47-家族会議の後の青春

宿屋で目が覚めれば珍しく起きていたマオがライアと視線が合うと頬に鼻先を付けながら甘えるように擦り寄ってくる。

時折ゴーグルのレンズ部分に当たるアイカップが顎の骨に当たり痛いが背に手を添え優しく撫でてやる。


『パパー…無理はしちゃダメだよー?』


「どうした、いきなり?」


『一昨日のパパ…いつもと違ったからー…』


小さな手を広げて顎に抱きつくマオを見て白銀や黒鉄よりも少し長く近くでライアを見ていたからこそ気付いたのだろう。

申し訳なく思いながらも必死に心配している事を伝えてくる姿に思わずライアは笑みを浮かべてしまう。

それを見て怒ったように小さな手で頬を叩かれてしまえば表情筋が最近緩んでいるなと思いつつマオに手を添えながらベッドから身を起こす。


「心配掛けてすまなかった…。無理は絶対にしないから怒らないでくれ」


『むー!!!パパはいっつもそうやって言うけどボクはホントに心配してるんだからねー!!』


「そう言いながらも撫でられて尻尾揺らしちゃってるけどなぁ?」


『無意識ですーっ!尻尾のバカー!』


『んんー?朝から何騒いどるん…?』


『シーッ、姉上…今は寝ているフリを貫くでござるよ』


『えぇぇ…まぁえっか…すやぁ…』


『おい、がちで寝る阿呆が何処にいるでござ……静かでいいか…』


怒りながらも揺れている尻尾を指摘すれば少し体を離すと手の上で地団駄を踏む姿が可愛くて思わずスクショを撮ってしまう。

一瞬だが白銀と黒鉄の声が聞こた気がしたが目を閉じたままの姿を見て寝言だろうかと思いつつその様子も写真に収める。

心配してくれる小さな息子に感動する親の気分を味わいながらもやる事が沢山あるので宿を出ようと声を掛ければ白銀と黒鉄を起こすと行って手のひらの上からマオが飛び降りる。

何となく先の光景が思い浮かべばリストバンドのスクショ機能を連写に変更してライアは待機する。


『起きろ妹ーっ!!!』


『イッタァァァァァ!?』


『小さな兄殿容赦ないでござる…』


『寝たフリしてた弟も同罪なのーっ!』


『げっ、某は気を利かせて…ぐはぁぁぁぁぁっ!』


「お前達はほんと仲がいいなぁ…」


マオがしっかりと落下速度と体重を乗せたキックが白銀の頭にクリーンヒットすれば一発で起きたのか悲痛な叫びが聞こえる。

その瞬間を写真に納められたのでスマホに送りつつ目にも止まらぬ速さでマオが手まで駆けてくると今度は黒鉄が痛そうなキックの餌食となった。

そんな様子を見つつ思い出したようにマオ達にライアは声を掛ける。


「そうだ…実はな。お前達の写真を他の奴らに見せたらちょっとした騒ぎになってしまってな…。危険に晒さない為にも外出の時にはこの指輪に入ってもらおうと思ってるんだが、嫌か?」


『んー、ボクはパパと一緒に居たいから嫌だなー』


『わても嫌やなぁ。心配してくれるは有難いんやけど旦那はんに何かあった時に対処が遅れてまいそうでなぁ』


『某も姉上と同意でござる』


「そうか…うーん。アルマさんに相談しに行くか」


『さんせーい!』


指輪の中に入る事に反対の意見が出ては暫し悩んだ後にペットや使い魔と言えばアルマに聞いた方が一番だろうと相談することを提案すれば三匹が頷くのを見てやらなければいけないリストに加える。

取り敢えずやらなければいけない事が決まれば向かおうとベッドから降りて手を差し出せば少し気を使ってくれたのか白銀は右の袖に隠れるような位置に巻き付き、黒鉄は左の袖に隠れる様に二の腕に張り付く。

マオはいつもの定位置の襟元に収まれば部屋を出ると少し雰囲気の変わったミュラと鉢合わせした。


「お、おおお、お兄ちゃん!久しぶりですっ!」


「久しぶり、だな。俺が居ない間大丈夫だったか?」


「は、はい!アランくんがいつも送り迎えしてくれていたので!」


「ほう…アランとなぁ…?」


『なんや!甘酸っぱそうないい感じのネタがそこにある気ぃがっ!!』


『姉上…無粋な勘ぐりは嫌われますぞ?』


『でも、たまに部屋に会いに行くけどミュラは凄く楽しそうなのー!』


頬を赤く染めながら照れたようにアランの名前を出すミュラに何か進展があったのかと思い宿の外まで一緒に向かう。

自分が居なかった間に道具屋や本屋で色々と買い物をしたり街を案内してもらったりとアランと一緒に楽しく過ごしていたのが分かる。

ライアも昔はこんな事があった様な気がしなくもないが友人達と遊んだ記憶しか思い出せず小首を傾げる。

宿屋を出ると出待ちをしていたアランと鉢合わせれば出会った当初に比べて人の話をちゃんと聞く余裕が出来ているように感じ、ミュラは良い意味で成長の助けになってくれているんだろうなと思う。


「ひ、久しぶりだな、アニキ!」


「久しぶりだな。俺が居ない間、ミュラちゃんのボディーガードしてくれてたんだろ?」


「お、おう!ミュラに何かあったら大変だからな…でも、今日はアニキが居るなら師匠の所に…」


「待て待て。色々とやらなきゃいけない事があってな。暫く付き添いが難しいからアランに引き続きミュラちゃんの事、頼めるか?」


「……!任せろ、アニキ!行こうぜ、ミュラ!」


「う、うん!お兄ちゃんまたね!」


今日は一緒にいられないのだろうかと言うような目でアランが見てくるので少し考える素振りを見せた後にライアが提案すると快く承諾される。

ならばとミュラの手を握り走っていくアランを見て二人の後ろ姿を見ながら手を振る。


『はぁぁ…こっそりついて行きたいわぁ…』


『姉上…張り倒しますぞ?』


白銀と黒鉄の背を叩き落ち着かせながらミュラとアランとは別方向へとライアは歩き始めるのだった。

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