一人で塩とタレと一本ずつ食っておいてか?」


『あらぁ?』


買った串をその場で完食しては忙しそうに焼いている露店のお兄さんに美味しかったと告げて店を後にする。

暫くしてその光景を見ていた通行人達がこぞって露店に並び串焼きを注文したものだから宣伝を頼むんじゃなかったと露店のお兄さんが後悔したのは言うまでもない。

続いて露店を歩いていると薄いクレープのような生地に生クリーム、果物を乗せ風呂敷のように折りたたんで包む洋菓子を扱っている店で黒鉄が反応する。


『若、あの店の菓子、美味そうでござるな』


『ホントだー!美味しそー!』


『しょっぱいのの後には甘いの食べたなるからなぁ…よぉ分かっとるやん、黒!』


「はいはい。次はアレだな。クレフロって言うのか沢山果物が使われてるのを二つでいいか?」


『パパの分はー?』


「俺はこの後料理するからあまり食べ過ぎるとやりたくなくなるから余るようなら頂くよ」


クレフルの店に並ぶと今度はここかと周りの通行人がライア達を見ているのだが、話に夢中で気付くことはなくそのまま順番が回ってくると果物が沢山入っているモノを二つ頼む。

店員がマオをガン見していたが注文を受ければ笑顔で作業に入り手際よくクレープ生地に生クリームや果物を詰めて折り畳んでいく。

1つ完成したので受け取れば我先にと白銀が食らいつき思わずチョップをしてしまったが挫けず美味しそうに食べている。

続いて2つめが完成するとお代を払いながら受け取ってはマオと黒鉄が気を利かせて左肩に集まってくれていたので差し出すとぶつからないように気を付けながら食べ始める。


『美味しー!果物甘ーい!生クリームも甘ーい!』


『美味いでござる!』


『美味かったわぁ…次は何食べるん?』


「マオや黒鉄の倍食べててまだ食う気か」


マオと黒鉄が半分も食べていないのに完食した白銀に苦笑を浮かべつつ、リストバンドに触れ時間を確認する。

今から向かえば丁度良いくらいの時間に着けるので食事はここまでと告げると残念そうにする白銀を見て後でまだまだ食えるからと言えば機嫌が治るので現金な奴である。

店先で申し訳ないと謝ってからその場を後にすると近くに居た通行人がまた店に並び大繁盛となったらしい。

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