44-恐怖の後の決意
少しだけ寝るつもりが何時の間にか完全にログアウトしてしまう程、今回の戦闘は疲労が蓄積されたのかもしれない。
あそこまで追い込まれた経験などないし白銀と黒鉄が居なければあの場で死んでいただろう。
まだまだ自分は弱いなと思いつつ外が暗くなっているのを見て起きたついでにカップラーメンに湯を入れる。
スマホにArcaで撮影したスクショが届いていることを確認した後に時計を見れば雷亜がINしていた時間から計算して4時間程経過している事に気付けば暑いのを我慢してカップラーメンを胃袋に収める。
「マオ達は大丈夫だろうか…ちゃんと敵避けの道具は使った、よな?」
足早にカプセルの中へと戻ればArcaを起動すると最後に見た大樹の麓で、周りには結界がちゃんと貼られているのが見えて安堵の息を漏らす。
腹部に重みを感じそちらを見れば3匹が寄り添って眠っている。
身を起こしつつ無事を確認できて安堵したのも束の間、遠くに人影がある事に気づく。
月の光に照らされ纏っている鎧が神秘的な輝きを放っている。
呆然と川を眺めていたその人物は夜も関係なく行動しているのであろうピレゲアを見付けるとゆっくりと近付いたかと思えばヒレを掴み引き千切った。
「なっ…!?」
続いてもう片方も引き千切ると叫ぼうと口を開いたピレゲアの口に拳を捩じ込み叫べなくするとその身体をもう片方の手で拳を握ると決して柔らかくはない胴体を殴り付ける。
悲鳴もあげられず必死に抵抗しようと足をバタつかせるが、段々と同じ箇所を殴られ抉れてきたピレゲアの身体から力が抜けていく。
体力がほぼ底を付いているのだろう事が見てとれると人影は殴るのを止めたかと思えば人の顎の領域を超えるほど大きな口を開けえぐれた場所に噛み付く。
生きたまま捕食する姿を見てライアは思わず己の腹の上で寝ている3匹へと目をやる。
誰も起きていなかった事に安堵しつつ絶命したピレゲアを食べていた人影が居た方へと目を向ければ結界の前へと何時の間にか来ておりライアは息を呑む。
心臓の鼓動が早鐘を打ちせめて三匹は守らなければとインベントリから必要になるかと用意しておいたタオルに起こさぬ様に包むと己の背後へと隠す。
結界越しに目が合いその瞳が赤く光っているのを見て砂地で遭遇した這いずる黒い何かを連想させる。
“早く、早くこの場から居なくなれっ…”
インベントリから短剣を二本取り出しもしもこちらに来るようなら例えライアが死んでもまた街からスタートするだけなのだからマオ達だけは殺らせはしない。
緊張が続く中、月がゆっくりと雲により隠れていくとその人影は空を見上げ苦しむ様に頭を抑えながら雄叫びをあげる。
鎧から輝きが消えると渦巻くように黒いモヤがその人影を包み込み目や鼻、口から取り込まれていく。
黒い塊と化すとライアから背を向け川の方へと向かい動き出す。
『ニ…クイ…ニク、イ…王…ユルサヌ…ワレ、ラ……ウラ…リ…ユル…ヌ…ア、ア゙アァ…』
様々な人間の声が寄り集まったような気味の悪い声が耳に届く。
ゆっくりと1歩ずつ進むように動く黒い塊を見つめる事しかライアには出来ない。
本来ならば勇ましく立ち向かえば良かったのだろうが適わない事が本能的に分かったからだ。
黒い塊が川向こうの森の中へと消え去ればやっと呼吸ができるようになる。
全身から吹き出した汗が乾く頃には空も日が顔を出してきていた。
「強く、ならないと…守る為には、強く…」
このゲームはプレイヤーの命は幾らでもあるがNPCは一度きりの命なのだ。
まったりとプレイしたいと思っていたがそれにはやはり強さも居る。
改めて実感した自分の弱さに眉間に皺を寄せながらふと地面を見ると何か光る物が落ちていた。
結界の中に落ちているソレを手に取れば煌びやかな装飾の施された装飾品だった。
『あれ〜?暗いー!パパはー?どこー!?』
『小さな兄さんどないしはり…うわ暗っ!いてっ!叩かんといてや!』
『ぐえっ!姉上!小さい兄殿!某の上で暴れ…っ…うごっ!』
タオルの中に包まれたマオ達が騒ぎ始めたのを見てライアは苦笑を浮かべつつ装飾品をインベントリに入れる。
もぞもぞとタオルが動いているのを見て剥がしてやるとマオが真っ先にライアの顔に飛び付き、暗がりのせいか変に絡まってしまっている白銀と潰されたのが見てわかる黒鉄が居た。
「おはよう、昨日はすまなかったな」
『仕方あらへんて!それより、旦那はんはもう大丈夫なん?』
『怪我は大丈夫ー?痛くないー?』
「もう大丈夫だ…。今は俺よりも黒鉄の方がヤバそうだぞ?」
『こ、これぐらい…別に…大丈夫で、ござるっ』
夜に見たあの黒い影がこちらを襲っていたらこんな会話はすることが出来なかっただろう。
改めて見れば、自分は周りの人間に恵まれただけでこのゲームの中では弱い部類に入る。
ほぼ封印されているステータスは殆どが初期値である為この辺の敵にしか通用しない。
「次に行くべき場所は、王都だな…」
『パパ?』
「…取り敢えず、帰るか」
『はよ帰ろ?酒場の料理と酒が恋しいわぁ』
『…姉上、オヤジくさ…あいたぁっ!』
いつもの様に笑みを浮かべ三匹の頭を優しく撫でてから敵避けの呪具を回収する。
白銀は腕に巻き付き、黒鉄は肩へと移動するがマオだけはどことなく雰囲気の違うライアに戸惑いの表情を浮かべながらも襟元に収まる。
この場を離れる支度が終わればライアは三匹を連れ街へと戻るのだった。
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