57-新装備
高温の窯から溶け始めた鉱石を取り出し槌で叩き伸ばし途中で叩いている面の凹凸を確かめる。
一旦水に漬けてはマオが持ってきた素材の中から緋色と紫色の魔石をガルドルフは手に取り己の魔力を注ぎ込む。
光加減を確認してから脇に置くと窯の中から熱を持った竜の鱗を取り出し叩き割る。
「割ってしまっていいんですか?」
「問題ねぇ。竜の鱗は属性を付与しやすいからな。こうして割ったり砕いたりして利用するのよ」
「なるほど…媒介代わりにするんですか?」
「そうだ。さっき見てた炎と雷の魔石をこの鱗に馴染ませてそこで冷ましてる鉱石と結合させるのよ」
割った竜の鱗を用意している間に水で冷ました鉱石を再度窯の中へと入れ熱を通す。
魔石を片手ずつ持てば先程よりも眩く光る量の魔力を通し、表面から出てくる魔力糸がそれぞれ龍の鱗に絡みつく。
綺麗に表面を覆い尽くすとここでまた整形の為に編み上げる過程なのだろうが、今回はもう片方の鱗と結合させる。
ガルドルフの額から汗が垂れるも重要な部分なのか瞬きもせずに魔力糸を介して結合させている鱗を見つめる。
ライアは時折質問を投げ掛けつつ槌を振るう姿や素材を編み上げる技術を一瞬も逃すまいと眺める。
「ふぅ…炎と雷なら問題ねぇと思ったが結構なじゃじゃ馬だったな」
「これが、元は竜の鱗…」
「綺麗だろう?後はコイツをさっきの鉱石と合わせるだけだ」
赤紫色の鮮やかな紋章のような彫り物がされた1枚のプレートへと変化した竜の鱗を見てライアは感嘆の息を漏らす。
元は小さな素材も魔石などの素材を用いて形を変形させる事で装備品となるのが見ていて面白い。
自分にもできるだろうかと思いながら鉱石を取りだし不純物が残っていないか確認しつつ再度槌で叩いてから水に浸し再度火に入れる過程を見つめる。
「マオっつぅペットに感謝するんだな。そこらの盾が要らねぇほど頑丈になるだろう。この装備は重宝するぞ?」
ニヤリと笑いながら最後の結合の過程に入ると熱を持って赤くなっている鉱石上に竜の鱗が被せられる。
眩い光を放つのを見てガルドルフが竜の鱗に練りこんである魔石に魔力を通し糸を使って鉱石と鱗の併せを縫い上げしっかりと結合させる。
隙間なく密着すると鉱石の熱を鱗が吸い上げては元の色が鮮明になる。
「当初は肘当てを作る予定だったが鱗自体の強度と鉱石の質量を考えて篭手にしてみた。盾替わりにもなるだろうから利き手じゃねぇ方に着けた方がいいかもな」
「ありがとうございます。見惚れるくらい鮮やかな作業を見せてもらいました。これで1500ゴールドは安すぎるんじゃ…」
「構わん構わん。材料はお前さんのだからワシは加工と細工と仕上げをしたのと後は技術料を考えりゃそんなもんだ」
「大事にしますね、ガルドルフさん」
「おぅよ。所で、兄ちゃんに頼みがあるんだがな?」
「もしや、安いのはそこが本音?」
「そういう訳じゃねぇがふと思い出してよ。ワシの弟子が王都に居るんだが、もし行くようならこの手紙を届けちゃくれねぇか?」
〈配達クエスト
目標:ガルドルフの弟子であるフォセに手紙を届けろ
報酬:【称号】ドワーフの友、鍛治の基礎指南書(初級)〉
篭手とグローブ代を支払いつつ表示された配達クエストを引き受ければ満面の笑みで感謝を述べるガルドルフから手紙を受け取る。
『パパー、どこー?』
『小さな兄殿!くれぐれも籠から出てはいけませぬぞ!』
「あ、マオ達が起きたみたいなんで連れてきますね」
「いや、ワシも店に出なきゃならんから一緒に行くわい」
マオ達の声が届けばガルドルフから受けとった手紙をインベントリにしまうとライアは工房から店の方へと戻る。
カウンター傍の籠の方を見れば縁に手を掛けながら辺りを見回すマオと未だに寝息を立てている白銀を呆れた様に見つつ籠から出ないようにと言う黒鉄が居た。
ライアの姿を目に留めると尾を振りながら嬉しそうにするマオを見つつ籠を持ち上げればガルドルフへと体を向ける。
「さっきは全く気にしとらんかったが、ここにチビ達を入れてたのか」
「はい。ここに来るまでは三匹とも寝てたので…」
『わー!このオジチャン髭長ーい!』
『立派な髭でござるなぁ…若も生やしたらどうでござるか?』
「ここまで髭を伸ばす頃には俺はどれくらい歳をとってるかな…」
元気いっぱいのマオがガルドルフの髭に手を伸ばすのを見てライアは指で妨害しつつ黒鉄に苦笑混じりに返す。
起きると一気に騒がしくなり大変ながらも悪い気はしない。
ふと時計へと視線をやれば時計の針は14時を指し示しており意外と時が経つのが早くて驚いてしまう。
「お前さん達のパパは今日新装備を手に入れたからな。後で見してもらえよ?」
『パパの新装備ー!?楽しみー!』
『若!後でお披露目頼むでござるぞ!』
「コイツら知能が高いな?ワシの言葉を理解しとるじゃろ」
「あはは…分かりますか?」
「他のペット連れとは明らかに反応が違うからな…。分かるわい」
ガルドルフの言葉に苦笑を浮かべるも深くは聞いてこないので有難く思いつつ、王都へ行く前にまた寄るかもしれないと告げればレア素材を持ってきてくれよと返されてしまえばマオの拾い物次第だなと頬を掻く。
店の前までお見送りをしてくれたガルドルフに手を振りながら店を後にすれば露店通りへと足を向ける。
「しかし…白銀はよく寝るな…」
『面目無いでござる…』
『弟悪くないよー?悪いのは妹ー』
アレだけ騒がしくしても寝ている白銀をある意味大物の器だと思うライアだった。
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