50-報酬とお願い
何とか周りの店に迷惑を掛けることなく客を捌き切ればライアは深い溜息を吐く。
どうやって人が集まってくるのか半分まで減ったと思えばまた半分増えかなり長い時間その状況が繰り返されたような気がする。
『パパー。お疲れ様なのー』
「ありがとう、マオ。お前たちもお疲れ様だったな」
『いっぱいポーズさせられたけど楽しかったよー!』
両手を広げて表現しようとするマオの頭を撫でれば自分も撫でろと押し付けてくるペロの頭も撫でる。
仕事の疲れも吹っ飛びそうだなと思いながら取り敢えずは中に入ろうと店の中へと歩みを進めるとレジの傍に疲労困憊の白銀と黒鉄の姿があった。
マオとどこかに出かけてくる時以上の疲れた姿に驚きながら傍へと行くと差し出された手にふらつきながら顎を乗せてくる。
『しっ、しんどかったわぁ…隙あらば触ろうとするやつも居れば釣り銭掠めようとする奴も居るし散々やったわ…』
『某達を見て興奮で血走った目を向けてくる男性客が1番怖かったでござるよ…』
「まさか、お前達も手伝ってるとは思わなかったよ」
『ホンマは裏でゆっくりさせてもらおうと思ったんやけどメルとタウが助けてくれ言うから手伝ったんや』
「お疲れ様だな…。何か一声掛けてくれれば良かったのに」
『そんな余裕もあらへんかったからなぁ…』
『姉上はお釣りを渡すだけだから良いが某は算盤を弾いてたのでのでござるぞ?あれ大変なのでござるからな』
珍しく甘えてくる白銀と黒鉄を労わるように優しく撫でていると奥からアルマが顔を出しその手には湯気の上がる飲み物が入ったコップを持っている。
移動する事を悟れば白銀は腕に巻き付き、黒鉄は手のひらの上に乗る。
アルマに奥へ来るよう言われれば初めて来た時に通された部屋へと案内され椅子に座るよう促されれば一言添えてから腰掛ける。
「今日は助かったわぁ!本当にありがとうね、ライアくん」
「いえ、アルマさんにはいつもお世話になってますしね」
「何言ってるのよぉ!いっつも私の方がお世話になっちゃってるわぁ」
ポケットの中に居たマオとペロがライアが座った事で足元が支えられると這い出てきて狭い所からの解放感で軽く伸びをしてから膝の上に収まる。
目の前のテーブルに置かれたコップを手に取り声を掛けてから口元に寄せれば鼻を擽る甘い香りに僅かに目を細め笑みを浮かべる。
少しトロリとした緩めの液体を口に含むとチョコレートの味が口の中に広がり、疲れた身体に染み渡るのがわかる。
『甘い香りー!パパだけずるーい』
『わてらにもお菓子ほしいわぁ!』
『そ、某も…できれば…』
「そうだな…お前たちにはコレかな?」
インベントリを開くと前に露店で購入したお菓子を取り出す。
食べ物でも時が止まる機能があるのか腐る事なくしまっておけるのは有難い事である。
マオには封を切ったあんず棒を手渡し、白銀と黒鉄には少し小さめのどら焼きをテーブルの上に用意すればそれぞれ食べ始める。
「ライアくんの使い魔くん達とマオくんは珍しい子達が集まってるわね」
「え?ただの蛇と蜥蜴の双子ですよ?」
『ただのは余計や!』
「今はそうかもしれないけど…成長したら分からないわよぉ?」
どこか含みのある言い方をするアルマに首を傾げるもののテーブルの上で怒る白銀を宥める黒鉄の姿を見つめる。
視線に気付きライアを見る二匹と暫く見つめ合うが声を掛けられるわけではないと判断するとどら焼きを食べるのに集中し始める。
難なく会話ができているので気付かなかったが産まれたばかりの使い魔がこれほどまでに知能を有しているものなのだろうかと今更だが思う。
「そうそう!手伝ってくれたお礼にこんなもの用意してみました!喜んでもらえるかしら?」
「ありがとうございま……またタマゴ?」
「今日の売上凄い事になったんだもの!その分のお礼も兼ねてるわ!」
『むー、ライバルが増える予感ー』
『わてらも気を引き締めんとかなー』
『姉上は特に気を付けた方が良いでござるな』
『どういう意味やねん!』
〈クエスト達成
報酬:500ゴールド、ペットor使い魔の装備選択BOX(N~R)×2
特別報酬:???のタマゴ
※特別報酬以外は自動的にインベントリに送付されます〉
白銀と黒鉄の言い合いを聞きながら目の前に浮かんだメッセージウィンドウを見つつ、アルマの手にある薄紫色のタマゴを受け取る。
ほんのり暖かく感じるタマゴを割ったらいけないとインベントリにしまえば飲み物を飲みながら頬に手を添えるアルマを見る。
「少しだけライアくんが羨ましいわ。普通のペットや使い魔は例え主人でも中々懐いてくれないのよ」
「そうなんですか?」
「えぇ。使い魔やペット達同士は会話が出来るけど主人とは言葉を交わす事のできない子達の方が多いわ。愛情を持って育てる事で念話を習得しないことには…ね」
その言葉にライアは三匹を見れば美味そうにお菓子を食べながら喋っているのを見る。
普通のプレイヤーはこの会話を聞くことも出来ないとなるとどれだけつまらなく感じるだろう。
そんな事を考えているとあんず棒を食べ終わったマオが口の周りをベタベタにしているのを見てインベントリから濡れタオルを取り出すと綺麗に拭ってやる。
「ふふふ、ライアくんを見てるとこの子達も幸せなんだなって分かるわぁ。優しいパパみたいだもの!」
「ははは…マオにはパパって呼ばれてますからね…」
『パパは優しいパパだもーん!』
「そんなライアくんにひとつお願いがあるんだけどいいかしら?」
「なんですか?」
「この街を出て旅に出る時には他の街にもあるアラクネ系列のお店のお手伝いを頼みたいの。他のお店も今日みたいに行列が出来ているらしくて困ってるようなのよ」
〈連携クエスト
目標:各街にあるペット、使い魔の秘密の店を手伝う
報酬:500ゴールド、各店の取り扱う商品からランダムで2種
特別報酬:店主の満足度により追加〉
アルマの言葉と共に表示されたメッセージウィンドウを見てライアは僅かに目を細める。
進むにつれてペットや使い魔の装備も新調しなければならないし満足度によっては追加で報酬が得られるのであれば節約にも繋がる可能性がある。
「わかりました。俺なんかで役に立てるのであれば」
「ありがとう!そのエプロンと頭巾はプレゼントするわね!お店のお手伝いをする時にきっと役立つわ!」
「この色以外は…」
「ないわ!」
「そうですか…」
ハッキリとこの色以外無いと言われてしまえば苦笑を浮かべつつ、エプロンと頭巾を外し綺麗に畳んでからインベントリにしまう。
時計を確認すれば間もなくラルクが訓練所を閉める時間となるのでお暇する事にする。
「すみません。この後、ラルクの所にも行こうと思っているのでそろそろ…」
「大丈夫よぉ!もうすぐ暗くなるし気を付けてね?」
「ありがとう、アルマさん。それではまた。ホットチョコ美味しかったです」
ペロを膝から降ろすとマオをが襟元へと服を伝って登ってくるのを見つつ、白銀と黒鉄へ手を伸ばしそれぞれ回収すると立ち上がる。
ちゃんとコップの中身を飲み干せているか確認をしてからアルマに礼を述べるとメルとタウにも別れを告げてから店を後にするのだった。
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