51-抜き打ちテスト・前

アラクネを後にしたライア達は訓練所に辿り着き何の気なしに門を開けて普段のように中へと入れば普段とは違う雰囲気を纏ったラルクと遭遇する。

師事し始めた頃に一番得意なのは大剣だと言っていたが訓練生が居なくなってから案山子を前に一人で素振りをする姿など見た事がなかった。

重さなど感じていないかのような速さで振り抜かれる訓練用の大剣が案山子に当たった後、地面に着く前に切り返しを入れ更にそこから連撃に繋げる姿を見てライアは思わず見入ってしまう。

視線に気づいたのかラルクが手を止め振り向くと大剣を地面に突き刺し手招きをしながら声を掛けてくる。


「お、ライア。丁度いい所に来たな。チビ共はそうだな…そのカカシの上に置いてこっちに来い」


「わかった。悪いがお前たち、ここで大人しくしててくれ。特に、白銀」


『なんでやねん!そこは小さな兄さんやろがい!』


『ちゃんと妹見ておくからねー!』


『姉上の事は任せるでござるよ』


『おまぁらいっぺんシバいたろか!』


指定されたカカシの上にマオ達を乗せてからくれぐれもと言い含めると喧嘩をし始める姿を見てからラルクが居る場所へと歩いていく。

傍に近寄る程に言い難い緊張感に襲われながらもラルクの前に立つと満足気に頷いた後、地面に指していた大剣を抜いてライアに向けて放り投げてくる。

刃が潰れているとはいえいきなりの事に驚きながらもライアはキャッチするも、今まで扱ってきた武器の中でも一番重いと思える重量に少しばかりよろける。


「ちゃんと、調査に行った時に訓練もこなしてきたみてぇだな」


「ああ。師匠の言う事を聞かない弟子にはなりたくないんでね」


「ガッハッハッ!いい心掛けだ!お前さんのそういう所が好きだぞ、ライア」


腕を組んで笑いながら自分は獲物を握らずにライアの前に立ちはだかるラルクを見てまだそこまで長い付き合いとは言えないが酒を飲みに行く時の砕けた様子は成りを潜めている。

何か意図があるのだろうと思い大剣を握って先程の姿を見様見真似で再現しながらラルクに向き合うと笑みを浮かべるのを見てライアは問い掛ける。


「それで、今日は大剣の使い方を教えてくれるのか?」


「………いや、今回は違う。これから試験をする。ソイツ大剣を使って何も獲物を持たないオレに一撃でも入れられたら合格だ」


「なっ…それじゃラルクが危ないだろう!?」


「アホ言ってんじゃねぇ。当たった所でそう簡単に傷付くようなやわな鍛え方はしちゃいねぇよ。一撃と言っても腕、脚を除いた部分に当てないとカウントしねぇからな」


何か考えがあるのは分かるのだが何も持たぬ相手に斬り掛かるなど常識的に考えても躊躇して当たり前のことである。

戸惑うライアを他所に軽く肩を鳴らしながら準備をするラルクに辞める気がない事を悟ると深呼吸をしてから大剣を構える。

短剣や片手剣よりも幅広で重量がある武器を振り回すのは初めてだが、気をつけねばいけない事は何となくわかる。


「なぁに。タダで一撃貰ってやる気はねぇ。オレもそれなりに反撃させてもらう…。お前さんが地面に膝をついたら不合格だ」


「再試験は…?」


「何時でも受けてたってやる」


「ならっ、失敗しても安心だ…なっ!」


「振りが大きい。そんなへっぴり腰じゃ当てらんねぇぞ?」


何度でも再戦が可能ならば遠慮せずに向かっていった方がいい。

先ずは試しに上段に構えて走りながら振り下ろす。

速度を乗せることで早く振り下ろせるように工夫したつもりだが最小限の動きで避けられてしまえば腹にラルクの拳が叩き込まれる。

重めの一撃を喰らい後ろへと吹っ飛ばされるが大剣を地面に付け勢いを殺す。


「速度を利用する考えはいいが大剣は重みがある分確実に当てられる状況じゃなきゃおすすめしねぇな。後、オレは反撃すると伝えた筈だが体の守りが疎かだぞ?」


「くっ…げほっ…ここまで本気で殴られると思ってなかったからなっ!」


「そりゃあ、卒業試験だからなぁ?甘っちょろい感じにやる気はねぇ。特にライア、お前さんにはな」


「容赦ない師匠を持つと、大変…だっ!」


軽く咳き込みながらも腹部のダメージに膝が笑うが会話を交わしている間に思考を巡らせる。

ラルクの持ち出した試験の内容は大剣を用いてを喰らわせろと言った。

大剣以外の攻撃もカウントされる可能性がある。

腕や脚は防いだとみなされるのなら頭や胴体部分を狙うしかない。


「漫画とかで師匠から一本取らないとならない場面の弟子の辛さが分かる気がするな」


「おら、来ねぇならこっちから行くぞ?早く終わらせて飯にしたいからな」


「その割には、本気すぎるだ…ろうがぁっ!」


耳を掻きつつ言うと距離を詰めてくるラルクに目を見張れば振り被られる拳を大剣の腹で受けるが鉛にぶつかられたような重みのある一撃に衝撃を受け流しきれずに更に背後に吹っ飛ばされる。

あらゆる武器を扱えて体術まで出来るラルクの実力の一部を垣間見てライアは尊敬しつつも手加減の無さに舌打ちをしたくなるのを必死に堪える。

気付けば訓練所の壁まで追い詰められておりこのままではまずいと思うも更に距離を詰めて来ようとするのを見て急いで壁から離れる。


「壁際は不利になる事が分かってんのは上々だな…。だが、そっちに気を取られ過ぎだ」


「なっ!いっ…てぇ!」


「大剣を持つなら走る速度が落ちる事も考えて動け。一回目の失敗だ。チビ共、数えとけよ」


壁から離れる事にばかり気が行ってしまいラルクの動きを見ておらず離れようとした方向に先回りをされては足払いをされライアは受け身も取れず大剣を握ったまま派手に地面に身体を打ち付ける。

衝撃と痛みに眉間に皺を寄せながらゆっくりと起き上がりながら悔しさに奥歯を噛み締めつつ少しふらつくも立ち上がる。


『むむむむー!パパはまだ本気出してないもん!!』


『初めて扱う武器に体が付いていけてへんなぁ…。あの筋肉ゴリラの試験の意図は分からへんでもないけど…』


『若が乗り越えられると思って試験にしたのでしょうから某達は応援しながら見守るだけでござるよ』


離れたカカシの上でライアの姿を見ていたマオは地団駄を踏みながら怒りつつ、白銀と黒鉄は冷静に試験をする姿を見ていた。

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