43-水辺の恐怖

溶かしたらヤバい事になるとライアは本能的に感じ取り黒鉄に指示を出そうとそちらを見れば既に魔法の用意が出来ていたらしく瞳が赤く光る。

ならばと白銀を見て手早く指示を出す。


『彼の者に清き炎による最後を…炎葬えんそう


「白銀!地針だ!」


『え、旦那はんが相手するんやないの?』


「凍っていても眼球を動かして俺を見たんだ。嫌な予感がする」


『間に合わんかったら堪忍やで!』


インベントリに片手剣をしまい槍を取り出すと熱さを気にしている暇などないと言わんばかりの表情で魚のエラ部分を狙い渾身の力を込めて槍を突き刺す。

思ったよりも魚の表面は硬く刃が途中で止まってしまいライアは舌打ちをしながらもう一度槍を引き抜き突き刺す。

肌を炎が焼くような痛みを感じるが槍がエラ部分を突き抜ければ身を引く。

ダメージが通り魚の体力が3分の1程になったがまだ残っている。


『若!何事で!?』


「くっ…万が一の為に広範囲の雷魔法を用意してくれ、黒鉄…っ。マオ!さっき休んだ木の上に避難しておけ!」


あまり見たくはなかったがこの敵のベースとなった魚に見当が付いた。

違う個体と行動を共にしていたのは餌を確実に自分に近寄らせる為の策だろう。

今度は双眼鏡のような遠い敵も確実に姿が見えるような道具も用意しておかなければいけないと思うが、この後を乗り切れるかが問題であった。


『用意出来たで!奴を穿て、地針!』


魚の地面に魔法陣が形成され針が貫くが既に口当たりまで氷が溶けてしまっていた。

氷と共に地面から突き出した土の針が魚を貫くと同時に甲高い奇声が辺りに響き渡る。

魚は光の粒子となって消えドロップ品を落とし消え去るも、川の水面に大きな波紋が拡がりつつあった。

眉間に皺を寄せながらインベントリから回復薬を取り出し蓋を開ければ一気に飲み干す。

口の中に広がる苦味など気にしていられない。


「白銀!水の範囲魔法の用意を!黒鉄、白銀が水魔法を発動したら雷魔法を撃て!」


『忙しないなぁ!もう!』


『承知!』


水面に拡がる波紋の幅が徐々に狭くなり段々と表面が盛り上がってきているのが見える。

無駄に戦闘を行わずに調査だけして帰ればよかったと後悔するものの今は生き残る事だけを考えるのが先決だ。

先程の攻撃でダメになってしまった槍を捨て再度片手剣をインベントリから取り出すのと同時に膨れ上がっていた水面が爆ぜた。

体表を赤く染め上げた興奮状態の先程の魚が8匹程の群れでライア達の方へと飛び掛ってくる。

一匹倒したお陰か魚の名前が分かれば頬を汗が伝う。


「ピレゲア…要注意だって覚えておくぞっ!」


『すまん!旦那はんもうちょい耐えてや!』


『くっ!某がもっと大きければ!』


「もっとちゃんと防具も用意しておくんだった、なっ!」


『パパー!何か、何か使えるのないのー!?』


飛び掛ってきた一匹の口を目掛けて剣を突き出し貫いては抜く為にピレゲアを蹴り飛ばすと地面に転がり跳ねるのを見つつ、次に迫って来た二匹の鋭利なヒレが脇腹と太腿を切り付け痛みに眉間に皺が寄るもののその後に続く攻撃をいなす事に集中する。

片手剣にヒレがぶつかる音と身体に切り傷が付く度に漏れそうになる己の悲鳴を奥歯を噛み締め堪えると、地面を駆け再度直線上に並んで突撃してこようとするのを見てライアは片手剣を再び構える。

残すは七匹、自分の体力を見れば半分に近い。


『くっ、大技となると詠唱に時間が掛かるんが難点やっ!』


『若、耐えられますか!?』


「なんとか、やってみるだけだっ!」


『パパをー!!虐めるなぁァァァー!』


「マオ!?」


大きな掛け声と共に木の上に居たはずのマオがライアの傍まで来ており思わず手を伸ばせばポーチから何か玉のような物を取り出すとピレゲアに向けて投げつける。

何を投げたんだと思えば何か火花のようなものが弾ける音がすると宙に浮かんだ玉から眩い光が放たれた。

思わず眩しさに目を覆えば方向を見失ったピレゲア達が転ぶ音が聞こえる。


『ナイスや!小さな兄さん!激流よ、我らの敵を呑み込み喰らえ、水竜牙すいりゅうが


『我が息吹は神の裁き成り、紫雷哮しらいこう


白銀の目から青白い光が放たれるとライアの目の前に巨大な魔法陣が形成され事実上で語られる水で作られた竜が顔を出すと目の前で転んでいたピレゲア達を喰らい空高くへと舞い上がる。

続いて黒鉄の目から紫色の光が放たれると上空に向けて扇状に広がるようにして雷の光線が放たれる。

舞い上がった水の竜を貫くようにして光線が当たれば黒焦げになったピレゲアの群れが光の粒子となって消えドロップ品が降り注ぐ。


「あの位置なら…泣き叫ぼうが川には届かないな…」


『旦那はん!傷の手当が先や!』


『某の治癒魔法を使うには場所が悪過ぎるでござる!先程地図を出していた大樹の麓まで行けまするか?!』


『パパー!死んじゃやだよー!』


『小さな兄さん…まだ殺したらアカンで…』


三匹のやり取りを聞きながら気が抜けたような笑みを浮かべつつ震える身体をなんとか奮い立たせて立ち上がれば片手剣を杖代わりにドロップ品を回収してから大樹の麓へと向かう。


「やばいな…こんなに疲れる戦闘は初めてだ」


『旦那はん、無理せんと…少し体を休めた方がえぇ…』


『少し寝てくだされ!某がちゃんと治しておきますゆえ!』


『パパー、早く元気になってねー?』


インベントリから回復薬を取り出し飲み干せば口の中の苦味に眉を寄せつつ、続いて敵避け用の道具を取り出し少し広めに設置してから発動させる。

敵に襲われる心配を取り除いてから腹が減ったら食べるように三匹用の食事を用意してから少しだけ寝させて欲しいとライアは目を閉じるのだった。

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